4.果報者の戦い(佐藤和久)
姉ちゃんが妊娠した。相手の男の人は逃げた。どうしよう。どうしようもない。
どうにもならんことをあれこれ考えるのは無駄やと思う。それでも、今日帰ったら家の空気どうなっとるんじゃろう、またケンカが始まるんやろか、イヤやなぁ、なんでうちはいつもこうなん? とかぐるぐるしとったらだんだんお腹までぐるぐるなってきて、稽古を抜けてきてしもた。なにしとんのやろ、部室になんか閉じこもって。三年生やのに、もうすぐ大会やのになぁ。
「失礼しまぁす」
ドアをノックする音がして、入ってきたのはなおやんやった。なおやんって呼んでるのは僕だけやけど。苗字で呼びすてってあんまり得意やないし、そやかて坂田くんって呼ぶのも他人行儀やん。ちなみに三谷くんはみたにん、富士野くんは哲郎やけんてっちんって呼んでる。中林くんは、中林くんやけど。
「きゅうちゃん、だいじ?」
だいじが大事やのうて大丈夫いう意味やって、こっちに越してからしばらく分からんかった。大丈夫、って答えようとして、なおやんの片足がひょこひょこしとるのに気づいた。
「どしたん、怪我?」
「うん。久しぶりに足の皮むけた」
「イタタタ」
「まあ、ちょっとなんだけど。救急箱のテーピングちょうどきれてて、そんでこっちに取りに来た」
あ、うそやな。って、思った。
なおやんは、ときどき、さらっとうそをつく。だいたいパターンがあるけん、一緒におるとだんだん分かってくる。見栄をはったり人をだましたりするうそは、あんまりつかんのよ。どっちかっていうと、相手に気を遣ったり、踏みこまれるのがイヤやったりするとき、本当になんでもない顔でうそつきよる。いまもたぶん、口実つくって僕の様子を見に来たんやないかな。救急箱のテーピング、数日前に見たときはまだたっぷり残っとったけん、今日だってきれとらんはずやもん。
戸棚から予備のガーゼとテープを持ってきて、なおやんがとなりにぽすんと座る。年季の入ったソファーがちょっとだけ揺れる。ほんまや、皮、まぁるくむけとる。痛そうやなぁ。入部したてのころを思い出すわ。
膝小僧のうえに顎を乗せて、なおやんの応急処置をぼんやり眺めた。なおやんはなんも言わん。聞かんのよね、この人は。たぶん、みたにんなら迷わず「なんかあった?」って聞いてくる。てっちんもかな。中林くんは絶対聞かん。あ、悪口やのうてね。聞かれん方が楽なときもあるけん。
でも、なんやろ、なおやんとおると、こんなふうにお互い黙っとっても気づまりせんのよ。たぶん、なおやんには余白があるんやと思う。余裕っていうより、余白。どっちでもええよ、って言うてくれとるみたいなんよね。話しても、話さんでも、どっちでもええよ、って。
「……あんな、なおやん」
「うん?」
「聞き流してくれてええんやけど」
「うん」
「僕な、姉ちゃんがおるのね」
「へえ、いいね、お姉ちゃん」
「ほやけど、うちの姉ちゃん、筋金入りのギャルでな」
「うん?」
「キンキンの金髪で、ラクダみたいなまつ毛しとって、目もとなんてもう歌舞伎役者で……。初めからギャルだったわけやないんよ。昔はむしろ、まじめでおとなしい女の子やった。うちのクラスやったら、小野田さんみたいなタイプかなぁ」
「あー、うん」
「それが、高校あがってから一気にグレてしもて。高校中退して家出て行って、それっきりで」
「うん……」
「その姉ちゃんがな、先週、急にひょっこりもんてきたんよ。久しぶりぃ、なんて言って」
「へえ、よかったじゃん」
「ほやけど、姉ちゃん、妊娠しとって」
「うん?」
とまどうのも当然やわ。ジェットコースターみたいな話やけんね。
