女子中学生の会話

えいべる

第一話 インフルエンザの病原体

 D組、そこは、学力バラバラ、性格バラバラ、問題児続出、なのになぜかチームワークはどこにも負けないという、ちょっと変わったクラスです。けれど、そんなクラスに通っていると、感覚が慣れるというかマヒするというかで、結局は普通のクラスに感じます。まぁ、いいクラスです。




 ピンポンというチャイムの音が響きました。私__D組の個性派の高橋美咲__は「行ってきまーす」とだけ声をあげて家を出ていきます。勢いよくドアを開けて、寒いなか大きな声で言います。


 「お待たせー」


 ですが、目の前には誰も居ませんでした。新手の嫌がらせでしょうか。


 「え?え?ピンポンダッシュ的な?」


 悲しい、というか虚しい、朝一番でこれはきついでしょう。

 やられた人の気持ちを考えてほしかったです。一日のはじめの時点で、悲しくなっちゃうひとがどのくらい辛いのか、そこをせめて察して行動してほしかったです。


 「おっはー」


 「あ、普通にいた」


 立ち尽くす私に声をかけたのは、C組の平井美樹でした。ピンポンダッシュについて、全く反省の色もありません。むしろやったことが悪事ということにすら気づいていないようです。

 美咲とは犬猿の仲のように思われがちですが、そもそも双方クズとしか思ってないので犬猿ではなく月と鼈のような格差です。あ、勿論私の方が上ですよ?


 「いたってなんだよ私は虫ですかっての」


 いっそ虫でいいです。人間と虫、そんな格差です。


 「え?美樹が虫になって木に同化してたから、日本語的にはあってるでしょ?」


 「ねぇひどくない?」


 別にひどくはありません、あなたよりは。


 そんなこんな言いながら通学路を歩いていると、現れたのは元・D組学級委員長であり只今生徒会役員の神崎愛さん。

 私の大親友ですが、結構格差があります。特に呼び方が違いますね、まるで庶民と貴族のような格差です。私は下です、だから苗字にさん付けで呼ぶのです。


 「あ、神崎さーん!」


 「あ、美咲、美樹、おはよう」


 「おはよー愛」


 美樹は自分が虫の立場ということがわかっていないのです。呼び捨てだなんて、なんてやつでしょう。


 「おはよう、神崎さ__ゲホゲホ」


 咳も出てしまいました。


 私は風邪ひいたかな、とちょっと考えました。でも、今の時期だとインフルエンザの可能性もありますし、体調管理は気をつけないといけませんね。


 「ねぇ美咲、咳するときはちゃんと口抑えてよ。移ったら嫌じゃない、マナーをわきまえてよね」


 神崎さんはそういいました。

 多分、第一声を完全に間違っちゃったんじゃないのかな、と思いました。 だって、普通は「大丈夫?」って聞いてくるもんじゃないのでしょうか。大親友なら、体を先に気遣ってくれるのでは。

 それに、完全に「大丈夫」って言わない感じですね。


 「う、うん。わかったよ__」


 結構悲しかったです。






 そんな出来事があってから、2日が経ちました。


 神崎さんはインフルエンザにかかり、私はかかりませんでした。ある意味優越感を感じました。大親友ですが、個人の人格もあります。


 


 今日も今日で、私は美樹と話しています。


 「結局あんときの病原菌って愛だったんじゃ__」


 「それは言わない」


 これでは神崎さんの顔に泥を塗ってしまいます。大親友として、それは避けないと通してもらえなさそうな道です。


 「美樹お前、あんだけマナー言ってたひとが、いざ自分が不届きでなっちゃったときの罪悪感、どんくらいか分かって言ってるの?」


 美樹は不思議そうに首を傾げます。

 そうでした。美樹は常識知らずの天然KYでした。なにを言ってももとから無駄だったのです。


 「まぁ、帰ってきたときにもそれは言ってやらない、それが優しさってもんだよ」


 「言ってあげる優しさは?」


 「そういうのだけ学ばなくて結構」


 学ぶのなら是非、今習っている学習内容を覚えてほしいです。





 その頃、神崎さんはというと。


 家で寝込んではいたものの、特に罪悪感は感じていませんでした。

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