第7話 新生魔王とスピカの決意。



 王立騎士団との顔合わせ、そして激励。

 それだけならば、わざわざ俺が王都へ赴く必要はないだろう。

 むしろ本番は明日。

 昼ごろ王都へ戻るという、とある人物にネーメを見せることこそが、この任務の肝と言える。


 今日できることは終了した。

 王宮を後にした俺たちは、近くの宿屋へ移動。そのまま休むこととなった。


 宿屋に併設された酒場で夕食をとり、今は夜。


「…………」


 俺は古びたシングルベッドに寝そべり、ジッと天井を見つめている。

 儀式は休みだ。

 王立騎士団と対面したことで、スピカの心身は少なからず疲弊しているだろう。


 彼女には、事前に任務の内容を説明している。

 かつての仲間との再会――彼女も覚悟を決めた上での同行だろうが、それでも思うところはあったはずだ。

 俺の服を握りしめ、震えていたスピカの手。

 騎士団との別れ際には、多少の落ち着きを取り戻していたようだが……はてさて。


「……寝るか」


 少し早いが、致し方ない。

 俺が身を起こし、寝間着に着替えようとマントに手をかけると。


 コン……コン。

 ……コン…………コン。


 部屋のドアがノックされた。控えめな音量で。ためらうような間を挟んで。


「スピカか」


 迷う必要はない。俺は着替えの手を止めた。

 ここへの来訪者は限られている。

 さらに、今夜ばかりはアルテミスとて空気を読むだろう。

 そう考えた上での即答だ。


 ドアを開けると、そこにはやはり――。


「ジュノ……」


 こちらを上目づかいに見つめる、金髪の美少女が立っていた。

 その面持ちを確認し、俺は微笑む。


「どうしたのだ、スピカ?」

「んっ……ちょっと、ね……」

「…………。……散歩にでも行こうか」

「……んっ」


 スピカが小さなうなずきを見せる。彼女の肩に手を添え、二人で宿屋を後にした。





 ――涼やかな夜風が頬を撫でる。

 マカイノ村とは違い、この時間でも王都にはたくさんの灯りがともり、酒で顔を赤らめた人々が闊歩している。


「近くに静かな公園がある。そこへ行こうか」

「……そうね。そういう場所の方が、今はいい……かも」


 短いやり取りを経て、俺たちは歩き出した。

 俺の右手はスピカの肩に乗っている。

 頃合いを見計らい、そっと力を込めると、しなやかな女体は何の抵抗もなくこちらに身を預けてきた。


「…………」

「…………」


 会話はない。けれども何ら問題はない。

 今は互いの体温を感じ合うことが、俺たちにとって最も必要なのである。


 ――着いた。公園だ。


 王都は緑化に力を入れているらしく、街のそこここに大小の公園が点在している。

 ここは比較的大きな公園だ。

 芝生。ベンチ。噴水。茂み。アルテミスの石像。夜になると、噴水は停止するようになっているらしい。

 もちろん篝火は焚かれていない。

 月と星の淡い光が、静寂に包まれた公園に神秘的な静謐さをもたらしている。


 大木の下にあるベンチに、スピカと並んで腰かけた。

 二人の間には、わずかに距離が空いている。


「…………」


 目を伏せ、沈黙を続けるスピカ。

 けれども急かすことはない。

 なぜならば、彼女の拳がギュッと握られているからだ。どこから話そうか。何から話そうか。悩んでいる証拠である。


 そして。


「ジュノ……」


 ついにスピカは顔を上げ、俺をまっすぐ見つめてきた。



「私にかかった魔導迷彩……解除してほしいの」



 一語一語、刻みつけるように――。

 スピカは俺と視線を合わせたまま、ハッキリとそう言った。


 魔導迷彩。

 それは彼女が、かつての部下たちから身を隠すための魔法である。

 それを解除するということは、つまり……。


「……よいのか?」


 真意を確かめるべく、俺は訊ねた。


「魔導迷彩を解除すれば、行方不明になっていたはずのスピカが発見されることになる。そうなれば、王立騎士団や王族、国民は大騒ぎになるぞ?」


 それに――。

 言葉を続けようとして、俺は寸前で躊躇する。


 構図としては、スピカは王立騎士団長の職を投げ出したことになってしまう。 

