第2話
牧村という隣人は、状況が掴めないながら、大家と美緒が好意的な話をしているとは思えない。
「とりあえず、もうこんな時間ですし、後日改めてということにしたらどうですか?」
腕時計を大家につきつける。もう22時を回っていて、外で大声を出すのはちょっと迷惑な時間帯だ。
奥の部屋の住人が、ドアからコッソリと顔を出して様子を伺っていることが気になっていた。女の子が見世物になって可哀想、という気持ちも手伝っての言葉だった。
「…む。じゃあ、明日来るから、考えておくんだよ」
牧村とは大違いの、冷たい口調だ。
鉄の階段を大家が降りていくのと、覗き見ていたドアが閉まるのを確認すると、牧村は微笑んだ。
「大丈夫?」
掛けられた言葉にコクンと頷いてみせ、再び涙を拭う。
「…ありがとうございました。牧村さんの一言、本当に助かりました」
真っ赤な目を上げられて慌てる。
嬉し泣きにせよ、悲しくて泣くにせよ、女の涙は苦手だ。
「んっ。いや…。大家さんも、随分と冷たいこと言うよな」
目の前にいる女の子は、160cm足らずで、肩に掛かるくらいの髪。自分の肩下くらいから見上げる彼女が小さく見える。
牧村は思い出したように、「あっ、そうだ」と呟き、手にしていたビニール袋をあさり始めた。何かを手にしたようで、
「はい。コレ食べて、少しでも元気出しなよ、ね」
美緒の前に差し出されたのは…プリン? コンビ二で見かける、大きなプリンだ。
これを持っているということは、牧村が自分で食べようとしていたのだろう。――意外だ!
キョトンとする美緒に、押し付けるようにして渡す。
「隣なんだし、困ったことがあったら、いつでも呼んでいいからね。…じゃ」
彼は最後まで微笑んでいた。
人の笑顔に元気を貰えるなんて、美緒は今まで気付かなかった。
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