第73話 Epilogue

 健二にとって最後の練習が始まった。最後ゆえどのような編成or練習法なのかと全員が固唾を呑んで恵美の言葉を待っていた。

 しかして、彼女の口からでたのは拍子抜けするような内容であった。

 

「好きにやりな」

 

 要約するとルールなんて気にせず思い思いに動かせばいいらしい。ルール無用、つまりなんでもあり、合法的に気に入らない人間を痛めつけてもいいということ。

 

『よし! じゃあ僕は武尊と一緒に健二を虐めるよ!』

『宇佐美テメェ! ちくしょうこのやろう! 受けて立ってやらあ!』

『ところがどっこい、ワイは瑠衣先輩とドスコミ先輩と一緒に宇佐美をはっ倒すで』

『なんだって!』

『まあそういう事だから』

『ごめんねぇ』


 なんと言う事だろう、宇佐美は最後の最後で仲間と思っていた武尊に裏切られてしまった。あろう事かチームで一番強い瑠衣と組んでだ。

 このままでは一方的にやられてしまう、そう思った宇佐美は最後の手段にでた。

 

『健二、僕達はやっぱり親友だと思うんだ』

 

 健二の機体クレイに向けて右手を差し出した。図々しくも握手を求めたのだ。

 

『悪いがお前を倒す布陣はできてる』

『ムッフッフ、私が華麗にやっつけてあげるわ』

『自分久しぶりに活躍できそうっす』

 

 健二は祭とクイゾウと組んだらしい。エルザ・レイスとクイゾウが得意気にクレイと並んでいた。

 

『こうなれば僕も誰かと組んで、貴族君! 水篠さん! 僕と組んでくれませんか!?』

『申し出はありがたいのですが、この南條漣理、不覚にもこれから改造プランを練るところなのです』

「あ、私はこれからバイトあるから」

 

 漣理は整備棟へ、心愛はバイトへ行ってしまった。

 残るは枦々と桧山兄妹、一縷の望みをかけて声を掛けようとするが。

 

『あっしは自主練しておりやす』

『私と兄さんは枦々さんに付き合いますので』

『生きろ、兎の男よ』

 

 という訳である。全滅である。そして察した。

 

『これ僕が虐められるやつだ!』

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 それから数十分後。

 鋼鉄の囲みを飛び越して赤い影が疾駆する。小脇にボールを挟んだハミルトンがエンドライン目指して赤い残影を残して走る。目の前にはエンドラインとゴールポスト、そしてそれを守る人型バイクのクイゾウ。

 クイゾウがブーストを吹かせて思いっきりタックルを仕掛ける。ワイドレシーバーゆえ機体の荷重が軽いが、そこをブーストによる加速で補っていた。

 フォームも綺麗なタックルだったが、ハミルトンはクイゾウの目の前で急ブレーキをかけて止まり左へステップ、合わせてクイゾウも向きを変え、その瞬間右へ横跳びしてタックルを完全回避した。

 ハミルトンはそのままタッチダウンをきめる。

 

『よし! これで僕の四勝だ!』

 

 意外な事だが、ハミルトンは乱戦に強かった。

 まず機体が小さい事、規定サイズギリギリの小ささなうえ、スピード特化の機体、更にはACシステムによりほぼ人間に近い動きと反応ができる。

 例えるなら小動物が熊や猪を相手に逃げ回るような感じ。

 流石に馬力はないためアリとクレイ、ジックバロンのようなパワー機体からボールを奪う事が出来ないが、逆にボールさえ手にすればほぼ勝てる。

 

『勝ち誇っとるけど、あいつ瑠衣先輩との勝負は徹底して避けとるからな』

『ぐっ』

『逃げ根性ついてるわけだなあ? 宇佐美ぃ?』

『ぐぐっ』

 

 武尊と健二の言う通り、宇佐美は瑠衣のライドルとは徹底して勝負を避けていた。現状、ハミルトンの動きに完璧に対応できるのは瑠衣しかいない、それゆえ宇佐美は負ける可能性のあるライドルのいるエンドラインには一切近づかなかったのだ。

 

『か、勝つためには手段なんか選んでられないんだよお!』

『開き直ったっすね』

『その考え方嫌いじゃないわ』

 

 それはそうと、これはルール無用のデスマッチ的なもの、唐突に何かを閃いたらしい健二は宇佐美を除く五人にある提案をしてみた。

 

『六人でやっちまおうぜ』

 

 その提案に宇佐美以外の全員が乗っかった。

 

『いや! これスポーツ! スポーツしよ!』

 

 その後、宇佐美が謎の覚醒を果たして全員から逃げ切った話は割愛しておく。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「やっぱ俺さあ、このチームにいたいわ」

「え?」

 

 練習終わり、バス停でバスを待ってる時に健二がふとそう零した。隣にいた宇佐美と武尊はつい聞き返してしまう。

 

「このチームで全国目指したい、そう思う」

「うん、僕も健二にいて欲しい」

「ワイもこの三人でアホな事しながらワイワイやっていきたいわ」

 

 それは心からでた素直な想い、想いだけである。

 

「でも同時にさ、このチームと戦いたいて思う」

「つまり?」

「俺は決めたぞ……東でチームに入る、そしてテッペンとってスプリングランドにでる!」

「ほほお、おもろそうやんけ、そこでワイらと戦おうてか?」

「おうよ!」

「いいね、それ。僕もワクワクしてきたよ」

「じゃあ約束な、俺は東でスプリングランドを目指す!」

「僕と武尊も」

「せや、ワイらもスプリングランドを目指すで」

 

 拳を突き合わせて約束する、やってみてから小っ恥ずかしくなって三人は各々照れ笑いを浮かべた。

 

「こういう時こそあれ言うべきじゃね? Be win」

「あぁ、でもまた戦うためだからwinじゃなくてbattleかな」

「いや、fightの方がええやろ?」

「「それだ!」」 

 

 改めて。

 健二が最初に口火をきる。

 

「じゃあ行くぜ、Be Fight!!」

「「Good luck!!」」

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 そして、引越し当日。

 健二は新幹線の中でグループメッセージを眺めていた。そこには各メンバーから引越し祝いの言葉やら励ましの言葉、果てはよくわからない言葉などがあって盛り上がっていた。

 それらを一つずつ読み上げていった。

 

「ふっ……じゃあな」

 

 メッセージに「またな」とだけ残してスマホを閉じる。その言葉の下にはもう一つあり、それはシステムメッセージだった。

 

『枝垂 健二さんがグループを抜けました』

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