 自分にかかる重圧に耐えられなくなり、かつての仲間からの依存心が辛くなって……。

 その点に、果たしてどう折り合いをつけるつもりなのだろう。


「……俺としては、スピカが皆に責められる事態だけは避けたいのだ。お前が苦しむ姿など、俺は……!」


 そこまで口にしたときだ。


 唇に、ひんやりとした感触が訪れた。

 スピカが、人さし指で俺の言葉を止めたのだ。


「ふふっ。ジュノ、ありがとう……」


 その面差しは、優しく、穏やかで。

 しかし、確固たる決意が感じられた。


「私を心配してくれるのね? ……すごく、嬉しい……」


 だけどね、とスピカは続ける。


「……私、決めたの。もう隠れるのは終わりにしなきゃって。あの子たち――王立騎士団のみんなを、信じなくちゃダメだって」


 目を細めるスピカ。

 彼女の脳裏をよぎるのは、昼間の光景だろうか。


「騎士団のみんな……すごく頑張ってたわ。王都で龍族と戦ったときも感じたけど、みんなの覚悟は本物だって思ってる……。

 自分で考えて、自分で動いて、自分で戦って……。自分は民を守る騎士団の一員なんだって、しっかりとした信念が根づいてるように感じたわ」


 だから――。


「……私も、新しい一歩を踏み出さなくちゃ。王女であり勇者――その立場と責任から逃げる形になってしまったのは、ただただ私の心が弱かったから……。

 ジュノに心を救ってもらって、マカイノ村で休ませてもらって。その間に、騎士団のみんなは大きく成長してて……」


 スピカは微笑む。

 にこやかに。晴れやかに。


「だから、そんなみんなに負けないように、逃げずにしっかり向き合いたいの。魔導迷彩を解いた状態でみんなと会って、謝って……。それから、私の気持ちと決意――伝えたいのよ!」


 どうやら心は決まったようだ。

 目前にある大きな瞳は、どこまでも澄み渡っている。

 自身の弱さを認め、省み、かつての仲間たちと向き合う――。

 そこへ思い至るまでに、スピカはどれほどの勇気を振り絞ったのだろう。


「そうか……」


 俺が返すのは、彼女と同じく微かな笑み。

 だが、心にわずかな淀みが混ざる。


 かつての仲間と向き合い、謝罪し、新たな一歩を踏み出す。

 そうなったら。

 もしや。


 ――スピカは騎士団に戻ってしまうのだろうか。


 マカイノ村を――俺のもとを離れ、また王都へ……。


「…………」


 胸に込み上げる複雑な想い。

 王都へ行くには転移魔法を使えばいい。

 スピカと会えなくなるわけではない。

 けれど――俺は魔王だ。

 独占欲に関しては、リリアヘイム随一と言っても過言ではない。


 ……嫌だ。

 スピカには、離れてほしくない。俺のそばにいてほしい。

 マカイノ村の工房で暮らし、このままずっと、楽しい日々を……!


 切実な思いを募らせていた俺の唇に。


「んんっ……!」


 しっとり濡れた柔らかな唇が、強く、強く、押し当てられた。


「んをっ! ……ス、スピカ!?」

「んっ、んっ……んんんっ!!」


 スピカの勢いは止まらない。

 大きく身を乗り出し、俺に覆い被さるほどの勢いで、熱烈な口づけを敢行する。


 しなやかな腕が俺を抱く。

 尊き双丘が形を変え、俺の胸板を圧迫する。

 そのまま、しばし時が止まった。


 互いの呼吸が限界に達するまで、俺とスピカは粘膜を合わせ続けた。


「――ぷはっ!」

「ぷはぁ!!」


 やがて、時が動き出す。

 俺とスピカはほとんど同時に唇を離し、『はぁ、はぁ!』と荒い呼吸をユニゾンさせた。


「はぁ、はぁ……! もう、ジュノったら……」


 スピカがスッと目を細める。

 感じられるのは――慈しみだ。


「そんなに心配そうな顔、しなくても大丈夫よ。私の居場所はジュノの隣だもの。王立騎士団のみんなとは向き合うけど、あそこに戻るつもりはない。それに……私がいない方が、あの子たち……大きく成長できる気がするもの」

「ぬぅ……」


 俺は声を詰まらせた。


「な、なぜ、バレているのだ? 俺は一言も……」


 いかん。顔が熱くなってきた。

 独占欲を爆発させ、スピカが騎士団へ戻ってしまう可能性に不安を抱いていたことを悟られるわけには……!


