KIRIYU-紅蓮のフォルティア-

暁月夜

第一章 『運命の歯車』

第一章プロローグ 『灼熱と悲嘆の声』

 ──身体が熱いよぉ


 黒く燃え上がる炎。それは人を一瞬にして灰にする程であり、煙を体内に取り込むだけでも身体が焼けるような感覚に襲われる。既に室内には煙が充満しており、部屋の片隅に座り込む少女の身体を蝕む。

 そんな時、大きな扉が重々しく開かれた。その扉からは数人の漆黒の兵が現れ、少女へと歩み寄る。


「ぃやっ」


 刹那、漆黒の兵の一人が前へと倒れこむ。その兵の背は赤く滲み出す。兵の後ろからは小さな人影が現れた。その者は少女へと手を差し伸べる。


「逃げるぞ!」


 周りにいた兵を薙ぎ払い、門へと急ぐが、先程よりも数多の兵が待ち構えていた。その者は数人の兵を薙刀で払い避け少女を森へと逃す。

 森の中は黒く燃え上がる炎と悲嘆の声で満ちていた。

 その光景は灼熱の中、森を駆け抜ける少女の網膜の奥底に焼きつく。血濡れた少女を数人の漆黒の兵が追う。


 ──熱い、痛い、苦しいっ


「誰か……誰かっ」


 呼吸を荒くし、震える少女の声は誰にも届くことなく叫びと呻きにかき消される。

 やがて、少女は力なく木に凭れかかる様に倒れこむ。漆黒の兵達は少女を囲い不気味な笑みを浮かべる。


 ──どこで間違えてしまったの?


「ぃや、いゃっ」


 ──運命ときの流れが狂い始めてしまった


 追い詰められた少女は兵達を拒む様に後退り、紫根の瞳に涙を浮かべる。


 ──この世から光の灯火が消えてしまうっ


「助けてっ」


 少女は、誰にも届くことのない森の中で、ただひたすらに────助けを求めた。

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