Re:Start〜兄ちゃんな、悪の総督やってるんだが部下とコミュニケーション……取れてないんだ。〜
ネコモドキ
きっとプロローグと言うナニカで。
「【ライフ・コール】!」
黄昏が地平線を染める頃、雑草生い茂る空き地とか売り地とか言われるその場所で、少女と俺は対峙していた。
平々凡々な俺に対し、少女が纏うは黄金色に輝くオーラ。全身から立ち昇るように、常時辺りに放出しまくっている。
身に纏うオーラを飛ばしながら、警戒心やら敵愾心を剥き出しにした少女が上から目線に指摘してきた。
「……ふっ、まぁたスライムモドキ?いい加減学習し……」
「今日はただのポムポムと思うなよ!今日はな!なんと【燃えるポムポム】だ!」
【燃えるポムポム(以下略)】
・ポムポムしたゲル状の奴が、長きに渡る修行の末至った姿。至高にして孤高、攻撃力はポムポム(以下略)の内で最高を誇る。15円。
突き出す右手。我が求めに応じ、地の底遥か最奥から、生命の胎動を感じる。それに呼応するように、辺りに展開するは真紅に煌めく陣。三角と四角を、丸と楕円とを、六芒星と五芒星を入り混ぜたような複雑怪奇な幾何学模様が、雑草を焼き払いながら顔を出す。その規模、およそ5メートル。空き地?(空き地でいいや)を全て覆う程の陣からは、新たな生命の鼓動が、幾つも重なって聞こえて来る。
ドクン、ドクン、ドクンーーーー、
ドクン、ドクン、ドクンーーーー!
ドクン!ドクン!ドクン!
「ーーっ!出でよ!【燃えるポムポム】!」
「「「「「『『『『『ピギャーーーーーーーーーーーッッッ!!!』』』』』」」」」」
結論から言おう。
全滅した。
燃えるポムポムは全て滅された。
登場して秒と持たなかった。別に目の前の少女にブチ殺されたのではない。
後から考えてみるとポムポムとかドロドロとかペムペムとかってゲル状なんだよね、素材は分かんないけど。あ、何が言いたいって言うと、燃えやすいんだ、すっごく。そう言えば以前魔法少女っぽいやつに燃やされたのを忘れてた。なんか体内の殆どが水分?らしくて、しかも可燃性だから余計にね。もう、ね。なんて言うか泣きたい。ポムポムの断末魔らしい断末魔を初めて聞いたけど何が悲しくて新たに生まれた生命のそれも部下の断末魔を、敵と対峙した形のまま聞かねばならないのか。もう少女もね、憐憫の目だったね。つーかあれを憐憫の目って言うんだ。勝気な釣り目が恐ろしく垂れてた。心から痛ましいものを見る目だった。俺を含めてね。そりゃ孤高だよね。孤高じゃなきゃフレンドリーファイアしちゃうもの、文字通りに(笑)
「『ピ、ギャァア"ア"ァ"ァ"』」
やめて、そんな目で俺を見ないで。目?らしき黒曜石のような塊をキラリと輝かせ、最後の生き残りが俺の元へやって来る。ズリズリと、半分溶けた身体を引きずって。元々声帯が何処にあるかも分からないやつだった。今はもう、壊れたステレオみたいに、ノイズの混じった声とも呼べぬ絶叫が垂れ流れるのみ。
「『ギャァ、ギャァア"ア"ァ"……アァ"』」
「うんうん」
「『アァ"ア"アア、ア"ァァァ"』」
「ああ、」
「『ギャギャギャギャギャ』」
「そうだな」
俺とポムポムの今生の別れをどう捉えたのか、少女が目元を腫らしながら此方を温かい目で見てくる。心温まるシーンだ。多分漫画とかだとオーブみたいなのがいっぱい浮かんだトーンが背景に存在している……そんなシーン。
「『グギィ"ィ"イ、ゲギャ!』」
「…………」
もうとうとう八割方崩れ落ちた身体。なんとなくナウシカを思わせるなこいつ。
そして、ついぞ身体を保てなくなったのか、「『ーーーーーーッ!!』」声にもならぬ声を上げ、ベチャリ、と
焼け野原のシミと化した。
「ポムポム………」
「ポムちゃん………」
少女の絶望的なネーミングセンスに何一つツッコミを入れることも無く俺は、憤りとか悲しみとか慈しみとかそんな高尚で人が初めから持つ有り難み的なものを込め、天高くーーーー吼えた。
