引き出しの中の友達

 思えば小学校低学年の頃から、真面目に授業を受けていなかったのだが、では何をしていたかと言えば引き出しの中で遊んでいた。他のクラスメイトがそうしていたように、虫を捕まえてきて何かしていたわけではなく、専ら消しゴムや鉛筆などの文房具が遊び相手であった。

 時に引き出しの中は戦場であった。消しゴムのケースに鉛筆を捻じ込み、戦車に見立てて進軍させるのだ。敵は何かに使った覚えのないおはじきのようなものであった。

 時に引き出しの中は会議室であった。前述のおはじきが「俺は一体いつ使われるのだろう」といったことをぼやき、消しゴムや他の文具が慰めるのだ。

 そういった遊びは本当に楽しかった。よくある友達同士で手紙を回したり、教科書に落書きをするといったこともやるにはやっていたのだが、やはり引き出しの中の世界が一番魅力的であった。しかし、それも授業中にやるから面白かったのだろうと思う。その時の私は、休み時間といえば図書館で『はだしのゲン』を読むか、外に出て走り回る健康的な人間であったのだ。基本的には、一人遊びより誰かと遊んでいる方が楽しい、と思っていたのだろうが、あの社会性はどこへ消えてしまったのだろうか。

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