18話 病み上がりと五徳

 笙に襲われた翌日、僕はいつも通り登校している。折れた腕は幸い自分の鬼としての再生能力でほとんど治った。まだ少し痛いけど……

 今日はガードマンとして行くとついてきた天邪鬼とキャットと登校している。その天邪鬼とキャットは普通の人に見えないのをいいことに女子生徒のスカートの中を覗いていた。完全に変態の所業だ。 

 僕は性欲剥き出しの妖怪を置いていこうとすると、前から来た人にぶつかってしまった。謝ろうとしてその人の方を見ると、血の気が引いた。その人の顔には眼球が3つあったからだ。

 漫画に出てくる3つ目と同じようだったが、漫画は二次元であり僕が見ている世界は三次元である。平面ではなく立体なのだ。立体である分、とても生生しく気味が悪かった。

 僕が気味悪そうにしていると、その人は立ち上がり僕の顔を再び見ると、やっと巡り会えたと言わんばかりの笑顔を見せ手を握ってきた。正直振りほどいて天邪鬼たちを引きづってでも帰りたい。

 そんなことを思っていると、やっと3つ目の人が口を開けた。

 「やっと会えました!愛しのご主人様(マスター)!」

 俺の心が凍りついた。どんな面白くないギャグを言われても凍りつかない自信がある僕が凍りついた。

 「え、えっと……人違いでは?」

 「いえ、そんなことはありません!私が求めたご主人様(マスター)で間違いないです」

 きっぱり即答された。掘り下げる前に1つ。

 「失礼ですが、あなたって女性ですか?」

 「そうですよ!もし、私が男だったらホモじゃないですか!やだー」

 「だ、だよね……」

 精神的に辛くなってきた僕はちらっと後ろを見ると、天邪鬼とキャットが口をあんぐり開けて立ち尽くしていた。再び前を向くと、目が合った。しかも3つ目全てに。僕が何か質問しようとした瞬間、3つ目さんは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。僕は確信した。この人、僕のことを本当にマスターだと思ってる。どうしよう……

 僕は再び天邪鬼たちを見ると、キャットはまだ口を開けている一方、天邪鬼は何かに気づいたのか駆け寄って来て女性に「君は、五徳かい?」と聞いたら瞬間的に顔を上げ天邪鬼を見ると「もしかして、天ちゃん?」と久しぶりに会った友達と再会したかのような空気が出てきた。

 「えっと、2人は知り合い?」

 「そうだよ。従僕は初めてだね。この子は五徳(ごとく)ちゃん。僕の昔からの友達だ」

 「は、初めまして!五徳です!よろしくおねがいします!」

 五徳ちゃんは転校生みたいな感じに自己紹介してくれた。

 「ちょっと聞いていい?五徳さん」

 「五徳でいいよ。で、何?」

 「その髪って地毛?」

 僕は五徳さんの頭を指して聞く。そこには太陽の光で光って眩しい金髪が生えていた。

 「そうだよ!ご主人様に会うから、昨日切って来たんだ!可愛い?」

 五徳さんの髪形は肩にかかるぐらいの長さで、個人的に好きな長さだった。僕は質問に答えようとするが、これが如何せん緊張してうまく声が出せなかった。童貞だからなのかどうか分からないが、僕は昔から女性と関わることが少ないせいなのか、今となっては言い訳になってしまうけれど本当に声が出なかった。

 「ん?どうしたの?あ、もしかして緊張してる?」

 「どうやら、そのようだね。まぁ、童貞だし仕方ないよ」

 僕の気持ちがわかる奴かと思ったら違った。ディスられた。怒る気にもなれない。

 「そういえば、天ちゃん。今日、家に行っていい?」

 「僕は、いいけど。僕はあくまで居候だから、家の人に聞かないといけないから少し待って」

 天邪鬼はそう言うと僕の方を向いた。言いたいことはわかるが、これ以上増えると僕が色々大変な目にあいそうだから僕は天邪鬼に目で「無理」と伝えると、すぐに五徳さんの方を向き結果を言う。

 「オーケーだって」

 「ちょっと―!何言ってるだ。僕は無理って言ってのに……」

 「え?さっき目で『いいよ』って言わなかった?」

 「言ってないよ!はぁ、その前になんで五徳さんはうちに来ようとするんだ?」

 「私はやっと巡り会えたご主人様(マスター)の元に―――」

 「嘘はいらない。さっき思い出したんだけど、五徳って百鬼夜行の中の1体だ。だとすると、七五三田から送られてきたスパイってことになる。違うか?」

 「……違うよ」

 「何?なんて言ったんだ?」と言おうとしたら、電話の着信がきた。画面を確認すると、七五三田からだった。僕はラッキーと思いながら電話に出ると、いきなり笑われた。

 「な、なんだよ。何が可笑しいんだよ」

 「だってよ、俺の妖怪だと知ると敵対心丸出しになるってバカだよ。まぁ、このままじゃ五徳も可愛そうだから俺が教えてやるよ。理由は1つだけだ。昨日うちの笙がお前をボッコボッコにしちまったから俺の代わりに見舞いに行かせたそんだけだ」

 「そうだったんだ……なんか悪いことしちゃったな」

 「てか、お前何処にいるんだよ。音の響きからして家じゃないな、外か?」

 「あぁ、外にいる。これから学校に行くところだけど五徳が来たから帰る」

 「そうか、明日は来いよ。じゃあな」

 電話を切ると、僕はすぐに五徳に謝った。五徳は僕に罰として家に泊まることになった。

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