「ーー何言ってるか分かんねぇんだよおおおぉぉぉぉっっっ!!!」
「ええええぇぇぇ!?」
ーーついぞ、分からなかった。今まで断末魔っぽいのなら聞いた事はあるが、もしかしたら進化して意思疎通も出来るようになるんじゃないか……と、期待した俺がバカだった。寧ろ文字通りの燃えカスを増やしただけだった。
このままでは確実に
「あ、あの……総督さん?」
「なんだ!?」
「えっと……大丈夫ですか?」
「血涙を流しながら今晩の晩御飯代が吹き飛んだ今の俺は君にどう映る!?」
「凄く痛々しいです!」
「正直で結構!今日はもう帰ってくれ!マジで!」
「仕方ないですね………今日の所は見逃してあげましょう!」
「上から目線ムカつく!」
だが事実だ。
気付けばもう、少女は影も形も無く、オーラの残滓とも言うべき黄金のフワフワが漂っていた。やがてそれすらも黄昏独特の生温い風に流され、さして広くもない空き地にポツンと、一人で立ち尽くす緑尽くめの俺。近所に住む数人の子供達が指差して笑ってきたが、生憎と俺の憤怒に歪む美顔はマスクに隠されて見えない。命拾いしたな、ガキ。俺の怒りはちょっとばかし痛えぞ。
「畜生……なにが【
緑を基調に、軍服をモデルとしたコスプレよか一歩レベルの高い衣装。足元はゴツいブーツに覆われ、広いツバ付きの帽子がただでさえ怪しいハーフマスクを妖しく飾る。さして広くない肩に軍用コートを羽織り、その腕には【総督】と書かれた赤い腕章。ーーんで、白昼堂々……と言う時間帯でもないが、その怪しさ爆発のコスプレ野郎が俺である。空き地に四肢を付き、地面に慟哭する今の俺を、死んだ両親はどう思うのか。まあ、天国で泣いてくれているのだろう、多分。
「おい、なんだあれ」
「ケンちゃん。あれ見ちゃダメなやつだよ……ほら、行こう」
「おもしろそうじゃねえか」
「駄目だよ。きっとのされるよ」
「だけどよう……」
「ケンちゃんのお母さんが言ってたでしょ。この時間帯になるとヤバイのが出てくるって。あれからはそんなにヤバさを感じないけど、間違いなく頭がヤバイ方だよ。ほら、影響されない内に早く帰ろ」
「あ、ああ、わかったよ」
………正直バカにされた感じしかしないが、笑って流すのもまた大人だと思う。後、俺は無闇矢鱈に人をのしたりしないし、君みたいな幼い子がのすなんて言葉を使っちゃいけません。
「ままー、あのザ○みたいなのなにー?」
「しっ、ダメよ、あんなの見ちゃ」
「なんかそうとくってかいてるよー。…………バカみてぇ」
「てめぇ殺すぞガキィ!?」
大人は時に暴力と言う名の悲しくも虚しい血塗られた拳を握る時がある。
「それが今だぁ!!!」
ガキとの距離、優に3メートル。空き地との境界線上に障害物アリ。蹴り……なんかカッコつかない未来が見えるので駄目。拳骨……なんかすっ転ぶ未来が見えるので駄目。ポムポムボンバー………これだぁ!
「【ライフ・コール】!」
キーとなる言葉を口にし、新たな生命のカケラを掴み取る。数万、数千とある可能性の中の一欠片。そのさらに一片を。
ーー今は昔……と言っても、ほんの数十年前の話だ。
「来い!【凍るポムポム】!」
ーー突如として異界より飛来した謎物質 【ギフト】により人類の歴史は一変した。
【凍るポムポム(以下略)】
・ポムポムしたゲル状のやつがちょっと頑張ったらなんか成った姿。孤高にして孤高。防御力はポムポム(以下略)随一。10円。
ーー詳細は長くなるので省くが、その謎物質ーー【ギフト】のせいで(或いはおかげで)総人口のおよそ8.5割がなんらかの超常の能力を得た。……得てしまった。
青い幾何学模様を描いた陣が、螺旋状に渦巻きながら焼け野原を染める。規模は先程より小さく1メートルにも満たない。
ーーそもそも、【ギフト】自体未だに知られていないこと、知らされていないことが数多ある。
小さく、か細く、今にも途切れてしまいそうな種の息吹を掬い取るようにして持ち上げーー瞬間、陣が黄昏を蒼く彩る!
