嘘とウソとシアワセと

楠木黒猫きな粉

プロローグ 本物

いつからだろうか。こんなに嘘だらけになっていったのは。

俺はただシアワセになりたかっただけなのに、なんでこんなに嘘で塗り固められているのだろうか。

思いだそう。俺がまだ本物だった時の話を。忘れよう。俺が偽物に成り下がった時の話なんて。

思い出す。俺が本物だった時の事を。

明るい世界に希望を見ていたことを思い出す。


あの頃はただ憧れていた。誰かを救う誰かに心の底から憧れていた。

羨んでもいた。そんな力が俺にもあれば、と思っていた。

しかし、そんな思いも年を重ねるごとに消えていった。

憧れは蔑みに変わり羨みは僻みに変わった。そんな風に変わった俺の世界で唯一変わらなかった思いもあった。

『誰かを救う誰か』になりたい。そんな独善的な思いはいつまでも変わらなかった。救わなければと誰かを救わなければと考えると心は荒んでいった。だって気づけば世界にはクズしかいないではないか。

誰かを使い潰してそのうえに人が立つ。そんな世界に俺は生きていた。

だからこそだろうか俺はこんな想いを隠すように一つの嘘をついた。

自分を幻にした。居ないことにしたのだ。だって世界はクズしかいない。そんな世界でこんな想いを願いを希望を抱いている人間はすぐに壊れてしまう。純粋だからこそ壊れていってしまう。

昔の誰かは言ったそうだ。一つの嘘は他の嘘を産み出す、と。全くその通りだった。俺が初めてついた嘘は他の嘘を産み出すトリガーになっていった。偽物に偽物の皮をかぶせまくったナニかに墜ちた。

それからはもう何も残っていないのかもしれない。


そこで俺の流れは終わる。

また俺は俺を確認する。どんな人間だったかをどんな人生を送ったのかを確認する。

いつもの確認を終えれば俺はまた始まる。ゼロに近い位置からまた始まる。

けれどこの日は何故かいい予感がした。


────高校入学初日


桜の花びらが飛び散る場所を通り、高校を目指す。

そんな時だ。俺が本物に出逢ったのは。


───その人は美しい黒髪をしていた。


整った顔立ちは十人中十人が振り向くようだった。

けれど俺はそんなことはどうでもよかった。

俺の思い違いかもしれない。けれど彼女は絶対に俺が夢見た本物だった。


───それは闇の中に光が指すように


彼女を守りたいと嘘だらけの心の本当の部分が叫ぶ。

だからこそ俺は駆け出した。偽物でもこれは本当の想いだから。

間違っているのは百も承知だ。けれど間違っていたとしてもこの想いも願いも夢も本物だから。

だから俺は彼女に向けてこう言うのだ。  

着飾った言葉でも嘘にまみれた言葉でもない。心の底からの言葉を放つ


───友達になってください


その日の天気は面白いくらいの晴天だった。




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