第83話 Bird Scramble ⑩


 先手は宇佐美側からとなった。

 ボールはTJの手からパスされてハミルトンへ、並びはちょうどTJ、クリシナ、ハミルトンと縦に伸びている。オーソドックスにTJとクリシナでリリエンタールとレオニダスを抑えてからハミルトンで抜けるつもりなのだ。

 様子見の手段、相手の能力を測る上ではベターな手だ。ゆえに彼等もこれで点を取れるとは思っておらず、機体能力を見る事が目的であった。

 

『ボクはレオニダスを、心愛さんはリリエンタールを頼めるかナイル?』

『うん、わかった……ナイル?』

『とりあえず始めてもらっていいかな?』

 

 呆れた声の宇佐美に急かされてTJが走る、狙いはレオニダスだ、正面から当たりに行って動きを封じようとしたが、下から盾で突き上げられて横へ弾き飛ばされた。

 

『ぶべらっしゃばーーー』

『貴族君!?』

 

 絵面は間抜けに見えるが、TJのタックルの入りはお手本通りの完璧なものだった。勿論容易く止められるとは思っていなかったが、それでも数秒は封じられると思っていた。

 その隙にクリシナがリリエンタールに挑み、同時にハミルトンが抜ける筈だった。

 

『まさかTJが秒殺されるとは』

『ど、どうする? 一か八か突っ込む?』

『いや、始まったばかりだし無理する事ないよ』

 

 おかげで作戦がガタガタとなり継続は不可能となった。

 このまま挑んでもTJの二の舞になるだけだろう、闇雲に突っ込んでも無駄に機体がダメージを負うだけなので、宇佐美は右手に掴んだボールを手放してフィールドに転がした。

 

『賢明ですね』

 

 厚の本当に褒めてるのかどうかわからない呟きが聞こえたところで最初のラウンドが終わった。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 


 観客席から観戦してるメンバー一同は先程のラウンドの感想を思い思いに口ずさんでいる。

 

「流石はプロですね、兄さんならあの場面をどう回避しますか?」

「我なら盾を掴んで踏ん張るな」

 

 と桧山兄妹がもしもの可能性を検討する。

 

「あっしは動きが見えてたけど何故回避できなかったかわからなかったんでやんすよ」

「レオニダスはTJの動きに合わせて腰を落としたんだよ、僕達からならその様子がよく見えてたけど、TJからだと盾が邪魔でレオニダスの動きがわからなかったと思うよ」

「あっしのセンスバチと同じ使い方でありやすね」

「そうだね、須美ちゃんなら強引に押し切れただろうね」

「そ、そうかな、瑠衣君ならもっと上手くやれると思う」

 

 初心者の炉々に解説する瑠衣と須美子、瑠衣の言う通り須美子のジックバロンなら力押しでなんとかなっただろう。

 

「自分もよくわかんなかったんすけど、レオニダスとTJの性能差てそれなりにあった筈っすよね、なのにあんなに弾き飛ばされるのはなんでっすか?」

「力の流れを上手く利用しとるんやな、多分あのオカマは武道やっとるで」

「そうなんすか」

「たとえば合気道に相手の力を利用して流れるように体勢を崩したり投げ飛ばしたりする技があるんやけど、同じように相手の走る速度を殺さずに脚を盾で持ち上げたら、そのまま尻にあるスラスターを噴射して一気に横へポーイや。横の方が流しやすいしな」

 

 武道家なためか、相手が同じく武道をやってるとめざとく反応する武尊、彼だからこそクイゾウへ説明できたともいえる。

 色々感想が飛び交う中、祭と恵美はただ黙って成り行きを見守っていた。恵美はコーチとして宇佐美達の動き方の修正方や改善のためのトレーニングを考えているのだが、祭だけは不安げな眼差しでただ見ているだけであった。

 

 

 ――――――――――――――――――――



 攻守交替して厚組の攻撃となった。

 リリエンタールが手の中でボールを転がしているのが見える。ワイドレシーバーと言っていたからやはり彼が攻めるのだろう。

 

『とりあえず貴族君と水篠さんがレオニダスを止めて、僕がリリエンタールにアタックするでいいかな』

『私はそれでいいよ』

『異存はありませんトモーロス』

『語尾キャラにハマったの?』

 

 ひとまず無難な作戦、まだ相手との実力差も能力もわかっていないのに大胆な戦法はとれない。

 三人が配置につき(ハーフライン手前で横一列)、リリエンタールがモーションにはいる。レオニダスが先に動いて、三秒遅れてリリエンタールが走る。

 

 当初の作戦通りまずTJとクリシナがレオニダスを止めに入る。TJは先の反省を活かし盾を持たない右手側に回り込んでホールドを試みるが、片手で抑えられた。しかしその隙にクリシナが盾毎腕にしがみついたのでレオニダスは一時的に怯んで動きを止める事に、だが流石はプロ、わざと倒れて二機を下敷きにする事で封じ込めた。

 その間にリリエンタールはハーフラインを超えてハミルトンと距離を詰めていた。

 

(来る! どっちから抜ける?)

 

 リリエンタールはハミルトンと数メートルのとこまで来、そこでブースターを噴射して急加速し始めた。

 

『正面!?』

 

 予想外だったが、正面から来るのであれば飛びかかれば止められる筈だ。リリエンタールはバックスの機体なので重量はそこまであると思えない。

 ハミルトンでも止められる、そう思っていたが見積もりが甘かった。

 胸に手をかけられたかと思えば、そのままあっさり後ろへ押し出されたのだ。体勢を崩したハミルトンは情けなくもリリエンタールを通してしまう。

 

 宇佐美は期待のスペックに気を取られて、現状の運動エネルギーや位置エネルギーに目を向けていなかった。加速は力なのだ。

 

『一点先取されたか』

 

 振り返る。リリエンタールは既にエンドラインを超えてタッチダウンをきめているだろう。

 

『なんで』

 

 だが実際に見えた光景は、リリエンタールがエンドライン手前で立ち止まり、こちらを向いてフィールドにボールを転がしていたのだ。

 それが意味するところは、つまり。

 

『ふ……ふ・ざ・け・る・なぁ!!』

 

 宇佐美の怒声がスピーカー越しにフィールドへ響き渡る。

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