回答編(1)

 なかなか興味深い話だったが、聞き終わった時点でオレは、何一つ回答が浮かんではいなかった。さて、どうしたものかね。


「単なる数え間違いじゃ面白くないね」


 腕組みしながら水野が言う。そう、その通りだ。それはどちからというと、反則行為に近い。前提を崩すのは有りだ。面白ければ。ただし、数え間違いは駄目だ。面白くもなんともない。そんな話は全く興味が無い、と切り捨ててしまうのと同じだ。


 姫宮は語り終えて疲れたのか、自分の役目はこれまでと思っているのか、弛緩した表情でオレ達二人を眺めるばかりだ。

 時間はたっぷりある。何なら日を改めたって良い。しかし、こんなのはあくまで暇潰しであることを忘れちゃいけない。急ぎ過ぎない程度に急ぐとしよう。


 まずは順番に一つずつ考えていこう。


 推理小説的にいくなら、最初は『犯人は誰かフーダニット』だろうか。だが、これは考えなくても良いと思う。名前のある登場人物が、担任の高瀬、教頭の小山の二人、つまり『被害者側』しか居ないからだ。肝心の犯人である三年三組の生徒は、一人も名前が挙がっていない。極端な話、三年三組の全員が犯人ということもある。保留。


 続いて『どのように行われたかハウダニット』、つまりはトリックの考察だが、これもあまり意味があるとは思えない。水野はその辺りからアプローチするのだろうが、状況が状況なので、どうにでもなるとしか思えない。これも極端な話だが、あらかじめ机と椅子を一組どこからか調達し、三十八人で普通に試験を受け、試験監督が退室したのを見計らって、机と椅子を窓から放り投げてしまえば、取り敢えずそのシチュエーションは作り出してしまえる。


 とすると……。


 やはり考えるべきは、『なぜ行ったかワイダニット』だろう。特殊なトリックにしろ、窓からぶん投げるにしろ、どうしてそんなことをする必要があったのか。そこを紐解いていかねばなるまい。解答用紙が一枚多い、若しくは、解答者が一人少ないことによって、得をするのは誰だ? 逆に言えば誰が損をする? 試験を無事に遂行出来なかった小山か? だが、元々の担当は高瀬だったはずだ。高瀬に行うはずだった、言うならば嫌がらせを、小山がきたからと言って、机を動かすだとか、目立つことは出来ず、仕方なく計画を実行したのか?


 有りと言えば有りだろうが、込み入った割には面白くないような。まるでリアリティーを追及するがあまり、肝心の物語が面白くなくなってしまったミステリみたいだ。

 愉快犯的な犯行ってことにして、トリックでも考えようかな……。

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