第18話 恋するミネア
アルベルトは、主に木とレンガで作られた家や売店などが連なっており、冒険者などだけではなくカップルで歩いていたり、子連れの親など、生活感の溢れている、フリーメルの北部に位置する商業区のとある武器や防具、治癒薬瓶(ポーション)などが売っている店先でミネアが来るのを待っていた。
アルベルトが周りを見渡してミネアが来るのを待っているとアルベルトの頭にふと懐かしいような光景と声がちらりと頭を横切る——
——あっ、そこにいたんだー、ごめん待たせた?……
——だって、自分で言って自分で悩むって、アハハハ……
——……約束だよ……
——さようなら……
「……ッ! 今のは……?」
「はあー、はあー、お待たせしました! ……アル様?」
アルベルトは息遣いを荒くしたミネアによって我に戻る。しかしさっき頭をよぎった先ほどの光景のことを考えてしまう。
青い髪色の少女の心配が混じった顔、笑った顔……そして悲しい顔。どれも全て自分の知らない顔だった。しかしその少女の事は何か重要な事だと思ってしまう。そしてアルベルトがその少女の事、その少女が言っていた、約束の事をどうにかして、一握りでも頭からひねり出そうとして掴んだ記憶は強引にかき消されてしまう。それでもアルベルトは少女の事を考えるというよりか、なぜか思い出そうとしている。そう、これは大事な事だ、たとえ会ったことがなくてもその少女は大事な——
「アル様!! ……どうかされたんですか? その、私と……行きたくありませんでしたか?」
「え? いや、そんな事はない……少し考え事をしてただけだ。俺はミネアに付き合ってもらって嬉しいぞ、ありがとう」
「アル様……! それでは行きましょう!」
そしてアルベルトとミネアの二人は店の中に入っていく。
店の中に入ると美しい装飾で飾られた剣、磨かれた鎧、治癒薬瓶(ポーション)などと、魔獣や魔物などと対峙する旅に役立つ物がたくさん置かれていた。それだけではない、干した肉や果実、さらには塩で漬け防腐を施した肉といった携帯食まで置かれていた。それに……。
「その、アル様? どっちがアル様にとって好みですか? この透け透けの服か、それともこっちの短いスカートか。アル様がそうしろというのであれば全裸でも構いませんよ?」
(おいおい、最初の二つは許せるレベルだが、最後のやつはなんだ……)
「三つともダメだ、せめて羽織る物だけでも買っていればいいだろう」
「そうですわね……残念ですわ……ですがアル様がそうおっしゃるのであれば喜んでそうしますわ!!」
ここの店は旅に必要なもの以外にも一般的に着る服まで売っていた、それも際どい……
「そういえばアル様? アル様はなんの武器を使ってるんですか? わたくし、アル様が武器を持った姿を見ていないので」
「ああそれなら普通に剣を使ってるが、そういえばあの剣には鞘帯がなかったな。ミネア、悪いが鞘帯がどこにあるか探してくれないか?」
「はい! わかりました!! 何かあったらどんどんこのわたくしに命令してください! 例えそれがどんな恥ずかしいことでも喜んでやりますから!!」
ミネアは息を荒くし体を武者震いさせながらキラキラとした目でアルベルトに向かって一歩、また一歩と詰め寄っていく。
「いや、そこまでのことはしないから。わかった、困ったことがあったら言うから」
アルベルトがそう言うとミネアは凄いスピードで店内を物色する。
「さてと、俺も探すか——」
「アル様ー! ありました! 褒めてください! 頭を撫でてください! 抱きしめてください!!」
アルベルトが探そうとしたと同時にミネアがアルベルトの元に大量の鞘帯を両手で抱えて持ってきた。
そして何気なく、褒めて撫でて抱きしめての蓮撃をアルベルトにぶつける。
「ああー、うんわかったから離れてくれないかミネア……ほら、これでいいか?」
アルベルトがミネアを少し遠ざけるとミネアの頭にそっと手を近づけポンポンと頭を撫でた。
しかし驚いたことにミネアはいたって冷静だった。
