第11話

「ライターがない? どういうことだ!?」

「さっきの戦いだわ……。下着を脱がされまいと必死で、ライターを地面に置いたままにしちゃって、それで……」

「そのまま操られちまったわけか。マズいな……」


「うわああああ!!」

「やめてくれえええ!!!」

 二人が会話している間にも、街の住人は次々と現れるモンスターに襲われ続けている。

「くそっ! どうすりゃ……」

 その時、突如モンスターたちが一斉に動きを止めた。

 いや、正確には『凍りついた』


「……やれやれ。相変わらずですね」

 振り返ると、真っ赤なワンピースを着た男が呆れ顔で立っている。

「サム!!」

「こんなに早く借りを返せるとは思いませんでしたよ……あなたはモンスター相手だとあまりに無力だ」

「ぐっ……」

「ちょっと、サム……」

 サムは喋りながらも器用にモンスターを凍らせていく。

「だが、人間相手だと滅法強い。それは先程の戦いでよく分かりましたよ」

「え……」

「だから、あいつ相手だったら、あなたでも戦えるのでは?」

 そう言い、指差した先には、遥か上空に浮かぶ魔王がいた。

 人々が恐怖し逃げ惑う様を、実に愉快とでも言いたげな表情で見物している。

「あの野郎……」

「街の人々は私が守ります。だからその間に、あなたが……」

「分かった」

 リップは食い気味に答えた。

 自分がやるべきことがハッキリした今、彼に迷いはない。

「……ふん。あの頃よりはマシな面になりましたね」


 今や完全に無力と化したフレアだけが、不安そうな表情を浮かべている。

「でも、リップ、どうやって……あいつが宙に浮かんだままじゃ……」

「大丈夫だ、問題ない」

 そう言うやいなや、リップの足が地面から離れた。

「え!! ちょ……どういうこと??」

「さっき、大量の服を飛ばしたことで思いついた。自分の服を操れば、こんなこともできるんじゃないかってな」

「すごいじゃない! じゃあサムもそれを見込んでリップに?」

「え?……ええ。当然です」

 サムは内心驚いていた。

 勢いでリップに託したものの、宙にいる魔王相手にどう戦うか、具体的な策など全然思いついていなかったのだ。

「じゃあ、行ってくる。サム、フレアを頼む」

「一年前から頼まれっぱなしですが?」

「はっ。お前、性格悪いな本当」

 苦笑いを浮かべながら、リップの体はどんどん高度を上げていく。

「フレア」

「なに?」

「俺が無事戻ったら、さ……あく……」

「あく?」

「……いや、何でもない」

「…………そう。あのね、リップ」

「……なんだ?」

「死なないで」

「任せろ」

 それだけ言うと、リップは物凄いスピードで、魔王の元へと飛んでいった。


「おい、クソ野郎」

「……ほう。貴様、空飛べたんかい」

 メッションタウン上空。二人の男が対峙している。

 スウェットを着た男は下衆な笑みを浮かべながら。

 ジャージを着た男は激しい怒りの表情を浮かべながら。

「何でこんなことを、なんて聞かねーよ。お前は問答無用で殺す」

「このワシを、殺す? 貴様ごときがか?」

「ああ。カイラごときに操られた『魔王様』を、俺ごときがな」

 魔王から笑顔が消えた。

「貴様は細切れの刑じゃの」

 そう言うと、手にしていた刀型のモンスターを持ち直し、リップ目がけて斬りかかる。

 が、当たらない。

 魔王は次々と斬りかかるが、リップはこれを全て避ける。

「なんだよ、その素人みたいな動きは……」

 彼は今、空を飛ぶためだけに能力を集中させているため、魔王の衣服まで操る余裕はない。

 それにもかかわらず、強さの差は歴然としていた。

「はあ……はあ……」

 そして早くも、魔王の額には大量の汗が浮かんでいる。

「……お前、マジか。お前、そんなんで、『魔王』を名乗っていたのかよ……世界を恐怖のどん底に陥れた男が、そんなんかよ……」

 リップの表情が歪み始めた。


「くそったれが! お前はもう死ね!! 世界中の人々に謝り続けながらな!!!」

 リップは右拳に力を込め、間合いを詰めようとした。

 

 その瞬間。

 右腕が飛んだ。

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