番外編4〔デパート〕


番外編4〔デパート〕



母さんに連れられ、ミウとイサッチは、バスで30分程の所にある『イ○ン』に向かった。



バス停で、バスを待っている間も、イサッチの口が閉じる事は無かった。


「何、何、何?鉄の箱が一杯!?馬が居なくても走ってる?

それに、人が馬より早く走ってる?馬は?馬は?馬は何処に?…

あの箱の中に居るのですか?」


「あれはね伊佐江さん、馬が居なくても走る車なのよ。」


と、母さんはイサッチが驚く事を楽しむみたいに話した。


「え!!?馬で引っ張らなくても、勝手に走るのですか?」


「そうなのよ、私も詳しくは知らないのだけど、たぶん中に『妖精』が一杯いて、頑張っているんだと思うわ。」


機械音痴の母さんは、機械全般は、『妖精』が動かしてることになっていたのだ。


イサッチは、目の前を通ったトラックを指差しながら、


「それでは、あの大きな車には、たくさんの妖精が、頑張っているのでございますね。」


すると母さんが、


「そうなのよ。だから乗っている車や、使っている機械は大切に「ありがとう」って思いながら使わないといけないのよ。

機械だけじゃないわ、全ての物に、妖精が住んでいるらしいの。だから、大切に扱えば、妖精も喜ぶんだって。国に帰ったら、みんなに教えてあげてね。」


「わかりましたわ。みんなに伝えますわ。」


2人の話を聞いていたミウは、太郎に日本の事をたくさん聞いていたので、『自動車』や『自転車』の事も何となく知っていた。『エンジン』という機械で車が動いていることや、『自転車』という人の力で動く乗り物があるということも。

