転生者は時を遡り世界を救う
鈴木 淳
第1話 異世界転生にタイムトラベル!?
――どうしてこうなった……。
そう思いながら、俺はこの目の前の光景を目の当たりにしながら、過去を振り返る。
思えば、何にもない人生だった。
平凡な子供時代を過ごし、学生生活は恋人も出来ない真っ黒な時だった。
会社に就職して、身を粉のようにして働いて気づいたらいつの間にか歳が三十歳になっていた。
同窓会が三十歳の時に行われた。
私は少しだけ淡い期待を持ってその同窓会に行った。
なのだが、周りの友達や女の子達は既に結婚をしていたりして子供もいるとか言っていた。
そんな俺と比べたら今の俺は何にもない。何も残せていない。
だから、街コンとかに参加したりしたのだが、陰キャな俺には元々会話スキルが無かった為に、上手く行かない。
仕事も最近は新しく入ってきた新人と比べられて、怒られてばっかりの毎日だ。
そんな生活が続いていくと心が擦れていく。段々、心が病んでくる。
そして、私は三十五歳にしてうつ病になってしまった。
会社に行くのが辛くなってしまい、同期や新人からはもう見向きもされなくなる。
その歳の十二月に会社から自主退職する事を促されて、俺はそれに同意して会社を辞めた。
そこからは外に出るのは心療内科に行く時か買い物をする時だけ。
それ以外は全て自宅に籠って、ただただリア充達に嫉妬して攻撃したりまとめサイト等を見て、一日を潰す。
そんな日々が続いて十年。
ついに貯金が尽きた。タバコも酒もギャンブルも何もしなかった。
それだけが俺の自慢だったけど、それも働いていなければ底をついてしまう。
今更、親を頼るわけにはいかないし、働く気力もない。
でも、親を頼るしか俺にはもう道が無かった。
だから、なけなしの金で切符を買って、駅のホームで電車を待つ。
もし、親にこの事を話したらなんて言われるだろうか。
罵倒されるのかな。それとも勘当されるのかもしれない。
当然のように、罵倒された。お前はなんでそんなに根性がないんだ、とか。
未だにお前が結婚していないのも働いてないのも自分に甘いからだ。努力してないからだ。
そう言われた。
確かにその通りだった。もっと、積極的になっていたら、努力していたら道は違ったかもしれない。
でも、今そんな事を言われてももう人生はやり直せないんだ。
無性に怒りが沸いた。
俺だって努力したさ! 頑張ったんだよ! でも、それでも上手く行かなかったんだ。
どうして誰もわかってくれないんだ……
親と罵倒のし合いをして、結局、自分から家を出ていった。
帰りの道。もうどうしようもない。
とりあえず、家に帰ろうと切符を買った。もう、これで文無しだ。
これからどう過ごせば良いんだろうか。
世界は俺を置いて回っていく。俺を置いて。
その時、酔っ払いがふら付きながら俺の肩にぶつかった。
思いもよらない衝撃に体が横に倒れる。
そこに、女学生がいた。
「あ……」
気付いた時にはもう遅い。
彼女の体は駅のホームから転落してしまった。
そして、無慈悲な電車の光が近づいてくる。
気付いたら体が動いていた。火事場の馬鹿力というのか私は女学生を抱えて、駅のホームに持ち上げた。
そこに電車が急ブレーキをかけながらも突っ込んでくる。
ああ、思えば何もない人生だった。
空虚でつまらない人生だ。
そんな俺でも、誰かを助ける事が出来た。
そう、人の役に立てたのだ。
金属の擦れる音が鳴り響く。
――出来れば、次は誰かを救う英雄になりたいな。
そんな言葉と共に衝撃――俺の意識は消えていった。
目が覚めると、赤茶色の西欧系の女性が俺を抱いているのが目に入った。
いきなりなんだ? こんな美人が俺を抱いているなんて意味が分からない。
「――――……」
声を出そうとするのだが、赤子の鳴き声しかでない。
俺に一体何が起きたのだろうか。
周りには筋肉隆々な青年が一人に、おばあちゃんが一人。
美人が俺を見て微笑む。
「――……――」
何を言っているのか分からない。
いきなり西欧圏にでも飛ばされたのだろうか。
そんな事を思いながら、眠気と共に目を瞑ってしまった。
一年が経った。
今更なのだが、どうやら俺は生まれ変わったらしい。
今の両親の顔や俺の名前を呼ぶ声を聴いたり、自分の手を見たりしてそれを実感できた。
しかも、両親の年齢は二十代前半くらいという所だろう。
前世のある俺からしたら妬ましい事この上ない。
これは俗に言う異世界転生。という奴だろう。