きゅうちゃんちって仲いいよね、ってよう言われる。でも、うちの家族が仲ようなったのはここ数年の話で、それも正直、急ごしらえのハリボテなんよ。
お父ちゃんは大手の商社に勤めとって、病気するまではすごく厳しい人やった。とにかく上を目指せ、言う人でな。ええ学校に行けばレベルの高い教育を受けられて、おのずと就職先にも恵まれて、将来、余裕のある暮らしができる。僕は、この考え方、的外れとは思とらんのね。むしろ競争社会を勝ちぬいてきたお父ちゃんの半生そのものやけん、説得力があると思う。けど、それが絶対だ、最も高尚な生き方だ、ってテイでこられると、なんやろ、やっぱりちょっと、窮屈やなぁって思ってしまう。
お父ちゃんの影響をもろに受けたのは、八歳上のトシ兄ちゃんやった。トシ兄ちゃんは小学生のころから机に縛りつけられるようにして育った。兄ちゃんはそのことをいまでも根に持っとるけど、もともと要領がよかったけん、なんだかんだ結果を出せてエリートコースを進みよった。兄ちゃんがお父ちゃんを毛嫌いしとるわりに性格も口調もそっくりなのは、お父ちゃんの人生をなぞるように歩んできたからやと思う。ケンカするときなんか、まるで鏡に映った自分と言い争いよるようやもん。
お父ちゃんの成功体験が作りあげたレールのうえをそのまんまきれいに走れたんがトシ兄ちゃんやとしたら、そのレールを厚底ピンヒールで壊して歩くんがミエ姉ちゃんやった。ううん、姉ちゃんかて初めからお父ちゃんを否定しとったわけやない。遊びたがりなトシ兄ちゃんと違うて、ミエ姉ちゃんはだれに言われんでもコツコツ勉強しよる人やった。ほやけん、姉ちゃんを苦しめたんは、お父ちゃんのがんじがらめの競争主義やなかったんよね。むしろその逆。姉ちゃんは、最初から期待されとらんかった。最初から言うんは、たぶん、生まれたときから。
ちいさいころから、ふしぎには思とった。お父ちゃんは、兄ちゃんの成績表は毎度穴が開くほど見よるのに、姉ちゃんのことにはまるで興味がないみたいやった。姉ちゃんが学年上位に躍り出ようが、下から数えた方が早い順位に落ちようが、お父ちゃんは当たり障りのないコメントをして、最後に必ずこう言った。
「まあ、女の子は勉強できなくてもいいからな」
そのときは魅力的なことばに聞こえたんよ。長男としてプレッシャーをかけられるトシ兄ちゃんの方がずっと大変そうに見えたけん、姉ちゃんは楽でええなと思とった。それに姉ちゃんはいつもお母ちゃんに呼ばれて家の手伝いをしよるけん、そういう役割分担なんかな、って勝手に解釈しとった。
姉ちゃんががらりと変わったのは、お父ちゃんに病気が見つかって、家族で愛媛から栃木へ引っ越すことになってからやった。お父ちゃんはそれまでがむしゃらに働いてきた会社をすっぱり辞めて、生まれ故郷の実家に移りたいと言いだした。長年、じいちゃんと仲たがいしとったけん、いままで親孝行せんかったのが心残りになったんやて。
僕は小学五年生になったばかりで、急に転校せないけんようになってもちろんとまどったけど、お父ちゃんのいつになくしんみりした口調とお母ちゃんの真っ赤に腫らした目を見たら、こどもながらにこの急展開を受け入れないけんと思った。反発してばかりのトシ兄ちゃんも、このときばかりはなにも言わんかった。ただひとり、ミエ姉ちゃんだけは違うた。
「わたしは行かん。いまの高校に大洲のおじいちゃんちから通うけん、そっちは栃木でも群馬でも好きに引っ越したらええよ」
その年の春、姉ちゃんは死にもの狂いで勉強して第一志望の高校に入学しとった。学校の先生からも合格は厳しいと言われた難関校やった。
「いまさら家族ごっことか、寒いわ」
