バイト君と美少女アイドル
青獅子
バイト君と迷惑美少女
『バイト君』
俺、
「いらっしゃいませー」
明るい声を意識して言うが、負の感情がそれを邪魔しているようだ。どうにもこいつが来る時はイライラが収まらない。その客は腰のあたりまである長い黒髪に、マスク・眼鏡・帽子という完全武装で来ている。背丈は俺と比べるとかなり小さく、声や肌の艶で女性だとわかる。そして、その容姿からおそらく中学生か高校生だろう。大学生の俺からすれば年下。そのはずなのに、この女は何故か上から目線で物を言う。その女は買い物を済ませると、レジに向かい俺の所にやって来た。
「何よ、『いらっしゃいませー』って。語尾は伸ばさないでよ。気持ち悪い」
「も、申し訳ありません……」
レジに来た早々、何が気持ち悪いだ。俺にとってはお前の方がキモいわ。何芸能人気取っているんですか。キモい、気持ち悪いよ。謝罪の言葉を言いながら、内ではこんな事を思っているなんて、このガキは思いもしないだろうな。
「以上で、お会計が334円になります」
俺は憤りを募らせながら商品をスキャンし、メガネ女が金を取り出すのを待つ。しかしそのお金は、一向に現れない。出たよ、こいつの嫌いなところその1。
『異常に金を出すのが遅い』
後ろ、つっかえてるから早くしろ。そうしてようやく出てきたと思ったら、それは1万円札だった。これがこいつの嫌いなところその2。
『金を出すのが遅い上に、出すのはいつも1万円札』
札だけならすぐ出せよ。なにをそんなにてこずってんだよ。お前頭おかしいよ!口から罵声が出るのを引っ込め、俺は1万円札を受け取る。レジスターに数字を打ち込み、お釣りは9666円と出た。先に9000円を取り出そうとすると、
「ちょっと、早くしてよ。私、急いでるの」
苛立ちげに口にするガキ。また出た、こいつの嫌いなところその3。
『自分は金出すのにめっちゃ時間かけるくせに、お釣り貰う時はやけに店員を急かす』
もう、お前何様なんだよ!こちとら数字打ち込んだばっかりだわ!
「しょ、少々お待ち下さい……」
そう言って素早く手を動かる。
「お待たせ致しました。こちら、9666円のお返しです。レシートはいりますか」
俺は彼女にそう言い、お釣りを渡した。マニュアルではお釣りを渡せば、レジの接客は終わるのだが、何故か彼女はその場から動かない。早くどっか行け!後ろつっかえてんだよ!お前迷惑になってんの!
「あの、お客様。他のお客様がお待ちですので……」
「何言ってんの?肉まん買い忘れたから肉まん1個追加」
はぁぁぁぁ!?コイツ何言ってんの、馬鹿かコイツ?
「あの、後ろのお客様を待たせることになりますので、もう一度お並び直しください」
「あらそう。使えないわね」
そう吐き捨てて、列の最後尾に向かう彼女。相変わらずうぜぇなこのガキ。クソっ、イライラが収まらねー。
「肉まん1つですね。お会計は120円になります」
俺は苛立ちを隠しながら営業スマイルを作る。そうしてあのガキは例のごとく1万円札をチンタラと取り出す。
「まず9000円と、880円のお返しです。レシートはいりますか」
俺は彼女にそう言うと、あのガキはお釣りとレシートを素早く受け取って店を去った。ちっ、マジでもう来んな。なんであいつ俺のいる時にしか来ないんだよ。そう考えているとまたも沸々怒りがこみ上げてきた。
そして10分後、レジから客がいなくなると俺はコンビニの出入り口の方を見る。あのガキはまだ入り口の前にいた。どうやらスマホを触っている。そして、俺が知らない内に帽子を取り、マスクも眼鏡も外したようだ。
俺はふと彼女の素顔を見る。その素顔は誰が見ても美少女だと言うほどのルックスだった。そして、どこかで見覚えのある顔だと気づくまで、そう時間はかからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます