リスタート エンジェル

博田ヒロ

1羽目

 彼が涙を流していたのは辺りの焦げ臭さに当てられたせいではないだろう。

 黒雲が太陽を隠し、それを支援するように立ち上る煙、その真下には雑にえぐり取られたクレーター状の穴があり、煙たがられながらも必死に生きてきた草木は無慈悲に灰と化していた。

 穴のすぐ側にはうつ伏せの男女がいた。1人は疲れ果てた社畜が寝床で倒れるように、もう1人は必死に寄り添う良妻のように。しかし2人の表情はどこか穏やかで何かを成し遂げたように清々しかった。静かに見守れば2人はずっと一緒にいられるだろう。

 しかし、そんな2人には目もくれず、穴の中心にいるを彼は抱きしめていた。両膝を地につき、老婆のように背をまるめて頭も下がっている彼の顔は風によく揺れる長い髪が隠していた。だが彼女は全く動かない。それを確かめさせられる度、彼女の熱と共に彼は目から水分を奪われていった。

 泣いても鳴いてもこの更地は児玉の1つも返してくれない。いくら吐き出そうしても悲しみは都合よく出ていってくれず、後悔の念と共に残っている。

 後悔すると人は何を思うのだろう。これ以上していても意味がないと諦めるのか、それとも失敗や経験を次に生かそうとするのか、しかし、彼女を忘れられるほどの存在に留めておけなかった彼にとって、どちらも叶わぬ夢だった。だから彼は思う。もう一度やり直せるなら、と。

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