平行線で終わった家族会議のあと、姉ちゃんはぽつりとそうつぶやいた。昔の外国の絵画でさ、女の人が勇ましく旗を掲げとる絵があったやん。なにかの革命みたいな……ドラクロワ? あ、たぶんそれやわ。あの夜、姉ちゃんは革命の戦士になったんやと思う。ついていく民衆はおらんけど、たったひとりでも反旗を翻すと決めたんよ。
ほやけど、結局、大洲のじいちゃんばあちゃんに説得されて、姉ちゃんは僕らと一緒に愛媛を離れた。せめて辞めた高校とおなじくらいの進学校に通いたい言うてたのに、姉ちゃんが転入したのは家から自転車で通える距離の、腰パンのお兄ちゃんと厚化粧のお姉ちゃんだらけの定員割れしたヤンキー高校やった。
栃木のじいちゃんとばあちゃんは優しくて、僕はすぐになついた。お父ちゃんはたまにじいちゃんの晩酌につきあうくらいには和解しよったし、お母ちゃんはじいちゃんたちのちいさなお饅頭屋さんを手伝うようになって大忙しやけど、愛媛で専業主婦しとったころより生き生きして見えた。たまに東京からもんてくるトシ兄ちゃんは、大学の話を面白おかしく聞かせてくれた。姉ちゃんだけがなじめんでいた。部活にも入らず、家のなかではおばけみたいに過ごしとった。お母ちゃんの代わりに台所で黙々とじゃがいもの皮なんかむきよる姉ちゃんの姿は、まるでへたくそなパッチワークみたいやった。
引っ越して半年経ったころ、ようやく姉ちゃんに友達ができた。ふさぎがちやった姉ちゃんはまた笑うようになった。容姿が派手になっていったのも、このころからやった。
玄関さきで、何度か姉ちゃんの友達に鉢合わせたことがあってな。姉ちゃんはその人のことをセリナって呼んどった。ミニスカートから突きでた足がモデルさんみたいに細長うて、立っとるだけで気圧されそうな雰囲気の人やった。
「あんた、ミエの弟?」
初めて会うたとき、口に白い棒をくわえとったけん、僕は一瞬タバコかと思って身構えてしもうた。セリナさんは気だるそうに笑うと、ポケットから何か取りだして僕の手に押しつけた。
「あげるよ、チョコバナナ味」
チュッパチャプスやった。顔をあげると、長い髪のあいまから優しそうな目が覗いとった。いつか動物園で見たキリンの目によう似とった。ただ、その目はどしゃぶりの雨に濡れとるみたいに、優しいのに悲しそうやった。
家族が咎めれば咎めるほど、姉ちゃんはせせら笑うように尖っていった。表情を隠すようにお化粧をかさね、髪を明るい金色に染め、お母ちゃんに呼ばれてももう台所には立たんかった。まるで鮮やかなチョウチョが鱗粉をまきちらして飛びまわっとるようで、いままでが物言わぬサナギやったけん、みんなどう扱ったらええか分からんでいた。
その朝のことは、いまでも忘れられん。
中学で剣道部に入って、初めての朝稽古で早起きした日。眠い目をこすりながら一階へ降りたら、薄暗い台所にエプロン姿の姉ちゃんがおった。明け方の弱い光が後ろでまとめた金髪を白く浮きたたせとった。フライパンのジュウジュウ言う音と、ウィンナーのええ匂いがした。
「おはよう。なんしよん?」
「おはよ。弁当作り」
「え、お母ちゃん、作ってくれんの?」
驚いた僕に、姉ちゃんは、
「ううん、めっちゃ作りたがってる」
とふりかえらずに笑った。グレてしもうても、姉ちゃんは僕にだけは変わらず優しかった。
「それだけは母親の役目として譲れんとか言って。でも、お母さんが作った弁当だと、セリナが遠慮して食わないんだよね。だから、妥協案っつーの? 火曜と木曜はわたしが作るってことで落ち着いた」
「セリナってチュッパチャプスの人やろ?」