「なぜって……。ジュノの顔に、ぜ~んぶ書いてあるもの。こういうとき、ジュノったらホントにわかりやすいんだから」


 ふふっと軽い笑みを交え、スピカは告げる。


「でも……嬉しい。すごく嬉しいの。ジュノが私のこと、そんなふうに……大切だって思ってくれて……」

「スピカ……」


 視線が重なる。

 距離が縮まる。

 鼻先が触れ合い、互いの吐息が――また、一つに交わった。


「んっ、ちゅ……れろっ、れろぉぉ……」


 直後、スピカの舌が俺の唇を割り、妖しく蠢きながら口内に侵入してきた。

 黙っていられる俺ではない。

 スピカの舌を迎撃すべく、こちらも舌を出動させる。


「んんっ……ジュノったら。あぁぁ……れろろっ、んぢゅっ、ちゅぱっ……へろっ、りゅりゅ……れろろろぉ……!」


 スピカの舌を搦め取り、舐め回し、くすぐり倒す。

 ぢゅぽっ、ぢゅぱっ……と淫らな水音が口内に響く。


「ジュノ……ぢゅるっ、れろぉぉ……ねろぉぉ……っ。私、嬉しっ……んんっ、ぢゅぷっ、ぢゅるるっ……れろれろぉぉ……」


 スピカが攻勢に転じる。

 彼女も激しく舌を動かし、俺の舌にねっとりと絡みついてきたのだ。

 絡みついたまま、縦横無尽に舌を動かすものだから……二人の口内の水音は、どんどん下品になっていく。


「んぢゅっ、ぢゅぷるっ……ぢゅぽっ、ぢゅぽっ……。ジュノ……ずっと、そばにいるから。れろ……んんっ、離れたりしない、から……。ぢゅるるっ……私、ジュノと一緒にいたい……んぶっ、れろろぉぉ……っ!」


 唾液の対話と並行して綴られる、スピカの想い。

 いつしか彼女は俺の両脚にまたがり、対面座位の体勢に移行していた。

 首筋に絡むスピカの腕。

 押しつけられる唇は柔らかく、そして甘い。


「んぢゅっ、ちゅぷっ、りゅろっ、れろぉぉ……っ。ふーッ、ふーッ。……ぢゅぷっ、れりゅろろろぉ……。……ぷはっ」


 ふいにスピカが舌を引き抜く。

 そのまま見つめ合っていると、彼女がだらんと舌を垂らした。

 なるほど。場外乱闘への誘いである。


「フッ、この方がいやらしいな……」


 俺もいっぱいに舌を伸ばし、スピカの舌へ肉薄する。

 ぢゅるるっ……という濁った水音。

 外気に触れたまま、舌と舌とがもつれ合い、二人の唾液が服のあちこちに垂れ落ちる。

 だが、それに構っている余裕はない。


「れろろろっ……れろぉぉ……。ジュノぉ……ひゅのぉぉ……。んんっ、ふーッ……れろっ、ろろろろぉ……!」


 熱に浮かされたように赤面し、俺の舌を貪るスピカ。

 その表情はたいへん下品で――しかし、オスの※※を暴力的なまでに刺激して止まない。


「れろぉっ……んぢゅるるっ、これ、好きぃ……! んぅっ……りゅろろっ、ぢゅぷっ……れろぉぉ……。おクチとおクチで絡み合って……ぢゅぷるるっ、れりゅろろっ……私……わたひぃぃ……!」


 汗ばんだ女体がヒクヒク震える。

 腰を前方に突き出し、すでにパンパンに膨張している※※※の粘膜に、スピカは己の※※※を擦りつけてきた。


「ズボン越しだというのに熱を感じるぞ……。ククク、スピカよ。どれだけ濡れているというのだ?」

「だって、だって……! んちゅっ、れろろろぉ……! 舌を伸ばしてれろれろするの、※※※すぎてぇ……んんぅっ! ジュノが私を想ってくれるの、嬉しすぎて……だからぁぁ……! あぁぁ……イクぅっ……!」