ーー何故 【ギフト】の影響を受ければ超常の能力を得る事が出来るのか。どうして異界より飛来したのか。極論であるが、どうやって異界より飛来したのか。そもそも、
「『ーーーーー。』」
「…………ねぇ、それしんでない?」
「ぎり生命の鼓動を感じる」
「いやだってそれこおりづけじゃん!しんでるじゃん!こっちからみてもせいめいのこどうなんてかんじないよぉ!?」
「上司が生きてるって言ったら部下はみんな生きてんだよ!これが社会の不条理だ、覚えとけクソガキ!」
「かわいそう……」
「客観的に見ても主観的に見ても惨めって意味で可哀想なのは俺だよ畜生!」
俺の掌に収まるのは30センチもない青い
もう大体オチが分かったと思うので言ってしまうが……このポムポム、ほぼ死んでます!まだ辛うじて生きてるけどほぼ死んでます(爆笑)
なんかね、ポムポムって暑さにも弱いけど寒さにも弱いんだ。クマムシを見習って欲しいんだ。せめて自滅くらいは回避して欲しいんだ、切に。ポムポムの何が凄いかって可燃性な上に氷易い、だからね。もう塩水かって(笑)使い道?氷が普段より安く手に入れられるかな?中身はこの際無視するよ、勿論。
勿論じゃねーよ。笑えねーよ。爆笑なんて出来ねーよ。涙が出てきた。
んで、この【凍るポムポム】のもう一つの使い道………
「それがこのポムポムバズーカだ!」
「あれちょっとかわってない?」
「余計なお世話だ」
ーーでも、分かった事も少なからずある。
遺伝子に少しの影響ーー頭髪や瞳の虹彩の変化。
誰しもが能力を得る訳ではない。
能力の殆どが物理法則を無視し、神秘に喧嘩を売るようなもの。
そしてーー
「喰らえ!ポムポムバズーカ!」
ーー俺の得た能力【
カタパルトの如く射出された30センチ程の氷の塊。ただの氷の塊だが、それはただそれだけで人をも殺せる武器と化す。かと言って、俺も別にガキを殺したい訳でもない。ーーので、少し前方に落下するよう手加減はしてある。ーー言わば脅しだ。コントロールに若干の不安がある俺だが、3メートルくらいは大丈夫だろう………多分。
「はっはぁー許しを請えガキ!ーーーーっ!?」
瞬間、大寒波を思わせるような、肌を突く痛みが全身を襲う。寒いーーのに、嫌な汗が止まらない。ガキとは思えないどう考えても身に余る力。
「【
視覚と嗅覚と聴覚とを支配され、しまいには触覚にまでその支配の触手を拡げてくる。
無から有を創生する俺の能力に対し、こいつの能力は無から無を創成し有へと昇華するというもの。早い話、こいつの能力は【幻覚】だ。幻覚を見せ幻惑に捕らえ幻想する。厄介な上に、高度過ぎる幻覚は時に現実にまでその影響を齎す。今俺の身に降りかかっているもの……痛みこそ幻覚による副産物だろうが、脳がそう判断すればそうなのだ。そこにイエスやノーがあろうと、すでに影響下にあるものは改変出来ない。
ガキとその母親がいた筈の空間がグニャリと歪む。ブラックホールに飲み込まれる光のように、時計状に渦を巻きながら景色を引きずり込む。
ーー現実と幻影の区別がつかない。足元さえ覚束ない。一寸先さえ闇。まずいーー!完全に術中に嵌っ…………
最後にチラと見えたのは綺麗な銀髪の少女と、それに付き従う俺に似た小綺麗な青年。
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