パジャマのまま食卓に座って、僕は久々に台所で見る姉ちゃんの背中に話しかけた。
「いつも玄関のまえで待っとるよね。姉ちゃん、なんで家にあげてやらんの?」
「だって、セリナんちと比べたら、うちなんてゼンゼン幸せだからさ」
孤独でしか繋がれんのやと姉ちゃんは言った。幸せのにおいを感じとってしまったら、野生の動物みたいにさーっと離れてしまうんやと。
「食べな。残りもんだけど」
そう言うと、姉ちゃんはお皿にお弁当のおかずを乗せて僕のまえにことりと置いた。卵焼きにタコさんウィンナー、ほうれん草とベーコンのソテー。幸せのにおいやと思った。
姉ちゃんの抱える孤独がなんなのか、ようやく気づいたのは姉ちゃんが家を出ていったあとやった。
「東京の四年制大学に行きたいなんて言いよるけん、うちはそんなお金出せんって言うたんよ」
食材のつまった買い物袋を台所のテーブルに置いたまま、お母ちゃんはため息をついた。
「お父ちゃんの病気の治療費もあるし、あんたの高校、大学の分も残しとかないけんやろ。地元の短大か専門学校で我慢しい言うたら、怒ってしもうて」
あの子はどうしていつもワガママ言うて困らせるんやろ。そう途方に暮れるお母ちゃんを見て、そのとき初めて、この家の空気がぐにゃぐにゃに歪んどるように見えた。
僕は、強制されないことは自由なんやと思とった。姉ちゃんは成績がふるわんでも怒鳴られんし、受験校を強いられもせん。ただ、姉ちゃんが何を決めても選んでも、お父ちゃんの返事はいつも「いいんじゃないか」の一言だけで、優しい肯定に聞こえとったそれは、もしかして「“どうでも”いいんじゃないか」やったのかな。夜遅くまで勉強する姉ちゃんに「そんなにがんばらなくてもいいんだぞ」って声をかけよるのも、女の子の将来に勉強はいらんって端から思とったからなんかな。そう考えたら、ゾッとした。受け入れられんかった。自分の生まれた家で、おなじきょうだいやのに扱いが全然違うこと、そしてなにより、無関係や思とった僕自身も姉ちゃんの足を引っ張っとったことが。
トシ兄ちゃんに与えられるヤケドするほど熱々のものが、ミエ姉ちゃんの頭のうえをぽーんと飛び越えて、ちょうどいい温度になって僕の手のなかに飛びこんでくる。僕がゲームしとるとなりで、姉ちゃんは黙って家族全員の洗濯物をたたむ。姉ちゃんが大学に行くのは「ワガママ」で、僕が大学へ行くのは「当たり前」。それやのに、姉ちゃんはいつだって僕に優しかった。嫌味のひとつも言わんかった。能天気よな。なんで「そういうもん」なんて思いこめてたんやろう。姉ちゃんが悲しいキリンの目をしとること、なんで気づいてやれんかったんやろう。
家族ごっこ。そのひとことが、胸に刺さって抜けんのよ。お父ちゃんが病気になってから、僕らは一致団結せないけんって手を取りおうとるけど、本当はちいさな不協和音が閉め忘れた蛇口の水みたいにずーっと流れとる。妊娠騒動を引っさげてもんてきた姉ちゃんは、その音に耳をふさぐなと言うとるようやった。
みんな姉ちゃんを責めるんよ。「馬鹿な男に引っかかって」とか「父親のいないこどもを本当に産むのか」とか。じいちゃんは孫娘がかわいいけん責めよらんけど、「どこの馬の骨か! 俺が殺してやるー!」なんて怒りちらして、これはこれで収拾つかんし。ばあちゃんだけが「生まれる子に罪はないからね」ってかばいよるけど、それもお母ちゃんに言わせれば「自分はかわいがるだけやけん、他人事なんよ」やって。もう笑けてくるわ。それぞれの音がぶつかりおうて、うるさくてたまらん。当の姉ちゃんは怖いくらい静かやけん、余計にたまらんよ。
