詩『命の天秤』の内容について(二)

 前回に引き続き、詩『命の天秤』の内容についてご説明したいと思います。今回は二番の詩の内容に着目します。


『命の天秤』


足音叩くと 誰かの歌が流れる街

ハムサンド頬張る 無邪気な笑顔

見える気がした


通り雨のように 降り注ぐ朝日が

眠った哀しみ また呼び起こす


琥珀色の滝に心休めると

バスタブで髪をくような

優しい気持ち溢れるの


あの時“好き”だと言ってくれた

おんなに見えるかしら?


(二)

(a)

太陽と月が 見張りを交代した時

命の天秤は 寄り添いながら

切なさ揺らす


(b)

夢心地な声で 面影へ祈っても

あなたの心は 振り向かないのね


(c)

寂しさの海に眠る この体は

青空へそっと向かうけど

想い出は深海うみを漂うの?


あの時“好き”だと言ってくれた

おんなになれるかしら?



時の迷い人の声に 誘われて

天使の温もり 置き忘れ

悲嘆ひたん奏でる 王子様


あの時”好き”だと言ってくれた

おんなになれるかしら?


 最初二(a)の部分についての説明ですが、これも何のことを言っているのかよく分からないと思います。

 私たちが生活しているこの世界では、大きく分けて二種類の時間があります。日が昇っている時間帯(日中)・日が沈んでいる時間帯(夜)となり、多くの人は日中に働く・学業に励み、夜は家に帰りのんびりする・大切な人と過ごす、などが多いです。

 繰り返しになりますが、今作は心に傷を負った香澄の心情がベースです。彼女は日中は特に何も考えず、普通に友達と遊んだり出かけたりと楽しい生活をしています。ですが夜になると自然と一人になる時間が増え、彼女はふと過去のことを思い出すようになります。

 私は香澄が友達と遊んだり勉学に励む瞬間を、太陽がこの世界を支配しているに置き換えました。そして勉強を終え友達と遊び終えて、月が出ている時に一人家へ帰宅する時間をに例えました。太陽と月が見張りを交代した時、日中(太陽)から夜(月)へと変わる。比喩表現となります。


 次の「命の天秤……揺らす」という内容についてですが、これは『命の天秤』という言葉が持つ意味が大きく関係しています。その意味を解き明かすヒントとして、香澄が想っているトムの心情が大きく関わってきます。

 作中におけるトムの心情の変化として、大きく分けると二通りの考え方に置き換えることが出来ます。


 一つめに香澄たちと一緒に過ごす時間、つまり実際にトムが生きている・生活している『現実の世界』です。香澄たちと生活を共にしながら、彼はそこで生きがいや夢を持つことの喜びを実感します。

 ですが彼の中にはもう一つの心のよりどころがあり、それが二つめとなる亡き両親が生活する天国、『あの世の世界・夢の世界』です。

 確かに香澄たちと『現実の世界』で生活をすることで、彼自身生きることの喜びを見出しています。その一方でトムの心の中では、日に日に亡き両親への想いも強くなってしまいます。そして第二幕ではその想いがさらに増し、トムをさせる原因となってしまいます。


 『現実の世界(真実・自分が生活している世界)』と『夢の世界(空想・過去や未来を自分の都合の良いように想像してしまう世界)』に板挟みになった状態です。別の表現をすれば、心の『光と影』の部分……とも呼べます。このような複雑な心境が入り組んでいる香澄の心の状態を、『命の天秤』という表現に例えました。

 そのことを意識しながら詩の内容を翻訳すると、「寄り添いながら 切なさ揺らす」とは、『その気持ちは常に自分の近く(心の奥底に眠っており)にあり、私(香澄)が一人になると、嬉しいことよりも寂しい気持ちを思い出してしまうことの方が多い』という意味になります。


 次の(b)の意味について見ていきますと、これは香澄の名前の由来でもある『かすみ草の花言葉』が大きく関係しています。かすみ草の花言葉にはというものがあり、夢のようなうっとりとした気持ちを指しています。

