エリーの観察日記
@Kah0nakayama
お嬢様口調な女子大生1
公園ではヤイヤイガヤガヤと下級生達が騒いでいる。僕はだるい体に鞭を打ちながらウロウロと周辺を回った挙句に近くのベンチに座り込んだ。
家に帰る気分ではなかった。あと1時間くらいはこうやってぼんやり座っていたい。けれどもう5時だ。そんなに長くいたら母さんが僕を心配する。
「すいません、ここ座ってもよろしいでしょうか?」
ぼーっとしていた僕に女の人が話しかけて来た。
黒髪の女の人は、目にかかる前髪を指で避けながら僕に微笑んでいた。大学生くらいだろうか。白いYシャツにジーンズで、普通体型。胸はそんなにない。顔も普通だ。普通の日本人。
「はい。」
「どうもありがとうございます。」
女の人は、笑って僕の隣に座った。特別美人というわけではないけれど、クシャっと笑うと可愛かった。それにしてもやけに丁寧な言葉遣いだ。普通僕くらいの年齢に話しかける大人はタメ口とか変な猫なで声を出して話しかける。そう考えてたのが顔に出ていたのか、女の人は僕を見ると少し照れながら言った。
「わたくし、日本人じゃないんですわ。日本語を教えてくださった方がこういう喋り方でして…真似してたらうつっちゃいました。変ですわよね?」
「ふーん。」
愛想の悪い(自覚はある)僕を気にも止めようとはせず、女の人は本を取り出して、読み始めた。もう僕のことは特に気にしていないようだった。本のタイトルは「国際関係論の今」。難しそうな本だ。こんなのを外人さんがよく読むものだ。でもぱっと見は日本人にしか見えないから、中国人とかなのかな。あそこは漢字が似てるし。それにしても今時こんな風に喋るなんて、この人浮いてるだろうな。
僕は特に何も持って来てないし、かと言ってどこかをうろつく体力も気力もない。僕は女の人の隣でただひたすらボンヤリと色が変わる空を眺めているだけだった。
「お友達と一緒ですの?」
本から目を逸らさずに、女の人は僕に聞いてきた。
「友達いない。」
「そうですの。あなたはきっと心の年齢が身体に追いついてないんですのね。」
その物言いに僕はムッとした。
「ガキって言いたいのかよ。」
「いいえ、逆ですわよ。心が大人すぎるんですわきっと。だから周囲の友達は子供すぎてしまうのかなと思いまして。」
そう言われて、僕は少しビックリした。そんなこと言ってくる人は初めてだった。大概の人は僕のことを生意気だとか、可愛くないとか言うけど、この人はそう思ってないんだなというのがわかったからだ。
「お姉さん、何読んでんの。」
「これですか?これは大学の課題図書です。面白いですわよ。」
女の人の視線に気づいて顔を上げると、僕はハッと息を飲んだ。
さっき見た時は、黒かった女の人の瞳が蜂蜜のように金色に輝いている。
「この世界では私の知らないことがまだまだたくさんありますの。勉強しないと。」
何を言われても僕の頭の中には入ってこない。金色の瞳に全て持ってかれそうだった。
「あなた、お名前は?」
「…とおる…。」
「そうですか、トオルさん。わたくしは全ての子供も救うためにこの世界にいます。少しでもあなたの力になりたいですわ。」
女の人が瞬きすると、瞳は何の特徴もない黒色に戻った。けれど、僕の心臓はまだばくばく音を立てている。
「お姉さんは…?」
「わたくしは中野絵梨。みんなからはエリーと呼ばれていますわ。」
これが、僕とエリーの出会いだった。
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