大切な時間

カゲトモ

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「はぁ」

 長い吐息が聞こえて振り返る。雪は降っていなくても寒いこの夜に、彼女は一人でカウンターに座っていた。

「なにか悩み事でもあるのですか?」

 にっこりと微笑んで近づくと、彼女は口元に手を当てて、少し恥ずかしそうに微笑み返してくれた。

「ふふ、いえ、そんなことは」

「ため息を吐いてらしたのに?」

 イタズラっぽく返すと、今度は目を伏せて微笑む。

「聞こえていたんですね」

「地獄耳ですから」

 ヒトミさんは小さく笑って、二杯目のホットカルーアミルクを口に運ぶ。甘いコーヒーリキュールのカルーアと、ホットミルクのカクテルはホッとする優しい味わいで、彼女にピッタリのカクテルだ。なお、シャレではない。

「実はちょっと思い出していて」

「思い出していた?」

 聞き返すとヒトミさんは躊躇うように視線を泳がせる。でもその顔はどこか嬉しそうな、楽しそうな表情だ。何か良いことでもあったのか?

「実は、先週彼とデートしていて」

「あぁ、そうでしたね。彼氏さんを拝見したのは初めてでした」

 いつも女性の友達と一緒に来店していた彼女が、先週初めて彼氏を連れて来たのだ。ヒトミさんは可愛らしい女性だし、別段驚いたりはしなかったが、へぇこういう男がタイプなんだ、とつい見てしまった。

身長は高くなかったが、ずっとヒトミさんのことを愛しそうに見ていた男性。それに気配りがスマートと言うか、会計だとか注文だとかドアを開けてあげるだとか、そんな些細なことに気を回せるって感じの。俺じゃ多分、そこまで自然に出来る気がしない。どこでそんなこと取得したのだろうかと思ってつい見てしまっていたのだ。

「素敵な彼氏さんでしたね」

「ふふふ」

 肩を寄せて照れ笑い。その後にヒトミさんは小さく首を縦に振った。

「自慢の彼です」

 ひゅぅ、とはさすがに言えなかったが、そんな彼女が微笑ましくて。少し羨ましい。

「優しくて頑張り屋で、私を・・・大切にしてくれるし」

 あぁもう、惚気ちゃって。ごちそう様です。

「でも、なかなか会えないんですけどね」

「え?」

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