After the balloon

紅音さくら

1年生

After the balloon

1.

「お疲れさまでしたー!!」

 金曜日、夜の9時過ぎ。吹奏楽部の練習が終わると、周りが一気に慌ただしい雰囲気になる。部室を決まった時間までに施錠しないといけないのもあるが、特に俺たちのような車を持っていない学生は10時前の終バスに間に合わないと家に帰れなくなってしまう。

 3浪を経て合格した某大学の医学部で、俺は今までほぼ何の接点もなかった音楽を始めてみた。何となく気になった吹奏楽部に入ってみたら、結構楽しくて気づけば半年続いている。

 3浪というと、同じ学科内では何も言われないが他学部の人からは大抵驚かれる。よくそんなにモチベーション保てたよね、とまた驚かれる。何か動機があったの、とも訊かれるが、動機を詳しく話したことはない。話したくないわけではなく話すと長くなってしまうのだ。

 無気力な浪人生だった俺を変えたのは、1つの風船だった。

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