王様は夢の中

夕暮 景司

第1話

第一話

 何故か友達の家にいる。それも小学生の時の友達、武昭の家。もう5年も会っていないやつなのに。

 武昭がコンビニで爪切りを買ってくるように俺に告げた。俺は言われるがままに家を出て近所のコンビニへと歩き出した。

 後ろで物音がした気がした。パッと振り返るとそこには高校時代の女子同級生、角谷由里子が黒いゴツゴツしたゴジラ似の怪物に踏みつぶされていた。怪獣は角谷を踏み潰した後、俺に向かって突撃してきた。やばい、走って逃げろ!

 今俺は逃げている…!俺は怪獣から逃げている….!なのに、全然足が前に進まない。おい、ヤツはもうすぐそこまで迫っているんだぞ!!逃げろよ、俺!やばい、怪獣が口を開けた….もうお終いだ――――――


 聞き慣れた不快なアラーム音が耳を揺さぶり、目を開けるとそこはいつもと同じ見慣れた自宅のベッドの上だった。窓から差し込んだ白っぽい光が、そこは平穏な朝だということを伝えてくれる。ベッドに横になってスマホをいじっていた間に、寝落ちしてしまったんだな。まったく…やっぱり夢だったのか。でも夢を見ている間はそんなことに気がつかない。その出来事がさも現実で起こっているかのように俺は感じ、考え、行動した。

 起きてからよくよく考えると夢の中では摩訶不思議なことがたくさん起きている。怪獣は無論のこと、なぜ登場人物が武昭と角谷なのか。もう二人には長い間会っていない。勿論、この二人の間に接点はない。あと一番よくわからなかったのはなぜ武昭は俺にコンビニに爪切りを買わせようとしたのかだ。

 そんな夢の記憶は、昼大学の友達と駄弁る頃になれば、いつの間にか消えてしまうだろう。怖い夢ではあったが、その解読不能の不思議なストーリーとすぐに消えてしまう儚さに大学生ながら趣を感じる。夢は内容が面白いんだから、消えてしまわないで記憶に残っていればいいのに。そうたまに感じてしまう。

 さて、今日も現実世界を充実させるために大学に行こう。そう思って時計を見ると時計は行くはずだった一限の終了を知らせていた。

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