ぼくにまかせて
屋根子ねこ
第1話
彼女が「そろそろリップがなくなっちゃう」と口にしたとき、僕は、愛おしい彼女へ捧げていたこれまでの愛情がまったくの不十分であったことを悟った。
「僕に任せて。いつものでいい?」
「明日、仕事の帰りにデパート寄るから大丈夫」
「じゃあ一緒に行こう?そのあとご飯食べて帰ろうよ」
細い指を捕まえる。
どこへも行かないように、一生ほどけないように、指と指を絡ませてぎゅっと握った。
雪絵がくすぐったそうに身を震わせてから「仕事終わったら電話してね」と言って指を引き抜こうと力を入れるので、逃がすまいと握る力を強くする。
「一緒に出かけるの久しぶりだね」
「あれ?お母さんのところに帰ったのって先月だったっけ」
「そうだよ。結局、君のお母さんと僕のお母さん二人で旅行に行ってて会えなかったじゃないか」
「そっか。いつのことだったか分かんなくなっちゃってた」
「君は本当に忘れっぽいね」
何もわからなくなってしまっていいんだよ。
言いたい言葉は飲み込んだ。
絡み合う指はそのままにして腕を持ち上げると雪絵の腕もついてくる。
唇に彼女の手の甲を押し付けた。
「全部僕に任せて」
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