色欲の加護を持った高校生の異世界物語

薄 リキ粉

第1話 ~教室での一時~

爽やかな晴れの日に、教室で母親の自称父親の愛情の欠片で作った弁当を食べていると誰かから声を掛けられる。


「おい、飯食い終わったら職員室にプリント取りに行くぞ」


「……」


「おい!無視すんな!」


「……面倒」


「またか!?何時も何時も面倒ばっか言いやがって!お前は何か面倒の神様に取り憑かれた何かか!?」


 まったくもって意味の分からない事を言っているのは、目付きの悪いいかにも柄が悪そうな黒髪の僕の親友…否悪友の剣崎けんざきという男だ。

 小学生からの付き合いで、毎度毎度飽きもせずに僕に絡んでくる迷惑な奴だ。

 それでも変わらず付き合っているのは、一種の哀れみからだろうと僕は思う。

 剣崎は昔からその性格と見た目から皆から恐れられて疎まれてきた、とかなんとか……って言い始めたの良いけど僕も正直詳しく知らないので止める。


「で何の用だ?」


「今の間でどうして数秒前に言ったこと覚えてないんだよ!」


「はいはい、分かったから要件を言え」


「だから!今日お前は俺と日直!だから職員室に行ってプリントを取ってくる!ドゥー ユー アンダスタンド?」


 凄い剣幕で僕に言っているのは、小学生からの付き合いの親友…否悪友の剣崎……ってさっきもこれ言った気がするな。

 まぁ良いか……

 後、アンダスタンドのドは発音しないと僕は思うがわざわざ指摘するまでも無いか。

 ついでに言っておくとこいつの成績は言わずもがなクラス最下位だ。


「おい!聞いているのか!」


「……何だまだ居たのか」


「まだ居たのか、じゃねぇよ!早く職員室にプリント取りに行かねぇと休み時間終わるだろ!」


「僕は今、中途半端な愛情が籠った弁当を食べなきゃならないんだ邪魔するな」


「何だその何とも言えないような可哀想な弁当は……」


「何だも何も、父親大好きな母親が僕のために愛情片手間に作った弁当の事だ」


 僕の母親と父親は所謂おしどり夫婦と呼ばれる人達だろう。

 休日仕事が無い日は、母親と一日中ベタベタベタベタ、世界中のギクシャクした夫婦に見せたら殺されてもおかしく無い事を毎日の様に繰り返している。

 正直おしどり夫婦というより粘着夫婦と呼んだ方が妥当だろ。

 夜も夜で良い歳なのに家中に響くほどの声で何かを繰り広げているし……


「おいどうした?変な顔してるぞ」


「僕が変な顔だったらお前の顔は凶器にでもなっているのか?」


「誰が顔面凶器だ!」


「自分の顔を便器に溜まっている水で確かめて来い」


「そこは普通に鏡で良いだろ!」


「良いのか?突きつけられた現実にお前は耐えられるのか?」


「俺の顔面を複雑な家庭の真実みたいな感じで表すのは止めろ」


「なるほど遺伝だったのか」


「そう言うことじゃねぇよ!」


 そんなどうでも良い会話を暫く続けていると、長髪で黒髪の一人の女が近付いてくる。

 容姿が整っていてザ・美人感漂う女は意気揚々と僕と剣崎の目の前に立つと手を上げて、


「ようようお二人さん!何時も仲がよろしくて私は嬉しい限りだよ」


「誰だ?」


 訳の分からない挨拶をしてきた。

 変な話し方の女に先んじて聞いたのは僕だ。

 まったく持って見覚えがない…という事は無いが僕の記憶の中にはこいつに関する情報は見当たらない。

 こんな特徴的な話し方をする奴、覚えていない訳がない。

 つまり初対面だ。

 でも、剣崎は知っている様に見える。


「剣崎、こいつ誰?」


「お前は何時になったら俺以外の人間の名前を覚えてくれるんだよ」


「正確には僕はお前の苗字しか知らない、名前何て僕に言ったかお前?」 


「いや言ったよ小学生からの付き合いでなんだから覚えてくれよ」 


「面倒だ」


「またか……」


 先程と違い今度は怒りもせず只呆れられた。

 馬鹿にされた気分で少し癪だが、面倒だしいちいち言う事でもないだろう。


「うんうん、君達はやっぱりこうでなくっちゃね!」


「だから誰?」


「忘れてられたのなら自己紹介といこう!私の名前は愛宮あいみや 京夏きょうか!世間で言う美少女をやらせて貰っている!よろしく!」 


「夜露死苦」


「うん?何かおかしくなかったか?」


「気にするな剣崎、気のせいだ」


「そ、そうか」


 自称、美少女に少し殺意が沸いたので変わった挨拶をしてみた。

