事件翌日(5)

 テーブル挟んで向かいに前守が座る。

 姫宮はオレの隣だ。


「探偵ごっこでもするつもりか」


 明日から聞き込みでもして、犯人捜しなんてごめんだ。姫宮だってそうだろう。


「ちょっと違うわね。脚本家ごっこ、かしら」


「脚本家? 今回の事件を題材に映画でも撮るつもりなのか?」


 面倒どころじゃないな。

 死んでも御免だし、死体役も御免だ。


「脚本家が駄目なら作家ごっこでも良いわ」


「どういうことだよ。もっと分かりやすく言えよ」


「つまりね。今回の事件を面白おかしく説明をしようって訳。どういう動機で、どういう方法が取られたか、一番面白い筋を書いた人が勝ちね」


「サキちゃんらしいね」


 姫宮は笑っていたが、呆れるばかりだった。

 冒涜なんてものじゃない。


「まあまあ、良いじゃないか。こんなこと滅多にないよ」


 姫宮が寄りかかり小声で言う。コイツも楽しんでいやがる。

 呆れるオレを他所に前守はなおも続ける。


「という訳で、情報を整理しましょう」


 前守は鞄から大学ノートを取り出して一、と書く。


『被害者は頭部に攻撃を受け、それが原因で死亡に至った』


「唯一の盗聴の成果ね」


 前守は少しがっかりして言う。


「後は野球部がどうのって言っていたから多分被害者は野球部員ね。明日聞き込みしたらわかるかしら」


「そういうのは噂になっているんじゃないか」


「それもそうね」


 少しだけ表情を戻し、被害者(野球部?)と書き加える。


「第二に犯行は昨日の夜、若しくはその前に行われた」


 今度は姫宮だ。しかしそんな話あったか?


「うん」


 前守も特に異議は無いらしくノートにその二、と書き加える。

 当たり前に進行してるから聞くのも憚られる。

 やがて書き終えた前守が怪訝そうな顔をして覗き込む。


「もしかして、分かってない?」


「……ああ」


 はあーっと前守が大袈裟に溜息をつく。

 それはオレの役目の筈だが。


「ケン、藤堂先生の話を覚えているね。通報があったのは昨晩だったと言っていたじゃないか。犯行はその前と考えるのが自然だろう」


 覚えているね、と言われたら覚えてない。通報があったとかいうのも今思い出したくらいだ。オレが泡食ってる間にそんなことまでしていたのか。


「そういうこと。でも現状じゃあこれぐらいね。他に情報がある人?」


 姫宮は首を振って、オレは沈黙で答える。


「ふーっ。これじゃ筋書きは無理ね。明日は聞き込みに行くわよ」


「誰に」


「坊主の奴見つけて手当たり次第に」


 確かに坊主なのは野球部ぐらいのものだけど、それにしても雑すぎる。間違えて三条校長に話しかけそうだ。


「誰にというか、何を言うか、の方が大事だね」


 姫宮はお茶に口をつける。両手で大事そうにグラスを持っている。


「遊びよ、遊び。犯人を本気で見つけようって気はないわ。それなりに辻褄が合えばそれで良いのよ。あたしなんか今から、どうやって犬一を犯人に仕立て上げようか考えてるところよ」


 悪趣味なことしてやがる。


「一週間ぐらい経ってから最後の会議をしましょう。全員その場で自分の見解を示すことね。今回の事件の遊び方はそんなもんじゃないかしら」


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