私、あまり美味しくないですよ?
とら猫の尻尾
私、美味しいですよ?
広大な草原が広がるのどかな風景。
そこに王都へ向かう荷馬車がのんびりと走っていた。
荷台には色とりどりの野菜や果物。
木製の
路面の石に車輪が乗り上げ、がたんと突き上げた。
荷台の上で檻が飛び跳ねた。
「ピキィー(痛い)!」
檻の中で羽ばたいて見たけれど無駄なあがきだった。
広げた羽から3枚の羽根が抜け落ちた。
私は思う。
どうせ人間に食われる運命ならば、あきらめよう。
でも痛いのは嫌。
できるだけ痛くないようにしてほしいと。
市場に着くと、野菜を売っている店の前で止まった。
農夫のマーチンが店主と話し始めた。
値段交渉が成立し、野菜が荷台から降ろされた。
次に馬車は果物屋の前で止まった。
そして果物が降ろされた。
荷台に残っているのは私だけになった。
いよいよね。
私は高値で買われるだろう。
マーチンにはおいしいごはんをいっぱい食べさせてもらったから。
最期に恩返しをしなくちゃね。
馬車は肉屋の前で止まった。
肉屋の店主との商談が始まった。
肉屋の店主が私を覗く。
太り過ぎだわ、この人。
マーチンはやせ細って貧相な体つき。
それなのに、肉屋の店主はどうしてこんなに太っているの?
鳥の目から見ても貧困の格差は問題だと思うの。
人間って気の毒ね。
せめてマーチンには一時の恵みでもあげたいので、
「ピュピリピリピリィー(私美味しいですよー)!」
精一杯アピールしてみた。
うまく伝わったかしら。
肉屋の店主は三重顎に手を当てて首を捻ったわ。
「さあ、お前ともお別れだ」
マーチンが檻をのぞき込む。
私は彼の目を見つめ返す。
分っているのよ。
これが今生の別れなのね。
さようなら、マーチン。
嵐の日に軒下で凍えている私を助けてくれた人。
ヒナだった私をここまで育ててくれた人。
あなたは自分の食事を抜いてでも――
私のごはんは欠かさずくれた優しい人。
あなたに幸あらんことを――
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