 言われた本人は全然気付いていないけど、剣崎は勘づいたみたいだな、流石元ヤクザ……イメージだけどな。


「これで自己紹介したの通算36回目だね!」


「まったく覚えていない」


「なぁ京夏」


「何だい!剣崎 劉くん!真剣な表情をして!相談かね?この私に出来ることなら何でも言ってくれたまえ!」


「フルネームで呼ぶの止めろ、後悩みがあってもお前だけには相談しねぇよ」


「ツンデレなのかな?そうだとしたら私は早くデレが見たいよ!あ!でもそんな事で私の心を射止められると思うなよ!キャピ!」


「剣崎一発殴りたいんだが、こいつの体押さえていてくれないか?」


「落ち着け、俺もそうしたいけど此処じゃ目立つ」


 剣崎もこいつを殴るのには賛成らしい、今日の放課後にベタに体育館の裏にでも呼び出してみるか?

 ……そう言えば体育館の裏は職員玄関だったな。

 駄目か、つくづくこの学校はドラマとかに向いていない。

 まぁそんな基準で貶されていたら学校としては堪ったもんじゃないな……


「それで剣崎 劉くん、私に何かあるのかね!」


「だからフルネームで……まぁ良いかどうせ言っても聞かないし」


「分かってるね!」


「男だったら直ぐにでも殴り飛ばすことろだぞ」


「男女差別かい?それはいけないよ剣崎 劉くん!世界平等じゃなくちゃ!だって私は一人しか居ないんだから!でも殴らないでね!」


「お前みたいな奴何人も居たら世界が終わる」


 こんな奴が、何十何百もこの世に居たら世界中の皆がストレスで戦争勃発間違いなしだ。

 勿論、僕は嫌みのつもりで言ったのだが肝心な自称美少女は気付いていない。

 それどころか嬉しそうにしている、一体頭の中でどんな解釈をされたのだろうか。


「その通りだよ!天峰あまみねくん!君なら分かってくれると信じていたよ!というか早く私に名前を教えてくれないかね!」


「勝手に出席簿なり見て勝手に覚えて勝手に呼べば良いだろ」


「チッチッチッ、こういうのは本人から教えてもらってこそだろ!」


「意味が分からないが、その指を第2関節から90度曲げても良いなら名前を教えてやっても良いが?」


「駄目だよ!そんな事したら一体何人の人が悲しみ絶望に冴えまられるか君は考えているのかい!」


「その前にお前の指を曲げて悲しみ絶望する奴等を僕に紹介してくれ」


 僕はこいつの指の第2関節を関節を、親の敵のような眼で見つめながら言う。

 というか何時まで指を立てている気だ、そんなに僕に折って欲しいのか?

 僕がそんな事を考えているのも露知らずこいつは指を立てたまま喋り続ける。

 我慢できなくなり指を掴もうとすると、剣崎に肩を叩かれる。


「どうした?」


「今気が付いたんだが教室の時計止まってないか?」


「本当だな、秒針がピクリとも動いてないな」


 確か創立百周年とか言っていたし、時計も新しいとはいえそうとう前のやつだろう。

 壊れても仕方がない。

 時計を見ていると、うるさい自称美少女が何か言っている。


「ねぇねえ!見てこの人お茶を空中で止める技を持っているらしいよ!」


「はぁ?何言ってるんだよ」


「やっぱり指折った方が良かったな」


「ホントだよ!見てよ!感じて!私を!」


 これ以上放置してもろくな事を言わない気がするので、こいつが言う方向に眼を向けると本当にお茶が空中で止まっていた。

 え?何だこれ?

 お茶だけではない隣の席の奴が水筒に手を伸ばしながら固まっている。

 よく見ると、同じような光景が教室内でも起こっていた。

 誰かは箸を弁当に突き刺したまま、誰かは教室のドアに手を掛けたまま、微動だにもしない、完全に止まっていた。


「どういうことだ?」


「僕に聞かれても分かるわけがないだろ」


「そうだよな「ただ」……ただ?」


 僕の台詞に剣崎は眉間に皺を寄せながら僕の顔を見つめる。

 端から見れば不良とその不良に脅されている生徒Aの絵面だろう。

 まぁそれはそうとして、こんな状況だが分かることもある。

 止まった人、止まった時間、これらから導きだした僕の答えは


「これで職員室にプリント取りに行かずに済むな」


 だった。

 時間さえ止まってしまえば授業なんて受けれないのだからプリントを持ってくる必要なんて皆無だ、それどころか永遠の自由時間が僕たちに与えられた、実に喜ばしい事だろう、と僕は思っているが剣崎はそうでもないらしい。

