07 瞳の中に見えるのは(嬰児と少年)

 ちまちまと後をついてくる姿に思わず笑みがこぼれた。

「にーにぃ。にーにぃ」

 こちらを呼んでせいいっぱい手を伸ばすそのしぐさは、たとえひいき目といわれてもかわいい。かわいいったらかわいい。

 だっこをねだる嬰児に、手をさしだし抱き上げる。

 彼女は嬉しそうにきゃっきゃと声をはねさせた。

「にーにー!」

「僕は君の『にーに』じゃないって言ってるでしょう?」

 たしなめる声も、自然とやわらかくなる。

「にーに。にーに!」

 無邪気に何度も『兄』とくりかえす幼子にため息を一つ。

「まったく、いつになったらちゃんと名前を呼ぶようになるんですかね」

 先は長いとつぶやきながらも顔がゆるんでしまうのは、そのあどけない瞳の中に見える絶対の信頼のせいだと思う。

「にーにー」

「……はいはい」

 綿のようにやわらかい温もりを抱きながら、青年は帰路についた。


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