2.
半月後、また俺はあの山でごろ寝をしていた。今日も白っぽい軽自動車が定位置に停まっている。そして笛の音だが、いつもなら2、3曲で途切れるところを今日はもう5曲くらい続いている。しかも今日は1曲目から二重奏だった。
もうすぐ演奏会でもあるのだろうか。その割には焦りや緊張感があるような雰囲気ではないし、毎回曲がコロコロ変わる。毎回1つでも同じ曲を聴いていれば流石にその1曲くらいは覚えられるのに、毎回知らない曲ばかり聞こえてくるのはなぜだろう。
いつになく激しい旋律が途切れたあと、あどけない少年の声がした。
「ねえねえ、おにいさん」
驚いて体を起こすと、少し距離を置いたところにあの少年がいた。楽しそうにニコニコ笑っているのがここからでもよくわかる。
「いつも聴いてくれてありがとう」
少年はこちらに近づくでもなく、同じ位置でただ微笑んでいる。
「こちらこそ、綺麗な曲をありがとう」
そう返すと、少年の顔がぱっと明るくなった。
「えへへ、うれしい!また聴きに来てね」
そう言うと少年は足早に走り去っていった。遅い時間だから気をつけて帰れよ、と言おうとしたその先に、人影はもうない。
時刻は午前5時半をとっくに過ぎていた。あんなにきれいだった星空は、明るくなってきた空の色に隠れつつある。壮大な朝焼けにうっとりしていると、展望台から駆け足でこちらに近づいてくる人影があった。
「あれ?ユウさんじゃない。何してるの」
声の主は水咲さんだった。四角い皮のケースを抱え、驚いた様子で俺を見ている。
「星を見に来てたんだ。そしたら綺麗な笛の音が聞こえてきて、ずっと聴いてたらこんな時間に」
特に隠すことでもなかったからそのまま話すと、彼女の頬が一気に紅潮した。
「え、まじ、聞かれてたんだ。わー、すごい下手なのになんかごめん」
真っ赤な顔で呟く彼女が可愛らしかった。
「あれ水咲さんだったんだ。全然下手じゃないよ、上手かったと思う。一緒に吹いてた男の子も」
「へ?男の子?あたしずっと一人で吹いてたよ」
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