ゴミを見る目

鳩ノ木まぐれ

ゴミを見る目

 バスの中は穏やかな時間が流れている。暖房が効いており窓ガラスは曇っていた。

 僕は窓際の席に座っている。いくつかの気持ちが在るのに物静かな車内に居心地の悪さを感じていた。

 頭かスッキリとしていて「 」からになっているのがよく分かる。

――何かを考えなければならない・・・。

 思いに駆られて辺りを見る。バスの中に特質するモノは無い。窓の外は曇っていて見えない。

 結露した水滴に目を向けてみるが、何だか面白くない。水滴は水だ・・・。そんなことは分かっている。分かってはいるが・・・。今は大して必要がないと感じた。だから、僕は興味が無いと結論づける。他に何かないか、と僕は視点をめぐらせる。


――ガムのゴミと目が合った。


 僕はハッ、とした。今、少なくとも目が合った。そして僕はこのモノの事を何と呼んだ?

 ゴミだ。

 もしも、自分がそう呼ばれたら嬉しいだろうか。絶対に嫌だ! 僕はゴミに対して偏見の目を向けたことを悪いと感じてきた。

ただゴミを見つけただけだが、そのゴミが僕に与えてくれたものは大きい。少し愛着が湧いた気がした。

 ゴミというのも呼びづらくなってきた。せっかくだから名前を付けよう。ごーみん、ごみんみんetc.

・・・思いつかないからそのままガムの包み紙でいいか。

 

 ところで、この包み紙は誰が置いていったモノなのだろうか。

 例えば、ラップ口調の兄ちゃんがガムを食べて置いて行ったのだろうか。もしかしたら、サラリーマンが飲み会の口直しで貰ったガムの包み紙をポケットに入れっぱなしになったのが偶然そこへ落ちたのだろうか。

バスの外は見えないが、目的地に着く予感がした。


 さて、この包み紙ともお別れである。本当に数分の短い対話だったが、僕の内にある偏見というものに向き合うきっかけを身を挺してくれたこの包み紙には感謝を伝えなくてはいけない気がした。


――ありがとう


 これで僕は素晴らしい人間になることが出来る。

未来をもっと良くする事が出来る。

・・・あれ?


――君の未来は?


ゴミとして見られる日々。

おぞましい未来だと直感した。僕ならそんなのは耐えられない。

僕の決心と同時にバスは目的地に到着する。

包み紙を手に握った僕は立ち上がり出口へと向かった。

僕はこの包み紙にもう一つ教えてもらった。


――偏見されているモノを庇う事の責任の重さを。

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ゴミを見る目 鳩ノ木まぐれ @hatonogimagure

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