前世の記憶でも、そういう話は沢山見たことがある。
生まれ変わったなら、なんで前世の記憶があるんですか。ってそんな疑問が沸くのだけど、それは分からない。そういうもんだって納得する他ない。
誰もが夢見る異世界転生。
それが現実に起こるなんて思いもしなかった。
最初から分かっていたことだが、ここは前の現実世界ではないようだ。
母親が私の前で幾何学的模様と共に水球を出しているのを見て魔法だ! ここは異世界なんだ! と理解した。
異世界ファンタジー。凄い夢にまで見た光景だ。
俺は決意した。今度こそこの世界で努力しよう。
やり直すんだ。そして、誰からも認められる存在になろうって。
五歳になった。
今は本を読んでいる。三歳から本を絵本を読んでいたり、母親が絵本を朗読してくれたので、段々とこの世界の言葉も分かるようになってきた。
偶に、分からない難しい文字もあるがそれは母親に聴けば教えてくれる。
そして、今見ている本は初級、中級魔法入門という本だ。
「ファイア」
そう呟くと火球が空中で燃える。そうだ。私は魔法が使えるようになったのだ。
だが、それを両親には教えていない。
何故ならこんな子供が魔法が使える。ってなったら大問題になるのかもしれないからだ。
そして、急に眠気が襲って来る。これは魔力切れの兆候だ。
魔力が切れてくると眠くなるのだ。そうして、意識を失ってしまう。
最初、意識を失ってしまった時は、母親に抱きかかえられてかなり心配をかけてしまった。
なので、誰も見てない時と夜の寝る時だけに、魔法を使う事にしていた。
分かった事なのだが、魔力切れが起きた次の日には、使える魔法の回数が増えているのだ。
魔力切れをたくさん行えば、それだけ使える魔法の回数も増えるということ。
子供の頃からしっかりと鍛錬をすれば、多くの魔法を使えるようになれるかもしれない。
それと、今は父親から剣の鍛錬もして貰っている。
異世界ファンタジーと言えば、鉄板の魔法に剣だ。
これは絶対に努力して強くなって見せる。
幸い、俺の父親は青年で若いのだけど、この町ではかなり強いらしく魔物が現れるとそれを退治するために家を開ける事も多い。
そういえば忘れていた。俺の今の両親は父がヨハンで、母がアニカと言う。
因みに俺の名前はクリスだ。
剣の鍛錬は午前中に行い、それ以外の午後は何をしても良い事になっている。
俺の両親は放任主義なのだ。
なので、その時間に本を読んだり、魔法を使っている。
だが、半年もしない間に魔法が使える事がバレてしまった。
夜寝るときに魔法を使っていたら扉を開けた母親に見られてしまったのだ。
そうしたら、家族会議になってしまった。
「ヨハン。クリスは魔法の才能があるわ。この才能を手放すのは勿体ないわ」
「いや、男だったら剣技を覚えさせると決めたじゃないか。お前もその時納得しただろ?」
「それでも、この年齢で魔法が使えるなんて前代未聞よ? この才能を無駄にするわけにはいかないわ」
そんなこんなで大喧嘩だ。
この光景を見ると、前世の両親と大喧嘩した事を思い出して辛い。
「あ、あの……剣と魔法。どっちもやるじゃダメ?」
二人はハッとして、その言葉にまさに天啓が落ちたという感じだった。
「クリスが言うならそれで良いかもな」
「ええ、クリスが言った事ならそれを尊重しましょう」
二人は机の上でにっこりと不敵な笑みを浮かべて、その場は納まった。
その様子にほっとした。
これで、仲違いなんてなったら、それこそ目も当てられないからな。
それからは午前に剣の鍛錬をして、午後から夕方の期間までは自由時間。
夜の三時間程度を魔法の鍛錬にすることになった。
朝から昼は、母は忙しくて手が回らないから、夜の数時間になったのだ。
充実した日々と、たゆまぬ剣の鍛錬の成果に、どんどん強くなっていくのが分かって楽しい。
魔法は今では中級の魔法では魔力量が使い切れ無くなってきた。
なので、初級魔法を空中に一つずつ五、六個も浮かせて魔力を切れをさせる。
そんな事をしないといけない程、魔力量が増えていた。
どうやら、両親のヨハンとアニカはどちらも冒険者であったらしい。
ヨハンは剣術の上級で、アニカは上級魔法使いだったそうだ。
鍛錬については二人に任せていれば問題ないだろう。
ふと、偶には外の世界も見て見たいな。
そう思ったので、自由時間の午後に家の外に出ることにした。
なんて言ったって、今まで鍛錬と本での勉強で、家の庭以外に、外に出たことが無かったからである。
ということで、レッツゴー!
