第2話 祝い町
「ついに来てしまったか・・」
結局行く当てもなく、着いた先は祝い町だった。実際、自分が落ち目になると、友だちなど冷たいものだった。
「・・・」
もう日が暮れかけて辺りは建物も人も夕日に赤く染まっていた。僕は人間の冷たさを噛み締めた。
町との境界線になる道路には、「イエスは人類全ての罪を背負って死んだのです」とバカでかく書かれ、更にその周りに怪しげな似たような言葉が落書きのような殴り書きで無数に書かれた看板が立ち並ぶ廃墟のような教会が何の目的か一軒建っていた。それだけでも躊躇するに十分な材料だったが、その向かいの町の入り口で早速、ザ・ホームレスといった装いの汚れきったじいさんが濁った目で僕を出迎えるように立っていた。じいさんはゆっくりと何か壊れたおもちゃのようにこちらに近づいて来て、もごもごと何か僕に話しかけようとしてきたが、僕は絶対に目を合わさないよう、逃げるようにして足早に町に入った。
町は薄暗くジメジメしてどこかすえた匂いがした。太陽は平等に世界を照らしているはずだが、ここにはその影響が届かない負の何かがあるかの如く、暗く湿っていた。
殆ど人の気配が無い。時々見かける何をしているのか分からない彷徨うように歩いている影のようなおっさんたちには、生気を感じさせる何かが全くなかった。町をうろつく野良猫でさえもどこか、すさんだ気配を身にまとい、その淀んだ目を僕に鋭く向けた。
同じ日本の町とは思えないほど、しかも自分が住んでいた街の同じ区画にある町とは思えないほど、ここは異空間の別次元の別世界のパラレルワールドだった。僕はそこに迷い込んでしまった何も知らない子供の様だった。
パキッ
その時、何かを踏んだ。足元を見ると、注射器だった。
「・・・」
角を曲がると道路わきに燃えた車の残骸が転がっていた。
「・・・」
僕の恐怖は更に増した。
「あるよ~、あるよ~」
裏路地に入ると、何か怪しげな下っ端ヤクザのようなおっさんが、何やら小声の様でそれでいてはっきりと聞こえる声量で何やら叫んでいる。何があるのか分からなかったが、決して触れてはいけないやばいものであることは分かった。
このまま進んでいって本当に良いのか、迷いに迷いながらそれでも他に行く当てもなく、とにかく歩いた。何か絶対に行ってはいけない、入ってはいけない、触れてはいけない世界に僕は今入ろうとしているのではないかという、今まで経験したのことのない未知の恐怖が全身を襲っていた。
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