息もできないような
蒸し暑くなってきた、7月2日目のことでした。
私は、とある精神病棟へと入院が決まりました。
精神が崩壊寸前。
二週間前、突然病院から「二週間後から、入院しましょう」の電話に、何も感じない。何も抵抗できないまんま「わかりました」と一言。何か、ほっとしたのを覚えています。「あぁ、ようやくこの居心地悪い場所から逃れられる」とでも思ったのでしょうか。もう覚えてなんかいないなあ。
7月16日目。私はたしかに入院してしまいました。
太宰治さんは、精神病院へ入院させられたとき、自分を人間扱いされていない、と感じ「人間失格」執筆されたと言われていますが、そう感じた意味がわかった気がします。
「私はいま、普通の人間とは、確かな形で一線を引かれてしまった。」
大変偉そうですが、私もそう、感じたのです。
何重かに閉ざされた大きな扉を抜けて、ナースステーションで採血をしてから、二つのキャリーバッグと小さな手提げを持って病棟へと移動しました。
ナースステーションの前ではもう何人もの同世代くらいの子供たちが私たちを、こそこそと何かささやかながら笑っていました。
見ないでほしい。怖い。
今まで家という狭い空間で人の目に怯えていたからか、あの大勢の視線に吐き気を覚えました。
母親などついてこない後ろを気にしながら、ぎゅっと手提げを握りしめてる手がすごく熱かった。
病棟に最初に入って持った印象は、「保育園」。
狭くて、白くて、どこに行っても管理下に置かれているような感覚。
外に出ることはできなくて、バスケットコートひとつ分だけの中庭は、四階建てくらいの壁に囲まれています。病室の窓は二重で、開けようと思っても3センチくらいしか開かない。ベッドと、その備え付けの机。私の腰ぐらいの高さの金庫がひとつ。それだけの部屋でした。
看護師さんは、私の荷物をひとつひとつ念入りに確認していきました。優しい表情で。凍るような視線で。
刃物はないか。紐はないか。針金はないか。携帯はないか。ゲーム機はないか。服の丈は短くないか。思い出の写真を持ってきていないか。
持ってきていた江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」ですらも、没収されてしまったのが不満です。
そして、荷物を整理しながらぼうっとしていると、扉の前で数人の気配がするのです。
振り向いた先には、にやにやと笑いながらお互いがお互いを前に出すように競り合っている少女たちがいました。
痺れを切らした一人の可愛い女の子は、見た目に似合わない大きな声で、私に笑いかけました。
「ねえ、YouTuberすきい?!」
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