家の外に出て分かったのだが、ここは街というよりは、小さな町かそれとも村というべき規模だった。
稲穂が風に吹かれて黄金の海に見える。この光景は都会では見れない美しさだ。
それ以外にも牛を使って耕したり等、この町? 村は農作が盛んなようだ。
自分よりも高い稲穂を見ながら村を歩く。
すると、村の離れまで来てしまった。
そこには一軒だけポツンと家が建っている。
と、その家から爆発音がした。物凄い音だ。もしかしたら火事になっているかもしれない!
俺は急いで家に向かって、家の扉をノックした。
「大丈夫ですか!?」
ドンドンと強くノックする。
すると、ぎぃっと木の軋む音と共に扉が開かれる。
「けほっけほ、一体誰よ」
中から現れたのは顔を真っ黒に染めている女の子だ。
頭にはゴーグルを付けている。
身長はギリギリ俺のが高い。多分、歳が近いんだろう。
「さっき、爆発音がしたんだけど大丈夫なのか!」
「ああ、それね。それなら問題ないわ」
少女はきっぱりと言い放つ。
問題が無いならそれはそれで良いんだけど。
いったい何をしていたんだろうか。
「ねぇ、いったい何をしていたの?」
「知りたい? 知りたいなら中に入ってみて見ると良いわ」
少女はそのまま背を向けて中に戻っていった。
扉は開けられたままだ。ええい、ままよ!
「おじゃましまーす……」
中は色んな道具が辺りに散らばっていて、はっきり言って汚い。
何か踏んだらマズそうなので、慎重に少女に着いて行った。
そこには大きなサッカーボールくらいの鉄の塊がある。
どうやらそれが爆発した物体のようだ。
ブスブスと黒い煙が上っている。
そこで、少女はカチャカチャとああでもない、こうでもないと唸っている。
よく見るとその少女はとても可愛らしい外見をしている。
桃色の髪が綺麗だ。
「それはいったいなんなんだ?」
「これ? これはね。私の世紀の大発明! タイムマシンよ!」
「タイムマシン? 胡散臭い……」
「あ! 酷い事言ったわね! 確かに、今は成功したことはないけど! 必ず完成させて見せるんだから!」
少女は言う。でも、そんなもの作れるはずがないだろう。
異世界ファンタジー転生という事は出来たけど、タイムマシンまで完成するなんてちゃんちゃらおかしい。
どんなテクノロジーだよ。現代社会の知識でも作れなかった代物だぞ。
そんなものが、この洗濯機や炊飯器のない世界で作れるわけがない。
「馬鹿馬鹿しい。そんなもの作れる訳がないよ」
「言ったな! じゃあ、完成したら実験台になりなさいよね!」
「ああ良いよ。本当に完成したらね」
少女はにっこりと笑みを浮かべて俺に手を差し向けてくる。
「私、エイミー。宜しくね」
その手を握った。
「俺はクリスだ。宜しくエイミー」
この日、初めて友達が出来た。
それからの日々は剣と魔法の鍛錬の他にエイミーの家に行って、研究成果を見せて貰ったり、他に作ったことがある魔道具を見せて貰ったりしていた。
両親にエイミーの事を聴いたが、あの一家は有名な発明家らしい父親との二人暮らしで父親も発明家。名前はグスタフ=ラバルという超有名な発明家らしい。
らしいのだが、爆発や火事は日常茶飯事で、村の人から疎まれて村の離れに家を建てたそうだ。
なんだかなぁって感じだ。芸術家は爆発だーってことか?
