第38話 今のこと

抜けたと思った。

のですが、うつはまた来ました。


「こんにちは、うつです」


「こんにちは、またきたの?」


「はい。まだまだあなたにはたくさん渡すものがありまして」


「渡すもの」


「はい。今回はこれを」


「さびしさ詰め合わせ?」


「はい。各種さびしさをとりあわせています」


「いらない」


「そういうわけには。これはあなたの落とし物ですから」


「落とし物?」


「はい。忘れ物とも言えますが。あなたが感情をなくしていた間のさびしさです。死にたいとだけしか感情がなかった時の」


「……。しかたないなあ。もらっておくよ」


「じゃあ、また来ます」


「もう来なくていいよ」


「落とし物はまだまだありますから。あなたはよくても、こちらが困ります、倉庫がいつまでたっても空きません」


「じゃあ、しかたないか」


「はい。しかたないんです」


「ところで、あんたのところの倉庫が満杯だと、私がなにか困る?」


「未来の思い出を蓄えられません。だから、できるだけ早く返したいんですが、一気に返すと負担が大きすぎるでしょう」


「そうなのかな?」


「なので、また来ますよ」


「次はなにを持ってくるの?」


「恐怖ですかね」


「たまにはいいものも持ってきてよ」


「歓喜や怒りは躁の担当ですから、うつにはどうしようもないんですよ」


「そっか。じゃあ、躁によろしく伝えておいて」


「わかりました。それでは失礼します」


「はいはい、ばいばい」


ばいばい。そしてまた会いましょう。

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