しかし、母さんの話を聞いていると、『妖精』の方がいいなと思い始めていた。


と、そこに、3人の乗るバスがやって来た。


「このバスに乗るわよ。私の真似をしてね。」


母さんの言葉に、ミウは頷き、緊張しているイサッチは、


「は、はひ!」


と返事をした。


バスが目の前に停まり、ドアが開くと。


「凄い、ドアが勝手に開いた…」


イサッチは驚きながらも、母さんと同じように、乗車券を取り、バスに乗り込んだ。


そして一番後ろの席に座ると、ミウが、


「凄い!フワフワ!」


すると、イサッチも、


「本当~!フワフワ。それにしても本当に馬は居ないのですね。

でも、馬車より乗り心地が良くて、ゆらゆらしてフワフワして、なんだかわたくし眠くな……ぐ~…」


イサッチは、バスに乗って数分もしないうちに眠ってしまった。


その姿を見た母さんは、


「あらら、伊佐江さん、こっちに来たばかりだから、疲れてるのね。

ミウちゃんも、眠たかったら寝てもいいのよ。着いたら起こしてあげるから。」


「ありがとうございます、お母さま。でも大丈夫です。私も早くこの街に慣れたいので。」


「そう。でも無理しちゃダメよ。ミウちゃんに何かあったら、私が太郎に起こられちゃう。」


「お母さ…ま……く~…」


と、答えたと同時に、ミウもバスの揺れとシートの気持ち良さにイサッチにもたれ掛かり寝てしまった。



30分後…


「ほらほら、2人共、もうすぐ着くわよ。起きて。」


母さんに肩を揺すられ、ミウとイサッチは眩しそうに、目を開けた。


「あ、セラさん。おはようございます。今すぐ朝食の準備を致しますね。」


と、イサッチは寝ボケながら、座席から立とうとした。

しかし、バスが揺れて上手く立てない。すると、


「あれ?あれ?地面が揺れて…地震ですか?」


すると、ミウが、


「お姉さま、お姉さま。落ち着いてください。ここはお家では、ございませんよ。『バス』の中ですわ。」


イサッチと同時に目が覚めたミウだったが、イサッチと違い、すぐに状況を理解していた。


「バス……?」


イサッチは、窓から見える始めての景色に、自分達が、バスという乗り物に乗り、買い物に行っているという事を思い出した。


と、次の瞬間、前方にバカでかい建物が、イサッチの目に飛び込んで来た。


「あ!!」


イサッチは、思わず声をあげ、前のめりになりながら、バスの進行方向を見た。


「あの大きな建物は?」


すると、母さんはニコニコしながら、


「あれが今から行く『デパート』よ。」


「デパート?」

「デパート?」


ミウとイサッチが同時に呟いた。


「『デパート』っていうのはね、いろんなお店が集まっている所なの。

あの建物の中にいっぱいいろんなお店があるのよ。」


「パン屋はありますか?パン屋!」


イサッチが食い入るように尋ねて来た。


「もちろんあるわよ。パンだけじゃなく、食料品はなんでもあるんだから。エヘン!」


なぜか母さんが自慢するように話した。するとミウが、


「あ、あの『黒い水』のお店もあるんですか?」


すると母さんは、また自慢するように、


「マ○クね、もちろんあるわよ。ミウちゃん、『コーラ』がすっかり気に入っちゃったのね。

それじゃ、コーラも買って帰ろうかしら。」


「え!?お店に売ってるんですか?」


ミウが驚いて尋ねると、


「コーラだけじゃないわよ、2人がビックリするぐらい、いろんな飲み物も売っているのよ。」