 僕の素晴らしい答えを聞いてから明らかに怒っているが分かる。


「そういう問題じゃねぇだろ!馬鹿なのか?お前は頭のネジが何本外れんだよ!」


「残念ながら僕は至ってまともだ、その証拠に成績はクラスに一位だぞ」


「そういうこと言ってじゃねぇよ!」


「まぁまぁ落ち着きたまえ!諸君!こういう時こそ冷静に沈着に、さぁー深呼吸をしよう!吸って吐いて吸って吐いて吸って吐いて……ゴホゴホゴホ!」


「「馬鹿か?」」


 こいつの場合、元が元なのでこの状況で可笑しくなっているのか、いないのか全然判断できない。

 何度も深呼吸を繰り返して、噎せて苦しんでいるこいつに僕らは声を合わせて言う。

 流石ネジが元から無い奴は違うな。

 まぁそのお陰で、一旦冷静さを取り戻した事については感謝しなくもないが……


「それでどうする?」


「剣崎取り敢えずドアが開くかどうか確かめてくれ」


「あ、あぁ分かった」


 僕がそう言うと剣崎は一番後ろのドアを開こうと手を掛けて横にスライドさせようとする。

 が、ドアはウンともスンとも言わない。

 他の人達と同様にまったく動かなかった。


「最悪だな」


「そうだな」


「「これじゃ」」


「助けを呼べない」「トイレに行けない」


「「はぁ?」」


「お前今何て?」


「いやトイレに行けないなと思っただけだが?」


「いやいや心配するとこそこ?」


「他に何が……あ!なるほど腹が減っても飯が食べれないな」


「そうそう飯が、ってそうじゃねぇわ!助け!人を呼べないだろ!」


「はぁ、剣崎……よく考えてもみろこの状況で僕達以外の人が動いている確証が何処にある?」


「うっ、言われてみたらそうか……」


 僕の急な切り返しのまえに、剣崎は押し黙って俯いてしまった。

 見た目はアレだが剣崎は以外と打たれ弱い所がある。

 剣崎が落ち込む中、自称美少女はというと人の鞄から財布を抜き出していた。


「自称なんとか、何している」


「何って!止まった人達からお金を借りようとしていたところさ!」


「知っているか?それは世間では窃盗って言うんだぞ」


「違うよ!私自らがお金を借りて何倍にもしてあげようという親切心からきてるものなんだよ!」


「確実に犯罪だな」


「私の美を保つにはお金が掛かるんだよ!そしてこんなチャンスは滅多にこない!つまり今しなきゃ何時する?」


「少なくても今じゃないことは確かだ」


「天峰くんはツンが多いよね!何時になったらデレを見せてくれるのかな?楽しみで仕方ないよ!」


「僕はツンデレじゃない、ツンツンなだけだ」


「それより天峰、本当にどうする?」


「さぁ?聞けば良いじゃないか?」


「「え?」」


 僕は何も無い空間を指差し、ポカンと口を開けて固まっている二人を尻目に独り言の様に呟いた。


「説明してくれよ、そこの誰かさん」


「天峰……」「天峰くん……」


「おい待て、人を可哀想な眼で見るな」


「だって……な?」


「そうだよ天峰くん……」


 二人の態度が完璧に変わっている。

 自称なんとかに、いたっては口調も変わり本気で心配しているが分かる。

 それに腹立たしさしか沸いてこない。

 何時も自分はこんな感じだという事に気付いてないのだろうか?

 ……あ、その台詞じゃ自分が認めたみたいになってしまったな……


「だから居るんだって!そこに何かが!」


「天峰、取り敢えず深呼吸してみろ」


「天峰くん、私に出来ることがあったら何でも言ってね、でもエッチな事は駄目だからね!」


 すると空間が歪み、一人の女性が現れる。

 微笑をしながら、まるで悪戯が見つかって誤魔化すような笑顔で話し出す。


「フフ、バレちゃったら仕方ないわね……私の名はルクセリア、所謂神様「だから!止めろ人を頭の可笑しい奴見たな眼で見るな!」「天峰!いったん落ち着けお前なら出来る!俺は信じているぞ!」「天峰くん、私の初めて・・・以外で欲しいもの無い?買ってこれないけど教室漁ってでも探してあげるから」……」


「フフ、バレちゃったら仕方ないわね……私の名はルクセリア、所謂神「剣崎僕は真面目に言っているんだ」「あぁ分かってるさ、分かってるから帰ってこい!天峰!」「絶対分かってない!」……おい!!聞けや!!!!!」


 突如甲高い声が教室に木霊する。

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