姉ちゃんを責めたくなる気持ちも分かるんよ。高校中退してろくに稼ぎもないのに、どうやって育てるん? って。ほやけどな、こんなこと言うてええんかな……僕、赤ちゃん生まれるの、ちょっと楽しみでさ。赤ちゃんってどんな感じなんやろ。ふわふわしとるのかな。男の子でも女の子でも、どっちでもかわいいやろな。
そういう自分が心底イヤや。みんなそれぞれ大変やのに、僕だけいつも温室でぬくぬくしとる。みんなが僕には優しくて、けど、僕以外には優しくなれん。ほやけど、僕に何ができるん? 末っ子で甘やかされて育ってさ、偉そうに物を言える立場やないやろ。それって幸せなことなんかな。きっと幸せなんやろな。ドロドロに溶けたクリームみたいな幸せや。
「きゅうちゃんは、べつにそのままでいいと思うけど」
すっかり傷の手当てを終えて、なおやんはソファーのうえでストレッチしながら、そう言った。
「赤ちゃん楽しみー、ってお姉さんに思ったまま言ってみたら? アホなふりしてさ」
「そんな……無神経やろ、そんなのんきなん」
「でも、きゅうちゃんまで深刻な顔してたら、お姉さん、余計に赤ちゃん産みにくくならないかな」
「それはそうかもしれんけど……」
いまいち素直にうなずけん僕に、なおやんは「だってさぁ」とかさねた。
「大人の意見は、大人がさんざん言ってくれるじゃん。ひとりくらい、大人じゃない意見があったってよくない?」
「……それって、こどもの意見ってこと?」
「うーん、ていうか、大人になりきれない意見?」
そんなん、ますます言ってええんやろか。なおやんの考えることは、ときどき、雲みたいに掴みきれん。
ただ、ほうやね……ばあちゃんの言うとおり、生まれる命に罪はないけん、それだけは本当やけん、赤ちゃん楽しみって思ってしまう気持ちは、やっぱりうそではないんよね。僕がもしそう伝えたら、姉ちゃん、ちょっとは笑ってくれるやろか。大人になりきれん僕のことばは、姉ちゃんのためにはならんかもしれんけど、姉ちゃんの支えにはなってくれるやろか。
「それにきゅうちゃん、うそつくの下手だから、思ってもないこと言ってもすぐバレるよ」
「えっ、ほうなん?」
ほうよー、と上半身を真横に伸ばしながら、なおやんは笑った。
「すぐ顔に出るもん、あ、いまうそついたな、って」
体をもとに戻して、なおやんは、大丈夫だよ、と言った。
「生まれちゃえば、なんだかんだみんな世話焼くと思うよ。きゅうちゃんにもできることはたくさんあるだろうし」
「おむつ替えたりとか? できるかな」
「できるよ。だって俺、赤ちゃんのとき、半分くらい叔父さんに育ててもらったもん。産んでおっぱい飲ませるのは母親にしかできないけどさ、それ以外のことは大抵お母さんじゃなくてもできる、って叔父さん言ってたよ」
ま、俺は全然覚えてないけど。そう言って、なおやんはけろっと笑う。なんや、他人事やなぁ。なんだか拍子抜けして、ついでに肩の力も抜けてしもうた。他人事。そりゃそうやわ、どうしたって他人の事やけん。自分でどうこうしよう思とったんが、うぬぼれやったのかもしれんね。
部室の外が騒がしくなって、笑い声や足音が近づいてくる。稽古、サボってしもたなぁ。まだちょっとだけ足の裏をかばいながら、なおやんが立ちあがる。
「防具、取りに行こう」
ほうやね、とうなずいて、僕も立ちあがる。みたにんたちに謝らないけんね。防具を片付けて、着替えて、それから、うちに帰ろう。いまからでも間に合うやろか。姉ちゃんがいまも掲げつづけるボロボロの旗を、何も背負うとらん幸せな僕でも、支えることはできるやろうか。
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