鞍家小典之奇天烈事件帖~影、冴ゆる~

宮国 克行(みやくに かつゆき)

第1話 序章

「ふふん」

「なんですか」

「いやね。よかったな、と思ったのよ」

「何がです」

「あなたが素直で」

「す、素直?」

 小典は素っ頓狂な声を上げた。

 桃鳥の言っている意味がまったくわからなかった。

 二人がいる場所は、奉行所内にある奧の一室。桃鳥がよくいる部屋だ。小典は、桃鳥を尋ねて来て、少し、雑談をしている最中に、突然、桃鳥から、、と言われ、その通りに動いた後の言葉であった。

「一体何だったのですか?あの、右手を前とか左足を斜め前にとか大の字の体勢になれとかなんとかは」

 小典は腰をさすりながら聞いた。

「さあ。わたしもよくはわからないわ」

「え」

「ふふん。そう険しい顔しなさんな。別にからかっているわけではなくて、ほんとうにわたしも訳がわからなかったのよ」

 そう言われてしまえば、小典は尚更わからない。

「これから、わたしが見ていた事を話すわ。どうやらだから」

 そう言って話し始めた、桃鳥の話の内容は、にわかに信じ難い、奇っ怪な内容であった。

 



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