君は知らぬや、この心
カゲトモ
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「あー、やっぱ降って来た」
開店時間の少し前、ストックの無くなった食器用洗剤を買いにドラッグストアへ。こんなことなら昨日買っておくべきだった。遅くとも出勤時には。もう全部昨日のリンが悪い。
「さむ」
制服に着替え終わっていたから仕方なく上にダウンを着たけど、スラックスだけの足がめっちゃ寒い。マフラーも巻いてくるべきだったな、と思いながら無意識に上がる肩を戻すことが出来ない。
これは多分、今日も暇なパターンのやつだ。
これだから冬場は売り上げが落ちるんだ。懐が寒くなるのもあるけど、外が寒すぎて飲みに来るやつは少ない。駅からも少し歩くし。
だいたい雪降っているのに悠々と飲むなんて。交通だって麻痺したりするし、そらみんな真っ直ぐお家へ帰るわな。俺も休みだったら絶対に一歩も外に出たくないもん。
サラサラの雪で積もるような感じがしない事だけが救いだ。電車も動いているし。
「あぁ~」
早く帰って温かい飲み物を飲むに限る。さっさと洗剤買お。
危ないとは分かっていても寒さに負けてポケットに両手を突っ込んで小走り。転んだら手を着くから。まだ反射神経鈍ってないから。
「ふぅ」
商店街のアーケードに辿り着いて、身体に付いているだろう雪を払うこともせずに一直線にドラッグストアへ向かう。どうせまたすぐに外に出るから気にしない。
視界に入る商店街はかなり落ち着いて見えた。いや、普通に暇そうだ。夕方時のいつもの活気がない。皆昨日のうちに買い物してしまったのだろう。俺だってそうする。
八百屋も肉屋も美容室も暇そうだ。
「あら?」
美容室の隣を通り抜けようとすると、ロングコートの女性と目が合った。こんな美熟女、知り合いに居たか? しかもザ・金持ちって感じの。
誰かは分からなくとも、ばっちり目が合っているし、とりあえず会釈だけしてみる。
「あなた」
でも向こうは俺の事を知っているようだ。全然わからん。
「バーのマスターよね? ミ、ス、ティック、スカイ、だったかしら」
「はい、そうですが」
駆け寄ってきたその人に、にっこりと返事をする。その人は近くで見ても綺麗で、どこかやり手な感じがした。例えるならクラブのママみたいな。
「主人を御存じない? 的場総一郎なのですけれど」
「あぁ、的場さんの。存じ上げております」
的場さんは大手物産の社長さんで、常連さんでもある。あと、甘いものが好き。
「あの、主人はお邪魔していませんでしょうか?」
「え」
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