創生と破滅の英雄記

堕天使と天使

第1話 アルテマ・リリルカール

 朝日が昇る清々しい朝に、元気な声が響く。

「お母さん! 行ってきます!」

「気をつけてね!」


少年の母親がそう答えると、少年は買い物客でにぎわっている商業区に向かう。


「おっ、ぼうや、今日も元気がいいな! どこに行くんだい」

「……おつかいです!」

「おぉーそうかー、何か買っていくものはあるかい?」

「あいにく……今日は果物を買いに行くんです」


少年は申し訳なさそうにしながら答える。


「そうか、気をつけてな!」

「はい!」

そう元気に答えると少年は走り出す。


「あの子、ここ最近物を買っては何処かに行ってしまうわねー」

「好きな子にプレゼント、とか?」

「ふふっ、若いっていいわねー」


少年は目的の場所に着くと店の人から物を買い、そしてどこかに向かって走り出す。


「おっと、ここの道だった」


行きすぎた道を戻り、入り込んだ路地をそのまま早歩きで歩いていると、二つ目の目的地に着く。


「やっと着いた」


そこは人々が行き交い、待ち合わせなどとして使われている石でできた美しい噴水が特徴の憩いの広場だ。


「どこにいるんだろう」


少年は辺りをキョロキョロしている。


「こっちだよー」


あたりを見渡していると突然後ろから声をかけられる。


「あっ、そこにいたんだー、ごめん待たせた?」

「さっき来たばかりだから大丈夫だよ」

「ありがとう」

「なんで?」

「えっ、なんでだろう?」


少年は首をかしげる、その仕草を見て少女は吹き出してしまう。


「フフフ、アハハハ」

「なんで笑うのさ!」


「だって、自分で言って自分で悩むって、アハハハ」


「もう! からかわないでよ!」

「ごめん、つい」


目の前の少女はからかいを含んだ顔でそう言う。


「それよりも今日はどこ行くの?」


少女は少年のとなりに座ると今日はどこに行くのかと質問する。


「ううん、実はね今日はこれを渡しに来たんだ」


少年はそう言うとポケットから小さな包みを取り出す。


「はい! これ!」

「これは?」


隣に座る少女は不思議そうに首をかしげる。


「これは食べるものなのです!」


少年は袋の中から白い果実を取り出し、少女に手渡す。しかし少女は戸惑った顔を見せる。


「でもこれは……」

「もう! 僕が食べちゃうよ!!」

「あっ、待って! 」


少女はその果実を食べようとしている少年を止める。


「その果実はお守り用の果物なんだよ?」

「へ、へぇー、そ、そうなんだー」


手に持っている果実のおおまかな説明を聞いた少年は残念そうにしながら下を向く。そんな少年を見ながら。


「でも、私嬉しかったよ」

「え? 食べれないじゃん」

「でも、ずっと残る、もし離れ離れになってもずっと一緒だと思えるから、だからありがとう!」


少女は哀しそうに微笑む。そんな微笑みに気づかない少年はその微笑みに疑問を抱いていないようだ。


「これ私から……昔から大事にしてる石」


少女はそう言うと蒼い石を紐で通したペンダントを首から外して渡す。


「えっ、でもずっと大事にしてるんでしょ?」

「私ももらったから、私からのプレゼント!」

「そうゆうことなら、もらう以外ないね! ありがとう!」

「えへへ」


すると隣に座っている少女は照れながらも言葉を紡ぐ。


「癒しの神よ、その身に纏し祝福を、我らに分け給え……よし! これでずっと一緒だね!」


少女はそう言うと真剣な顔になり。


「このペンダントをみたら、私のこと、思い出してね」


そんな少女の言葉に、何故か別れの言葉を聞いたような気がして必死に言葉を伝える。


「でも毎日会えるから、これからもずっとこれから先も一緒にいればいい……」


少年の頬を一筋の感覚が伝う。


「えっ、なんで……」


少女は目に涙を浮かべながら伝える。


「……約束だよ」


少女は涙を浮かべながら悲しそうに言う。少年は訳がわからず混乱している。すると町のどこかで爆発音が響

く。


「えっ……なんだろう……さっきの音」


急な出来事に不安を感じていると、目の前の少女は立ち上がる、そして。


「さようなら……」


少女はそう哀しそうに言うとどこかにいってしまう。

一方、少年は別れの言葉を聞いた瞬間、大事なものを失ってしまったような感覚に襲われていた。

頭の中から彼女と一緒に過ごしたところだけが次々と消されていってしまう。消されてしまった記憶を修復しようと少年はその部分を口に出していく。


「確か今日は、幼馴染の×××× にプレゼントを渡そうと……って、あれ? これは幼馴染の××××に渡されたペンダント!……なんで名前が思い出せないんだ!!……僕は……誰と居たんだろう……?」


少年はついに記憶を修復するのを諦めてしまった。


「そういえば!!」


爆発音がしたのは自分の母親がいる家の近くだと思い出し、少年は顔を上げる。


「行かなきゃ……行かなくちゃ!」


少年は駆け出す、母親の安全を確かめるために。

少年は朝来た道を戻り、商業区の大通りに着く。


「あっ……」


商業区に出た少年は目の前を見たまま体がピタリと止まる。

目の前に広がる光景はまさに地獄絵図だった。神話や物語で出てくる醜い怪物が建物を壊している。そして昔からの知り合い、顔見知り、そして、今朝何気ない会話を交わしたおじさんを。


「殺している」


少年は全力で駆け出す。


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……!」


少年は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらさっき見たのは現実ではないと自分に言い聞かせる。恐怖で押しつぶされようとしてる胸を押し殺し、やっとの思いで自宅に着く。

(家は壊れてない、お母さんは生きている!)

少年は安堵した表情をしながら家に向かってそのまま走る。しかし。


「ぐっ!!?」


少年は何かにつまずく。


「嘘だ……」


少年は自分を転ばせた物体を見る。そこには自分をずっと愛してくれた、自分の一番大切な人が血まみれで倒れていた。少年は這いつくばって近づく。


「お母さん……おきて、ここは危ないよ……」


だか少年の声に母親は答えない。


「おきて……よ」


少年の心が絶望と損失感で押しつぶされようとしている時、少年の母親を殺したとされる怪物が醜い声を発しながら近づいてくる。


「キュルァァァァ!」


少年は今までの幸せな生活では抱かなかった感情を、今まで思うことのないだろうと思っていた感情を一気に爆発させる。


「……許さない……絶対に……殺す!!」


少年は怒りと憎しみに身を任せ駆け出す。


「この化け物があぁぁぁぁあぁああ!!!」


目の前にいる醜い化け物に怒りと憎しみを乗せて思いっきり殴ろうと、少年は身体をひねらせ、腕に力を込める。しかし目の前にいる怪物は不敵な笑みを浮かべている。そして怪物は腕を少年に向けてなぎ払った。


「くはぁっ!!?」


少年は空に放り投げられる。


「……」


意識はある…ただ、受けた痛みと力に絶望と憎しみを浮かべているだけだ。


「…………」


少年は深い谷底に吸い込まれていく。怪物の姿、醜い鳴き声、特徴的な目。そして蒼く光るペンダントを頭に焼き付けながら。

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