母さんの話を聞いていたミウとイサッチは、早くバスが着かないかワクワクしていた。


そして、遂に2人の想いを乗せたバスが、停留所に停まった。


バスが停留所に到着すると、母さんからお金を貰い、母さんと同じように、料金箱に入れていった。


母さんが運転手に、頭を下げながら、料金を入れていたのを見たミウは、同じように頭を下げた。


イサッチは、頭を下げながら、


「お疲れ様でございました。快適な旅で御座いましたわ。」


と、丁寧にお礼を言いながら、料金箱にお金を入れた。



バスを降りた、ミウとイサッチは、目の前にある建物を見ると、驚きのあまり、声も出ずただ立ち尽くすだけだった。


それもそのはずである。お城の庭より広い駐車場、さらにその奥には、お城より大きな建物が建っていたからだ。


さらに2人を驚かせたのが、この場所が『ただのお店』だということだった。


ボーゼンと立っている2人を急かすように、母さんが、


「ホラホラ2人共行くわよ。」


と、ミウとイサッチの背中を「ポンッ」と押した。


建物の大きさに圧倒されながら、ミウとイサッチがデパートに入って行くと、いきなりイサッチが、


「ま、眩しい!…」


思わず目を覆った。そして、


「なぜ建物の中の方が明るいのでございますか?

まるで太陽がいくつもあるような…、ハッ!そういえば、タロウ様の家も夜だというのに、昼間みたいに明るかったですわ。」


すると母さんが、


「あれはね『ライト』と言って、夜でも明るくする物なの。建物の中って暗いでしょ。だからみんなが安全に買い物が出来るように、明るくしてあるのよ。」


「それにしても、今日は『お祭り』でもあるのですか?物凄い人ですが…

きっと国中の人が集まっているのでございますね。」


イサッチは人の多さに驚き、ぐるりと首を回しながら言った。


すると母さんは「フフフ」と笑いながら、


「いいえ、今日は平日だから少ない方よ、お休みの日になると、この何倍もの人が来るんだから。」


「え!?この何倍もの人が!?一体この国には何人の国民が居るんですか。」


「え~っと、たしか『1億人』とちょっと、って智恵葉が言ってたっけ?」


母さんは少し考え、人差指をアゴの先に当てながら答えた。


「い!1億!?」


イサッチは驚くと同時に、ミウを小声で呼び寄せた。


「ミウ…ミウ…ちょっと、ちょっと。」


「なんですか?お姉さま。」


「ユーリセンチの国民は何人でしたっけ?」


「たしか『7万人』ぐらいだと聞いた事がありますわ。」


「全然足りないわね…」


ガックリと肩を落とし、元気無く呟くイサッチにミウは、


「で、でも、お姉さま、回りの獣族けものぞくや、森に住んでいる動物達を全部合わせれば、1億近くになるのでは?ほ、ほら、アリや蜂は1つの巣に何万匹も居るというし。」


ミウの言葉を聞いたイサッチは、うつむいていた顔を上げ、


「そ、そうですわよね。森の動物達も、国の住人ですもんね。

ユーリセンチも負けてはいませんわ!」


なぜか、人の多さで日本に張り合う、イサッチとミウであった。



「ほらほら2人とも、早くしないと、子供達が学校から帰って来るわよ。」


母さんは、ミウとイサッチを急かすように呼び寄せ、


「さてと、どこから行こうかしら…、伊佐江さんの眼鏡かしらね。

眼鏡屋は確か2階よね。」


と、言いながら、エスカレーターに向かって歩いた。


と、次の瞬間、イサッチが声を挙げた!


