男とか女とか花木リンとか

カゲトモ

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「みぃつけた」

 その声にゾクン、と背中に悪寒が走る。まさか、この声は。なんてセリフじみた言葉が頭に浮かぶ。

 嘘だと言ってくれ。

「ただいまっダーリン☆」

「っ! 誰がダーリンだっ!」

 ぎゅっと背中から抱かれた腕を払うようにして振り向いた。

「やーん」

「やーんじゃねぇ、離せっ」

 振りほどくようにして身体を捩るも、ぎゅっと抱いた腕は離そうとしない。むしろ締め上げてくる。ふざけてるコイツ。

「怒らないって約束してくれたら離してあ・げ・る」

「あぁん!?」

「ほらほらぁ、怒っちゃやーだ」

 ぎゅっ。

「!!! どこ触ってんだてめぇっ!」

「あははははは」

 満足したのかぎゅっと抱いていた腕をパッと離される。反動で前に転びそうになった。

「もう、そうちゃんが怒るからでしょっ」

「お前が悪いんだろっ」

「あたしは悪くないもーん。久々のダーリンに嬉しくなっちゃって抱き着いただけだもーん」

「誰がダーリンだ」

「そうちゃんでしょっ。それなのに全然連絡寄越してこないんだもん。捨てられたのかと思っちゃった」

 真っ赤なネイルの人差し指を口元に当てて小首を傾げてくる。おいやめろ。いくら夕方だと言っても周りに人もいるんだぞ。ご近所さんにヤバい奴だと思われるだろうが。

「おいやめろ誤解が生じる」

 いつお前が俺のハニーになったんだよ。そんな記憶一つもないわ。

「やだ、記憶喪失?」

「言ってろ」

 相手にしてられん。ここはさっさと帰るに限る。

「今日はお休みでしょ? うちにいらっしゃいよ」

「絶対ヤダ」

「いいじゃない、サービスするわよ?」

「お断りします」

 ここは全力疾走で帰るしかない。回れ右、とばかりに振り返ってはし「逃がさないわよ」

「ちょ、マジで雪降るかもしれないし」

「雪降ったら送ってってあげるわよ。ご近所のよしみでしょ?」

 なに当たり前みたいな顔してんだ。ぶん殴るぞ。

「大体なんでオーナーがこんなとこにいるんだよ。店開いてんだろ」

「大丈夫よう、あたしがいなくても。うちの部下は有能なの。じゃ、行くわよ」

「嘘」

「嘘じゃなーい」

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