 作中において、香澄は心に傷を負ったトムへ何度も何度も励ましの言葉をかけてきました。ですがそれでもトムの気持ちは亡き両親の方へ向いてしまい、最終的に香澄たちへ背中を向けて歩いてしまいます。

 そんな香澄の切ない心情を表現したのが、「夢心地……振り向かないのね」となります。


 そして(c)の内容を掘り下げてみましょう。「寂しさの海に眠る この体は」とは、傷ついた香澄の不安定な心の状態を指します。この部分も(a)と似ている部分が多く、表向きは「私はもう大丈夫よ、心配してくれたありがとう」と友達や知人らに言い聞かせています。

 次の一文の「青空へ向かうけれど」とは、どんなにつらい経験をしても時は戻らず、『私(香澄)は現実の世界で生き続けなければならない』という意味になります。

 これが最後の一文、「想い出は深海うみを漂うの』という内容へとつながっていきます。とはもちろん、香澄の過去(トムと一緒に過ごした数年間の日々)を指します。

 

 上記でも説明しましたが、この詩の中に登場する香澄の心は、非常に不安定な状態です。しかし哀しみに打ち浸れる暇はなく、彼女は現実の世界を生き続けなければなりません。

 香澄は今現在、自分が生きている時を歩み続けています。ですが彼女の心に眠る本当の気持ちは、『本当の弟のように可愛がっていた、トムに帰ってきて欲しい』、『トムのいない世界なんて、私には耐えられない』と心の奥底で一人ひっそりと泣いています。

 またあえて「深海」という文字をした理由として、香澄の心の傷の深さを私なりに表現してみました。それだけ深く心が傷ついているということで、という香澄の気持ちが強く反映されています。

 以上のことを踏まえると、「」という哀愁の込められた内容となります。

 最後の一文については基本的に一番と同じなので、説明は省略します。


 これらのことをまとめると、二番の詩の内容は以下の通りとなります。


            『命の天秤(二番翻訳)』


 [日中は勉学に励むという私(香澄)なりの日々を過ごしており、今日も色んなことを学んでいます。たまに友達や知人たちと遊びに行ったり、楽しいお話を楽しむこともあります。ですが太陽(日光)が沈む時間帯になると、外は月(夜)が支配する時間となります。それはまさに太陽と月が見張りを交代する瞬間でもあり、私の心の奥底に眠っている、楽しかったあの時の想い出も蘇ってしまいます。

 今(現実の世界)を生き続けなければならない私なのに、なぜか想い出(過去・夢の世界)に眠るつらく哀しかった出来事ことばかり考えてしまいます。私の心は『命の天秤』のように、二つの相反する心を揺らしているのです……


 トムが一人で寂しくならないようにと思った私は、「困ったこと・悩み事があったら、いつでも相談してね」と伝えました。夢の世界のようにうっとりするような、優しい言葉を……

 それでもトムは私の声に答えてくれることはなく、数年前に他界してしまったご両親のことばかり考えているようです。あぁ……私はこんなにあなたのことを心配しているのに、トムは私の声に振り向いてくれないのね……私の声に耳を傾けてくれないのね……


 友達や知人たちは私のことを心配してくれて、その度に私は「もう大丈夫よ、ありがとう」と声をかけます。そんな友達や知人たちと一緒に時を刻み続けなければならないけど、私が望んでいることはただ一つだけ……

 トムの声が聞きたい……トムの笑顔が見たい。それは叶わない夢だということは分かっているけれど、私の心はあの子がいた世界を夢見続けているのです……


 別れ際になってトムが初めて教えてくれた本当の気持ち、“好き”という一言だけど、その言葉が私の頭の中から離れないの……

 ねぇ、トム。今の傷ついた私は、あの時あなたが告白してくれたおんなに見えるかしら?]


 という内容になります。これが詩『命の天秤』の二番における、大まかな内容となっています。


 次回は最後の詩の内容について、ご説明したいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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