「セ、セラさん!ひ、人が!人が宙に浮いてる!?」


エスカレーターを横から見たイサッチは、直立不動のまま上に上がって行く人達を見て、その姿がまるで宙に浮いているように見えたのだ。


すると、またもや母さんが、ニコニコしながら、


「伊佐江さん、あれはね動く階段なのよ。」


「動く階段!?」

「動く階段!?」


さすがにミウもビックリしたようだ。


「そうなのよ、階段て上るの大変でしょ?だから階段が動いてくれるの。」


「ひえ~!そ、そんな事が出来るのですね。」


イサッチは感心しながら、エスカレーターの前までやって来た。

しかし、次から次へと出てくる階段に1歩を踏み出すタイミングがなかなかわからず、エスカレーターの前で右往左往していた。

母さんは、そんなイサッチの手を取り、


「いい?伊佐江さん、「せーの」で乗るわよ。」


「は、はい…」


「せーの…」


「ち、ちょっ、ちょっと待った~!!ハァハァハァ…」


イサッチは、思わず後ずさりをしてしまった。


ミウはというと、何回も乗っては、反対の下りのエスカレーターで下りてきてを繰り返していた。


「お姉さま、お姉さま。これは物凄く楽ですわ。お城にも『これ』があったら良かったのに。」


と、笑顔で話していた。


しかし、そんなミウとは対照的に、イサッチは終わりの無いエスカレーターの階段を見続けて、目が回りの始めていた。


「セ、セラさん…ふ、普通の階段はありませんか?やっぱりわたくしには動く階段エスカレーターはムリです~…。」


すると、母さんは、


「う~ん、階段はあることはあるんだけど…

あ!そうだ、『アレ』なら…!」


何かを思い出したように、イサッチの手を取り、エスカレーターとは反対の方向に歩き始めた。


そして、3人は『ある扉』の前で立ち止まった。


母さんが扉の横にある『ボタン』を押すと、すぐに扉が開いた。


「さあさあ、乗って乗って。」


母さんに言われるがまま、イサッチとミウは、不思議そうにキョロキョロと見回しながら、目の前の小部屋に入った。


「セ、セラさん?この部屋は?」


「フフフ、ビックリしないでよ。なんと動く部屋なの!」


「え!?」

「え?!」


ミウとイサッチが驚くと同時に、扉が閉まると、


「上に参りま~す。」


と、どこからか、知らない女性の声が聞こえて来た。


「だ、誰か居るのでございますか!?」


イサッチは辺りを見回したが、ミウと母さん以外に誰も居ない。

不思議に思っていると、頭から体を押さえられるような感覚がイサッチを襲った。


「お~~……」


と、すぐに今度は体が「フワッ」と浮くような感覚に変わった。


「ひ~~……。」


「ポーン、2階で御座います。」


またも聞いた事がない女性の声が聞こえたが、イサッチはそんな事はどうでもよくなっていた。


「オエ~……」


イサッチは、ふらふらになりながらエレベーターから出て来ると、倒れ混むように、横にあったベンチに座り込んだ。


「お姉さま、大丈夫ですか?」


ミウが心配そうにイサッチに声をかけた。


「伊佐江さん、ちょっと休みましょう。」


ミウと、母さんもベンチに腰をかけ、イサッチの回復を待った。


「伊佐江さん、私も最初は動く階段エスカレーター動く部屋エレベーターに乗れなかったのよ。」


「え?セラさんもですか?」


「そうなのよ、ミウちゃんは平気みたいね。若いっていいわね~。」


と、母さんはミウをからかうように言った。


「そ、そんなたまたまですわ、お母さま。」


と、照れを隠すように、ミウは辺りを見回した。すると、


「あ!」


ミウが突然声を挙げた。


「お母さま!あ、あれってもしかして…」


ミウが見つけたのは、見たことのある、赤い看板に黄色い『M』の文字の入った店の看板だった。


ちょうど3人が降りた場所は『フードコート』の目の前だったのだ。

そしてマク○ドナルドもそこにあったのだ。


ミウは少し興奮しながら、


「お姉さま、お姉さま、あのお店ですわ!刺激的な黒い飲み物があるお店!」


「え?…お店?…」


イサッチは、横になっていた体を起こしながら、目を開け、回りをよく見た。


すると、目の前にはズラリといろんな食べ物屋が並んでいた。


「まあ!これが全部食べ物のお店ですの?どうりでさっきから良い匂いがすると思いましたわ。」


すると母さんが、


「そうね、先にお昼御飯を済ませちゃいましょうか。伊佐江さん、もう大丈夫?」


「はい!もうバッチリ!早く食べに行きましょう。」


食べ物の匂いに、さっきまでエレベーターに酔っていた事など、すっかり忘れていたイサッチであった。



「お姉さま、こっちですわ。」


キョロキョロしながら歩くイサッチをよそに、真っ直ぐ『マク○ナルド』に向かって歩くミウだった。


マク○ナルドの前までやって来たミウは、この前にタロウと一緒に入った店とは、少し違う事に気が付いた。


「あれ?お店の中に入れない?」


「あら?ミウちゃん、どうしたの?」


勢い勇んでマク○ナルドの前まで来たミウが、立ち尽くしてるのを見て、母さんが声をかけた。


「いえ、前に行ったお店では、中で食べたもので…」


「あ~、ここはね、食べ物を買ったら、真ん中のテーブルまで持って行って食べるのよ。お祭りの『出店』みたいな物かな?」


「そう…なんですか。それから種類がいっぱい有りすぎて…」


いつもは僕が全部注文していたので、注文の仕方がわからなかったのだ。



「ミウちゃんは、どれか食べたい物があるの?」


「前にタロウが食べていた、甘酸っぱいのが食べたいのですけど…」


すると母さんは、


「あ~!それなら『テリヤキ』だわ。タロウってば、『テリヤキ』しか食べないのよね。こんなに種類がいっぱいあるのに。


それじゃミウちゃんは、テリヤキとコーラのセットでいいかしらね。

伊佐江さんは何か食べたいのはあるかしら?」


わたくしは、セラさんにお任せいたしますわ。

飲み物もミウと一緒で……あ!ちょっと待ってくださる?このキレイな緑色の飲み物はなんですか?」


「これは『メロンソーダ』ね。


「そ、それは美味しゅうございますか?」


すると母さんは、「アハハハ」と、笑うと、


「伊佐江さん、美味しくない物を売ってはダメでしょ。ここにあるものは全部美味しいですよ。」


「そうですよね、じゃあ、わたくしは、その緑色の飲み物で。このパンみたいなのはお任せいたしますわ。」


すると母さんは、


「せっかくだから、みんな違うのを買って、少しづつ分けましょうか。」



そして、ミウは『テリヤキとコーラ』のセット、イサッチは『チーズバーガーとメロンソーダ』のセット、母さんが『ベーコンレタスバーガーとファンタオレンジ』のセットを注文した。