そしてアルベルトが自分の剣に合う鞘帯を決めると、他に買うやつがあるからとミネアと離れる。
一方のミネアは撫でられた直後から体を一切石像のように動かなかった、そして数秒が経ちミネアは床にしゃがみこみブルブルと体を震わせていた、そんなミネアの顔は赤く紅潮し目はすごく泳いでいた。
(ア、アル様に撫でられてしまいましたけど……じっ、実際にされると照れてしまいますね——)
「おーい、ミネアー、少し手伝ってくれないかー?」
「ひゃう! ……はっ!はいぃ!! 今行きますッ」
ミネアはアルベルトに呼ばれて少し体を跳ねらせて驚いたが、勢いよく立ち顔を紅潮させながらもアルベルトの元に、肩を強張らせて歩き出す。
アルベルトの元に来たミネアはアルベルトに照れを隠すように顔をそむけている。
「ミネア? これを少し持っ——」
「はっ、はいぃ!! わかりましたから近づかないでください!」
「どうした? 俺、なんかミネアが嫌がることしたか? もしそうであるのならば謝る、すまない」
「違うんです!! そうじゃなくて……ッ!? 持ちますから!!」
アルベルトは、必至に手を振り回して弁解しているミネアを不思議そうに顔を近づけ見つめると、ミネアがますます赤面しアルベルトが両手で大量に持っている治癒薬瓶(ポーション)を全部持ち出した。
当然のことながらミネアはバランスを崩し治癒薬瓶(ポーション)は空中に放り出されて床に落ちるのを待っている状況になった。
するとその時——
「大丈夫かい? お嬢さん」
その男は空中に放り出されていた治癒薬瓶(ポーション)を一瞬で受け止め、ミネアを抱きかかえていた。
ミネアは何が起こったのかわからないと言う顔をしていた。一歩のアルベルトは突然店の奥から出て来た、その男の俊敏な動きを見せつけられたにもかかわらずその男のプルプルと震える足にしか目が行かなかった
「えっ? ええ……」
ミネアがその男をじっと見つめる。そしてその男もミネアを見つめる。
しかしながら次の瞬間——
「気持ち悪いので触らないでくださいまし? あなたに触れられて体がとっても拒絶反応を起こしてますの。だいたいあの治癒薬瓶(ポーション)は床に落ちても割れないよう作られているでしょうに」
ミネアは勢いよくその男から離れ服を手でわざとらしくはらい、その男をキッ、と嫌悪感を込めてゴミを見る目で見ていた。
それを受けて男は返す言葉がなくただ呆然と立ち尽くし、ミネアに謝る。
「……は、はい、すいませんでした」
そしてその男は落ち込んだ様子で黙って去っていく。アルベルトは一瞬にして終わったその男のアピールにただただ心の中で手を合わせることしかできなかった。ミネアはというと治癒薬瓶(ポーション)をもう一度持ち上げカウンターに運ぶ。
「アル様? どうかされましたか? 早く購入してこの汚ったない店から立ち去りましょう?」
「あ、ああ」
アルベルトは一方的なミネアにこうこの言葉を返すしかなかった。
そしてカウンターに携帯食、鞘帯、旅で羽織るマントに大量の治癒薬瓶(ポーション)などを置いて店主を呼ぶ。すると出て来たのは先程のあっけないナンパ男だった。そしてその男が会計を済ませ通貨を要求するが。
「半額にしてくださいまし? まさかさっきの気持ち悪い事をわたくしにして無事で済むと思いましたか? ま・さ・か、そんな事考えてないですわね?」
「りょっ、りょうかいしました、はんがくでいいです」
そうしてなんだかんだあったが無事に店を出ることができた。
「アル様! わたくしはここで家に帰りますのでまた明日会いましょう!」
「ああ、付き合ってくれてありがとな、ミネア」
「えぇ、こちらこそいい思いをさせていただきありがとうございます!! それでは、また」
そういうとミネアは去っていった。アルベルトは旅の準備が終わったのでギルドの自室で休むことにした。
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