世界一のお世話好き

田西 煮干

第1話 部活動をお世話しよう


 高校二年もまだ始まったばかりのはずだが、新しく入った二年C組の教室は始業式の終わりからにぎわっていた。

「今年は野球部を頼む」

「いや、サッカー部だろ」

「いやいやいやいや、野球部もサッカー部もそれなりに人が入ってくるから大丈夫だろ、頼む弓道部にしてくれ」

 かつてないほどにぎわっている自分の教室が、まあまだ一日目だが、異様な雰囲気を醸し出していた。疑う人もいるだろうが、今の声はすべて俺に向けられたもので間違いはない。

 だが決して俺が今日来た転校生で運動神経抜群なスーパールーキーなどでは全くない。

「女バスもお願い、今年こそはライバル校に負けたくないの」

 ついに女子の部まで参戦し始めてしまった。

 ほとんど人並みにしか運動ができない俺に対してなぜこんなことになっているかというと、

「やめろやめろ、好太は今年もハンド部のものだ。ほかの部には譲らないからな」

野球部やサッカー部の奴よりもひときわ身長が高く、がたいがいい大きな影が後ろから俺の肩を掴んできた。高校二年生で195㎝もあるやつは立つだけで威圧感がすごい。


「ずるいぞ大山、お前は去年さんざんお世話になっただろうが」

「そうだそうだ、もうインハイ出場したんだから十分だろ」

俺のことを自分の所有物のように扱い批判を受けたのは大山一(はじめ)、総画数たったの七画で小学一年生でも書ける字を並べたこいつはその名前の通り性格もとても簡単な奴である。まあいいやつではあるんだけど。



 去年俺は同じクラスだった一と仲良くなり、一がすでに入部を決めていたハンド部の勧誘の手伝いをした。ハンド部は上級生が少なく、このままでは試合にも出れないかもしれないということで引き受けることになった。もともと人の役に立ちたいと考えていたし、やるならば徹底的にやろうという俺の気持ちが功を奏して、俺は野球部やサッカー部に入ってもレギュラー間違いなしというような中学時代に陸上競技をしていたという運動神経の塊みたいな同級生を引き入れることに成功した。

 もちろん簡単なことではなかった。本人には部活に入る気がそもそもなく、最初は抵抗していたり、他の部の勧誘が来たりなどいろいろあったが、最後は俺が説得することができた。一時間以上にわたる説得と少しばかり誇張されたハンドボール部の良さが通じたのだろう。

 そしてもともとハンドボール経験者で体格もあっている一と驚異の運動神経を持つ新一年生が入ったことでこの学校始まって以来の最強ハンド部が完成した。さらに最終的にはもともと高校から始める人が多いスポーツであったことも相まってか冬の大会で見事インターハイ出場という学校始まって以来の快挙を成し遂げたのである。

 もちろんこれは日々の練習を続け努力してきたハンド部のみんなの功績なのだけれど、たまに練習メニューなどにも意見したりなど微力ながら参加していたため一緒になって喜ぶことができた。



 さて、なぜこんな去年、まあ去年といっても3ヶ月前くらいなんだけど、その話を持ち出したかというと問題は先ほどの始業式だった。もちろん俺は何もしていない。ただそこではインターハイに出場したハンド部が表彰されていた。そしてその代表として出てきたのがエースとして活躍してきた一だったのである。あろうことか一は全校生徒の前で、

「このメンバーを集めて、育ててくれた好太に感謝したいです。」

なんて言ってしまったのである。俺としては実際に育てたつもりもなければ、むしろこっちがいい経験をさせてもらったと感謝したいくらいなのだが、そんなことは全校生徒は知る由もない。

なんとこの一の発言があらぬ方向に向かってしまい、ついには俺がハンド部をインハイへ導いたなんて言う嘘を嘘で塗りたくったようなものになってしまった。


 ここで最初に戻るが、やはり黙っていなかったのが他の部活動である。別に部員でもないような奴がインハイ出場に導いてくれるなんて聞けば、他にも目指す運動部が出てくるのはしょうがないことだった。


 そんなわけで俺は今まさに様々な部活から勧誘されている。まだ二年生になってまもないし、新入生の勧誘すら始まっていないというのにこの教室だけはとても騒がしくなってしまっていた。


そんな中で俺は自然と笑みがこぼれそうになってしまう。こんなにたくさんの部活から頼りにされてしまうなんて、でもこんな場面でにやけてしまったら変な奴だと思われてしまう。

 そう、なんだかんだで俺は人から頼られるのがこの上なくうれしく感じるのである。変な奴だと思う人もいるかもしれないが、絶対に共感できる人の方が多いはずだろう。人からの頼みというのは無碍にはできず、聞いてあげてしまいたくなるものだろう。だから俺は頼みに来たこの部活すべてに協力したくなっている。


「わかりました、それじゃあ俺もできる限り協力したいと思うので、ここに部活名を記入してもらってもいいですか。」

ルーズリーフを一枚取り出し、俺の後ろの席に置く。


ちなみに席は出席番号順に並んでいるが、俺の後ろの席はまだ空席であった。理由は担任が濁していたのでよくは分かっていないが、まあ誰かしら来るのだろう。


空席を受付として使わせてもらったが、すでに俺の出したルーズリーフには10以上の部活名が記入されている。俺が通っているこの錦明高校はごくごく普通の公立校であるため、はっきりいって部活動が盛んというわけではない。この前のハンド部がこの学校始まって以来の全国大会出場だったし、すべての部活を全国出場なんて夢の話だろうが俺がやれることをやっていこう。

まずは適材適所な新入生の勧誘から始めなければ、そのためには新入生の情報集めと、あとは各部活の現状把握とかしなきゃな、なんて考え始めたらきりがなく、時間も時間なのでとりあえず今日は終わることにした。


 もうすでにスケジュールパンパンだが、まだまだ始まったばかりの高校2年の生活はまだまだ新たな予定が山ほど飛び込んでくることになるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る