それぞれのメニューが乗ったトレイを持って、3人が空いているテーブルに着くと、


「それじゃ頂きましょうか。」


母さんの号令と共にイサッチにとっては、初マ○クが始まった。


「いただきます。」

「いただきます。」

「いただきます。」


真っ先にコーラを飲んだのはミウだった。


「ん~~~~!パアッ!しびれますわ、お姉さま!」


久しぶりのコーラに、満面の笑顔になるミウだった。


「これこれ、ミウ、はしたないですよ。」


「そんな事を言われましても…

お姉さまも、一口いかがですか?病み付きになりますよ。」


「まさか、そこまで… お飲み物は、こう上品に…」


イサッチは、コーラのストローに口をつけると、すました顔で一気にコーラを吸った。すると、


「ブッ!ゲホッゲホ…ブヘッ!ゴホッゴホッ…ゴホッ………し、し失礼…ゴホッ…ゴホッ…」


「お、お姉さま、大丈夫ですか?」


「ゲホケホ…だ、大丈夫ですわ、あ~、ビックリした…喉がしびれたかと思いました。

ミウはよく平気で飲めますね。」


「実は私も初めて飲んだ時は、今のお姉さまと同じようになって、タロウを、思わず叱ってしまったのです。「女の子になんて物を飲ますの!」って。お母さまごめんなさい。」


「ふふふ、ミウちゃんが謝らなくていいのよ。何も言わずに『コーラ』を飲ませた太郎が悪いんだから。

伊佐江さん、今度は『メロンソーダ』を飲んでみたら?ゆっくりね。」


「わ、わかりましたわ。」


さっきとは売って変わって真剣な表情になり、少しづつ、少しづつメロンソーダを吸った。

少し口に入ると、味わうかのように、口をモゴモゴさせるとメロンソーダを飲み込んだ。


「こ、これは!先ほどの『コーラ』程ではないにしろ、喉にピリピリと…しかし程よいピリピリで甘くて果物のような味ですわ。

美味しい~!!!」


「お姉さま、ハンバーガーも食べてみては?」


「そ、そうですわね。でもナイフとフォークが見あたりませんけど…」


すると母さんが、


「伊佐江さん、ハンバーガーはこうやって食べるの。」


と、ハンバーガーを両手で持つと「ガブリ」とかぶりついた。


「え!?」


イサッチは、母さんの行動に驚きミウを見たが、ミウも同じようにかぶりつき、満面の笑顔を浮かべていた。


すると伊佐江は辺りを見回し、誰も見てないのを確認すると、小さく口を開け少しだけハンバーガーをかじってみた。


「パクッ」


「ん?!美味しい!!でも 何かしらこれ?なんだか不思議な味がするわ。

お肉の味かしら?」


と、イサッチは挟んであるバンズを取り、中を確認した。

すると見たことのない「黄色の四角い食べ物」が目に飛び込んで来た。


「クンクン…これでしょうか?」


イサッチはその物体の匂いを嗅ぎ、少しちぎると口に入れた。


「ん~~?なんでございましょう?」


その一部始終を見ていた母さんは、ニコニコしながら、


「それはね伊佐江さん、『チーズ』という食べ物なのよ。」


「『ちーず』?ですか?なんだか独特の味がします、あと匂いも。」


すると、『チーズ』を初めて見たミウも興味を示し、


「お姉さま、私にも少し『ちーず』をくださいませんか。」


「ええ、いいですよ。」


イサッチはチーズバーガーを少しちぎると、ミウのトレイに置いた。

するとミウも、御返しとばかりに、テリヤキバーガーを少しちぎり、イサッチのトレイに置いた。


「いただきます。」


ニコニコしながら、チーズバーガーを口に入れたミウだったが、その笑顔はすぐに複雑な表情になった。


チーズバーガーの感想を聞こうと、ミウの様子を見ていたイサッチは、


「あら、どうしたのですミウ?美味しくなかったですか?」


するとミウは、チーズの味を消すかのようにコーラを飲むと、


「いえ、美味しくない訳ではないのですが…なんというか…」


すると母さんがいきなり「ウフフフ」と笑ったかと思うと、


「まったく、ミウちゃんてば味の好みまで太郎とソックリなのね。」


その言葉を聞いたミウが、ビックリしてセラを見た。


「え?お母さま、それって…?」


「実はね、太郎もチーズが苦手なのよ。匂いも好きじゃないって。美味しいのにね~。」


と、母さんはイサッチに同意を求めるかのように、イサッチに目をやった。

するとイサッチは、


「え?これを嫌いな方がいらっしゃるのですか?」


「そうなのよ、チーズは結構苦手な人が多いのよ。伊佐江さんは『お酒』好きでしょ?」


「『オサケ』ですか?タロウ様がお作りになられた。」


「太郎かどうかは知らないけど、多分その『オサケ』」