それから、俺たちは成長していく。
十歳になった。十歳というのはこの世界で言うとかなり目出度い事らしい。
その日は父親から誕生日祝いだからって真剣を貰った。子供用なので、大人からしたら片手剣だが、今の俺にとってはブロードソードみたいなもので片手と両手どちらでも使える剣だ。
母親からは聖級魔法の本を貰った。
これはかなりのお金が掛かっている筈だ。
この世界では魔法が使える人材を発掘するために、魔法関連の本は安めに販売されている。
だからと言って、初級、中級、上級、聖級に神級なのだ。
上から二番目の魔法書。高いに決まっている。
それなのに買ってくれるってことは、それだけ大事にされている。って、事と期待されているってこと。
前世ではそんな事なかった俺は泣きながら両親に感謝を伝えるのだった。
自由時間の午後に剣を帯刀して村の離れに向かう。
敵に会うなんてことは町中ではないが、それはやっぱり男だからね。剣ってのは帯刀したいものなのだ。
「おーい。エイミーいるかー?」
「いるわよー! 今、手が離せないから入ってきていいわ」
エイミーの許可を得て扉を開けて中に。
いつも通り、部屋は汚い。
だけど、本人たちは気にしていないようなので、俺も気にしない。
エイミーのとこに向かう。
いつも通りタイムマシンと言っていた場所にいた。
「来たみたいね。こんにちはクリス!」
その少女は元から可愛かったが、歳を経て、誰が見ても振り返る美少女になっていた。
不意の笑みにドキリと胸が高鳴る。桃色の髪は肩まで伸ばしていて、動くたびに揺れる姿が魅力的だ。
五歳の頃から五年間も一緒に遊んだりしていた仲だ。
幼馴染と言っても過言ではない。
機械いじりの癖と気になり出すと止まらなくなる性格は玉に瑕だけど、誰もが羨む美少女だ。
村の同年代からも嫉妬の目で見られている。
結構、いろんな男の子から誘いを受けてもいるようだが、それも全部断っているようだ。
これは脈ありと考えても良いのではないだろうか。
いや、そうに違いない。
前世だと持てない男子だったけど、今ならそこそこ顔は良い。モテるはずだ。
「そうそう。昨日は誕生日だったみたいね。これ、誕生日プレゼント」
「お、ありがとう」
そう言って、渡されたのは魔石の嵌め込まれたペンダントだ。
「私とお揃いね!」
エイミーも同じペンダントを付けて見せてくる。
この年でペアルックか。なんか恥ずかしいな。
でも、素直に嬉しい。
「それとね! 聴いてクリス!」
彼女は目を爛々と輝かせて前のめりになる。
「落ち着いて。聴くよなんだ?」
「タイムマシンが完成したの!」
「は?」
タイムマシンが完成した?
それって嘘だろ。
「そんな嘘には引っかからないよ」
「嘘じゃないよ! 本当なんだから!」
エイミーはムキになって叫んでいる。
「それなら実際に起動する所見せてよ」
そうだ。実際に起動する所を見ないとわからないからね。
「良いわよ。完成したらクリスが実験台になってくれるって言ってたし。協力してよね」
うわ、覚えてたのかそれ。もう、五年は前の話だぞ。
「わ、わかったよ。ならエイミーも一緒にやってよ」
「しょうがないわね。あ、爆発しても怒らないでね」
タイムマシンのボタンを押して起動させる。
なにか唸るような音が鳴っている。
その音はどんどんと大きくなっていって、耳鳴りがしてきた。
本当にタイムマシンは完成したのだろうか。
「来るわよ!」
そう言って、手を繋いでくる。美少女から、手を繋いでくれるという状況に驚くが、冷静に握り返した。
タイムマシンが大きく唸ると、その正面に、水溜まりを空中に横で固定したかのような空間が出てきた。
中は青い空間が続いていて見えない。
ドラ〇モンのタイムマシンみたいな空間だな。
この空間の中に入っていくのだろうか……
「さ、行くわよ!」
「わ、待ってくれよ!」
エイミーが飛び込んだので釣られてその空間に飛び込んだ。
青い空間が流れるように続いている。
と、直ぐに光り輝く場所が近づいてくる。
「あそこが出口みたいね」
「本当に成功したんだよな!?」
「男なのにうるさいわね。着いてきなさいよ!」
そうして、光の中に包まれる。
――そして、光の先に到着した場所は辺り一面が荒れ果てた荒野だった。
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