2ページ

 奥さんの話では、的場さんが『飲みに行ってくる』とだけ残して帰って来ていないそう。連絡もないとかで、先日俺の店の話をしていたから気になって来たのだそうだ。

 どうやら的場さんは心臓が悪いようで、こんな寒い日に飲むなんて信じられないと奥さんはご立腹だ。

「お待たせして申し訳ありません」

「いえ、いいのよ。私が無理にお願いしたのですから」

 奥さんに少しだけ待ってもらって超特急で洗剤を購入し、一緒に店に向かうことにした。 

まだ開店時間じゃないから、的場さんは来ていないと思うと伝えても、一度確認したいとのこと。どうして俺の顔を知っているのかと聞いたら、以前写真を見たと答えた。いつ撮ったものか全然覚えてない。

「いらしているでしょうか」

「あの人の事だもの、あり得なくないわ。全く、考えなしなんだから」

 横からビシビシと怒りのオーラを感じる。心配しているからこそ、だよな。

 なんて思いつつ、奥さんの好意で相合傘をして店に向かうと、ガラス越しに店内を覗いている人影が一つ。うそだろ、もしかして・・・

「あなたっ!」

 やっぱりかーっ! 

「奥さんっ」

 と言葉を口にするも、駆け出した奥さんは止まらない。その声に振り向いた人影は紛れもなく的場さんだったし、濡れた地面を蹴り上げて飛んだのは奥さんだし、その飛び蹴りをボディで受け取ったのはもちろん的場さんだ。華麗な飛び蹴りだが感心している場合じゃない。

「的場さん、奥さんっ!」

 駆け寄ると地面に座り込んだ的場さんと、仁王立ちの奥さんが。

「こんな寒い日に飲みに歩くなんて! これ以上心配を掛けないで頂戴っ!」

 こっちの方が心配だわ! と思いつつも口には出せず・・・。何となく、こんな日でも飲みに出たくなる気持ちが分かったような、分からないような・・・? 想いって難しい。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る