「はい!大好きで御座いますわ!寝る前に毎晩飲んでいますわ。」


と、嬉しそうな返事をした。

すると母さんは、


「ミウちゃんは、『オサケ』飲まないでしょ?」


とミウに聞いてきた。


「はい…『オサケ』はちょっと…ファンタや果物ジュースの方が好き…かな…」


「やっぱりね、そうだと思った。チーズバーガーを伊佐江さんに進めて正解だったわね。

伊佐江さん、この国ではね、お酒と一緒に少しだけ食べ物を食べる習慣があるの、その食べ物にチーズはピッタリなのよ。」


「そうなのですか?王子も『オサケ』が好きですから、この『ちーず』も食べさせてあげたいものですわ。ユーリセンチには無いですから…」


すると母さんは、少しだけ考え、


「ん~、作れない事もないかも。」


「え?!セラさんは、『ちーず』を作る事が出来るのですか?」


するとセラは少し困ったような顔をしながら、


「私は作った事は無いんだけどね、『チーズ』は元々『ミルク』から出来ているの。その『ミルク』を発酵…つまり腐らせた物が『チーズ』ってテレビで見た事あるわ。」


イサッチは「ポカ~ン」としながらも、


「『テレビ』というのは、あの『動く絵』の事ですか?

確かに『ミルク』ならユーリセンチにありますけど…それを腐らせた物が『ちーず』とは…

ん?『腐らせる』?『ハッコウ』?」


するとイサッチは、何かを思い出したような表情でミウを見た。


ミウも同じように、『腐らせる』『ハッコウ』という2つのワードに聞き覚えのあることを思い出し、イサッチを見た。


2人の目があった瞬間、お互いが指をさし、


「イブレドさん!」

「イブレドさん!」



そう!かつて『腐った野菜を食べさせる宿』として有名で、客が全く入らなかった『イブレドの宿』の主人『イブレド』の事だった。


今ではタロウの作った『ジャム』のおかげで、ユーリセンチで1番の宿になったのだが、かつての悪評も2人はよく知っていた。


「イブレド?さん?」


母さんが、不思議そうに聞いてきた。


するとイブレドの事を、よく知るイサッチが、


「はい、宿屋の主人なんですけど、野菜やら何やら、とにかく腐らせてはお客に食べさせるって酷い評判の宿屋だったのです。」


「あら、まあ。」


「あ、でも今はタロウ様が作った『ジャム』のおかけで国1番の宿屋になりましたけど。」


するとミウが、


「あ!でもお姉さま、タロウが「イブレドさんの作るおかずは、僕の国にある食べ物と似てるから嬉しいんだ。」と言ってましたわ。」


その話を聞いた母さんは、


「へ~、そうなの。あなた達の国にも「発酵」を知っている人が居るのね。

実は、この国はね「発酵食品」が文化みたいな物なの。特に『漬物』は世界一って言われているのよ。

それから、他の国には無い食べ物や調味料があるわ。

昨日の夜に食べた『肉じゃが』や『サバの煮付け』もこの国独特の食べ物なの。」


するとイサッチは、昨日の晩御飯を思い出し、


「あ~、昨日の食べ物は美味しゅうございました。あんなに美味しいおかずは初めてでございます。」


と、その瞬間、イサッチは何かに気付いたように、


「ん?そういえば、このミウのくれたパンも昨日の魚とよく似た味が…」


「さすがね伊佐江さん、この『テリヤキバーガー』のソースは、『サバの煮付け』の味付けとよく似てるのよ。

肉と魚の違いはあるけど、このソースは何にでも合う『万能ソース』よ。太郎も智恵葉も大好きなの。」


すると、突然ミウとイサッチが、


「お母さま!」

「セラさん!」


「私に、」

わたくしに、」


「料理を教えて下さい!」

「料理を教えて下さい!」


「タロウに、」

「ラウクン王子に、」


「食べさせてあげたいんです。」

「食べさせてあげたいのでございます。」


と、2人同時に立ち上り、頭を下げた。


すると母さんは困ったように、


「ちょ、ちょっと2人供、そんな大きな声を出さなくても、ちゃんと教えてあげるわよ。特に伊佐江さんには太郎からもお願いされているからね。」


すると2人は安心したように、


「お母さま…」

「セラさん…」


「まあまあ2人供、座って座って。とりあえず今は料理の事は置いといて、買い物を楽しみましょ。まだまだいっぱいあるんだから、ね。」


「はい、お母さま。」

「はい、セラさん。」


それから3人は、食事を済ませ、買い物を続けた。


いろいろな店に入る度に、イサッチの叫び声が響いたのは言うまでもない。




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