第11話 食欲の理由

 我が家は両親共働きでした。

 母の家の家業が好調だったため、支店を両親が任されていました。


 父は働かないし、家事もしないし、母がいないと子供を叩く人間でした。


 母は父のぶんも働いて、家事も全てやっていました。

 弱音を吐くのは負けだと歯を食いしばっていたそうです。


 そんなことも知らなくて「家の手伝いもしないでゲームばっかりして!」と叱られて私は憮然としていました。


 母は子供に教えるということが出来ない人でした。弱音を吐くということも。一時も働かずにいることができない。

 大正生まれの祖母の教育が、そうさせたようです。


 お手伝いの仕方を教わったことはなく、米の研ぎかたも、洗濯のしかたも、小学校の家庭科で教わりました。


 そんなふうに忙しすぎた母が夕食を作るのは午後八時、悪くすると、午後十時過ぎでした。

 その時間まで、腹をすかして、ただ待っていました。

 うちにおやつという概念はありませんでした。

 休憩をとるということを知らなかった母に

、おやつというものを考え付く余裕はありませんでした。


 私はいつも腹をすかせていました。

 母の不機嫌の理由もわからず、

 父に叩かれる理由もわからず、

 ただ、腹をすかせていました。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る