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 ただコンビニに買い出しに出かけただけなのに。俺はどうして黒塗りの外車に乗せられているんだ?

「なんであんなとこに居たんだよ」

「そうちゃんレーダーが反応したのよ」

「下ネタやめて」

「やーだぁ」

 きゃはははは、と隣の席でハンドルを握るのは、一見美女である。艶やかな髪と端正な顔立ち、細い体にバランスのいい胸。露出多めのそのスーツスタイルは、世の中の男を引きつけるだろう。

 女性であったなら。

「まぁそうちゃんがしたいって言ったら最後までしてもいいけど」

 まぁ世の中そんな美味い話が転がっているわけなくて。

「お断りします」

「お金積んでも?」

「・・・金額による」

「現金な人っ。そんなとこも素敵よっ」

「はいはい」

 ここまで来たら何を言っても店に行くまでは返してもらえないだろうから、大人しくシートに凭れておく。

「相変わらずリンは元気だな」

「あたしはいつだって元気よーっ! もちろん夜もねっ」

「よそ見しないで運転して」

 はぁい、と軽い返事を返すコイツ。コイツもいわゆる腐れ縁の一人だ。オネェとも、男の娘とも、美容男子とも違う。ジェンダーレス男子とかニューハーフという言葉では収まらない。コイツはただの変態だ。

「両性になれたんだもの、楽しまなきゃ損よ」

 キュッとブレーキがかかって、店の駐車場で止まった。リンはキャバクラとホストクラブを同じビルの中で経営している。なんでも男性にも女性にも楽しんでもらいたいから、だそう。本当にただ単純にそう思っているのだ。

『あたしはね、人間が好きよ』

 出合った頃、まだ身体は完全に男だった頃にリンが言っていた言葉だ。それを純愛と呼ぶかどうかは置いておこう。

「さぁ着いた。お代を頂こうかしらね」

「なんだ、経営不振でぼったくりの店にでも成り下がったか?」

「失礼ね、売り上げは上々よ。それとこれは別。ね、だから早くキスして、ダーリン」

「ぼったくりだろ?」

「格安よ。あたし、安い女じゃないの」

 パチンと飛ばされたウインク。こんな密室で冗談はやめてくれ。

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