回答編(2)
「ううん……」
「悩んでるね。まあ、僕も似たようなものだけど」
とか言いつつ、笑顔を崩さない水野。本当に似たようなものなんだろうか。すっかり思いついて得意げになっている様にも見える。
「いや、本当に。奇抜なトリックは一通り考えたつもりだよ。巨大な鏡案を今捨てたところさ」
「それでどうやって解決するんだ……?」
生徒の人数を誤認させるとか? 鏡にテスト用紙を配りはしないだろ、流石に。
「だから奇抜なんだって。でもこの場合、トリックは必要なさそうだね」
「ふうん」
トリックの専門家である、トリッキー水野が言うならそうなんだろう。そんな呼び方したこと無いけど。売れない芸人みたいだ。
「回答への道筋を潰すみたいで悪いけど、僕もあんまり意味が有るとは思えないな。毎年同じ解答用紙を使っていたかもしれないし、高瀬を脅して予め入手していたかもしれないしね」
「脅しねぇ……」
そうなると、机と椅子は何だったんだって話になってくるけど。
それにしても、回答中に出題者が口を出すのは珍しいな。というか、姫宮は回答例を用意しているのだろうか。……してない気がする。なんなら、たった今、一緒に考えているような。
「脅しっていうのは使えるかもしれないね。例えば、高瀬が誰かにセクハラをしていて、それを『問題』にしない代わりに、みたいな」
「回答の中に問題が出てくるのか。ややこしくて仕方ないな……」
それにセクハラの黙殺の見返りが、何だ? テスト百点か? 割に合わないにも程がある。ストレートに金を貰ってもいいところだ。
「二人とも、セクハラ教師扱いには何とも思わないんだね」
溜息まじりに言う姫宮。そんなまともな奴が居たら、こんな活動してないだろうに。
……それにしても、何一つ思い付かないな。いっそのこと、手順を逆にしてみるか。回収した解答用紙が一枚多かった。するとどうなる?
「解答用紙がいくらでも手に入るなら、何と言うか、一種の事故だったんじゃないかな。そのテストの時間に高瀬と何か約束していた、しかし、来なかった」
水野も何かぶつぶつ言っているが、考えに夢中で内容が入ってこない。多分、普通に受理はしないんじゃないか? 多分、職員会議か何かが開かれて……。
「生徒、若しくは生徒たちは焦ったんじゃないかな。しかし、おおっぴらに騒ぎ立てて、試験中止にするわけにもいかない。内申書に何て書かれるか分からない。そこで、苦肉の策として、予め持っていた解答用紙を混ぜた。一枚多いことに気付くと信じて、そうか」
「「再試験」」
オレが発したものと、全く同じ音が水野から聞こえる。
「全く同時だったね。もしかして双子だったりする?」
姫宮は興味深そうにオレと水野を見比べている。ええい、鬱陶しい。
「それにしても、再試験か。なるほどなるほど。僕が考えていた『教頭に試験の間、席を外してもらって、その隙に仕掛け人の高瀬がサプライズパーティの準備』よりよっぽど面白いね」
「そんな面白くないこと考えてたのか……」
そして、やっぱり回答例は用意してなかったのか。何だこいつ。
「そう捨てたものじゃないと思うよ」
「そうか?」
「面白いかどうかは別として、普通に成り立ちそうじゃない? 僕達の再試験案は、今のところそれ以外考えられないってだけで、再試験にしたから何だ、って問題が残っているからね。」
それはまあ、そうか。
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