 快楽に浮かされたまま、スピカは声をくねらせる。

 その言葉は、俺の※※を熱くたぎらせた。


「よかろう。ならば最後は生の肉剣を用いて、お前に引導を渡してやろう!」


 俺は片手でズボンを下ろした。無論、下着も。

 夜気に晒される※※※。ひんやりとした風が、背徳感と興奮を喚起する。


 かく言う俺も、そろそろ※※を放ちたかったのだ。

 けれども先に絶頂を申告するのは、ちと恥ずかしい。

 スピカの『イク』にホッとしたという事実は、墓の下まで持っていく気構えだ。


 魔王たる者の余裕を見せ、まずはスピカに絶頂を――と、思ったそのとき。


「こ、ここに……」


 スピカはわずかに腰を上げると、片手でスカートをたくし上げ、淫らな下着を見せつけてきた。

 ――紫だ。

 黒のレースに装飾された、奇怪なほどに布地が少ない逸品である。


「こんなものを着けていたとは……。淫らな少女だ」


 が。次の瞬間。


「こ、ここ……。ここが、いいの……」


 スピカがグイッと下着をずらした。

 俺の視界に飛び込んできたのは、スピカの※※※※な部分。※※※※でぐぢょぐぢょに濡れそぼった、いやらしい※※である。


 スピカは――挿入を求めているのだ。

 俺は答えに窮する。※※※※※を反り返らせながらも、直前で踏み止まる。


「し、しかしだな……。そこは婚姻の儀を果たした者とでないと……」


 婚前※※は禁物。

 魔界の常識が、大人の階段をガードする。


「大丈夫よ。ジュノ……」


 だが、スピカは艶美に微笑むばかり。余裕すら感じられる。俺の答えは織り込み済みだと言わんばかりに。


 そして。

 スピカは快楽に染まりきった笑みのまま、告げたのだった。



「――先っぽだけなら、挿入れたことにはならないから」



「なん……だと……?」


 ――衝撃、である。

 そんなこと、考えもしなかった。


 だがしかし、スピカの言うことはもっともだ。

 根元まで※※しなければ、婚前※※も何もない。魔界の常識に背くことにはならないのだ。

 ならば……ならば!!


「ス、スピカよ……ほ、本当なのか? 本当に、先っぽだけならノーカウントだというのか!?」

「んっ……ホントよ。街に売ってた本に書いてあったもの。アルテミスたちにも教えてあげたら、すごくビックリしてたけど、喜んでもいたし……」

「な、なるほど、書物に……。ならば!」

「そうよ。だから……ね? は、早く……んんっ! 私、もぅ我慢出来ないからぁ!」


 言うが早いか、スピカがゆっくり腰を下ろしてきた。

 膨張しきった※※の最先端へ、自らの真珠貝を――。



 にゅるぅぅ……。



 それは。

 それはまるで、局部を熱い湯の中に浸したかのような感覚で――。


 その熱に、柔らかな圧迫感に包まれて、


「うわあああぁぁぁぁぁ……!!!!」



 びゅるるるるるるっ!! ぶびゅるる! ぶびゅうううぅぅぅぅ!!!!



 俺は悲鳴じみた声を発しながら、猛烈な絶頂に呑み込まれた。


「ひああぁぁあぁあぁぁ……!!!!」


 ほとんど同時に、スピカも甲高い悲鳴を上げる。

 ぶしゃあぁあぁぁ! という噴水のごとき潮※※が、俺の下半身に降りかかってきた。


『はぁ、はぁ、はぁ……!』


 スピカと見つめ合う。荒い吐息を重ね合う。


 だが、ノーカウント。

 魔界の常識は守られたのだ。


 ……腰のあたりが甘ったるく痺れている。

 なんと※※な※※なのだろう。


 あぁ……目の前の少女が愛おしくてたまらない。

 挿入れたことにはならないのに、これほど濃密に心を通わせられるとは……!


 俺とスピカは向き合ったまま、無言で深い口づけを再開する。

 ※※※の感想を語り合うかのように、じっくり、ねっとりと――。

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