【番外編】警備兵達の日常

■前書き


日々読んで下さりありがとうございます。

リクエスト頂いた「悪役達の心の在り方」になります!

ナーエの警備兵達の日常を描いた番外編です。


【※注意※】


・貴族が平民を見下す発言が出てきます。苦手な方は読まないで下さい(この番外編を読まなくても、本編を読むことに支障はありません)


・トワがナーエに来る前の話です。


大丈夫そうな方はお楽しみ頂ければ幸いです。

リクエストありがとうございました!


【登場人物紹介】


■ヴァイス

・ナーエの警備兵。

・他の警備兵より少し家柄が良いため、プライドが高い。

・紅茶が好き。


『慈悲深い我々がト・ク・ベ・ツに!』とか言ってた人。


■ヴィーゼ

・ナーエの警備兵。

・ミーレスに大雑把で一番頭が悪そうと思われていた人。

・トワに撃たれた人。


『イイコでオトモダチなんだろぉ~?』とか言ってた人。


■ヴァーチュ

・ナーエの警備兵

・本編には出て来てない人(※ミーレスが『きちんと仕事をしてくれる兵もいる』と言っていたのはこの人のこと)

・きちんと仕事もするし、平民を思ういい人

・苦労人


※全員名前が似ててすみません…

※この話には3人しか出てきませんが、警備兵は他にも沢山います。


* * *







 

『ヴァイス、ヴィーゼ、戻ってたのか。広場の方は少し小競り合いがあったくらいで、大きな事件はなかった。そちらはどうだった?』


 ヴァーチュは待機部屋の扉を開けながら、中にいたヴァイスとヴィーゼに声を掛ける。ヴァーチュを含め、牢屋の警備担当以外は全員外の警備をしている。


 ヴァーチュは警備担当場所が待機部屋に近かったため、自分が一番乗りかと思ったが、ヴァイスとヴィーゼの方が先に戻っていたようだ。


『何もない。相変わらず退屈な仕事だ』


 ヴァーチュの問い掛けに対し、ヴァイスは紅茶を飲みながら、吐き捨てるように答える。


 ヴァイスは警備兵の中では一番家柄がいい。中級貴族に近い家柄を持ちながら、警備兵などという仕事を任されているのが不満なのだろう。常に少し不機嫌そうだ。


『俺の方もなぁ〜んもないぜ! ったく、平民が馬鹿やってくれれば捕らえて遊べるのによぉ〜』


 ヴィーゼは手元の酒をグビグビ飲みながら、戯けたように答える。ヴィーゼの言う遊びとは、捕えた平民を憂さ晴らしの餌食にすることを指す。


 ヴァーチュはヴィーゼの返答を聞き、眉をひそめる。


『ヴィーゼ……不用意に平民を捕えるのはやめろと、何度も言っているだろう?』


『別にいいだろぉ〜? あんなカスみてぇな魔力しかない奴ら、人じゃねぇ。家畜だ家畜! いや、家畜の方がまだ使い道がある。ゴミみてぇなもんだ!』


『ヴィーゼッ!』


 平民を見下すヴィーゼに対し、ヴァーチュが声を荒げる。


『騒がしいぞ、ヴィーゼ、ヴァーチュ。紅茶が不味くなるだろう』


 ヴァイスは我関せずといった顔でお気に入りの紅茶を飲みながら、騒がしさのみを注意する。


『ヴァイスぅ〜、お前だって平民なんかゴミだと思うだろぉ〜?』


 ヴァイスを味方につけようと、ヴィーゼがヴァイスに問い掛ける。


『興味ないな。ただ死体を牢屋に放置するな。臭いがこちらに漏れ出して、紅茶の香りが台無しになる』


 ヴァイスにとって平民がどんな存在か、生きていようが死んでいようが関係ない。ただ自分がお気に入りの紅茶を飲み、ティータイムを穏やかに過ごせればそれでいいのだ。


『はぁ〜相変わらずヴァイスは紅茶、紅茶、紅茶だなぁ〜! ただの茶色い液体じゃねぇか。酒の方がよっぽど美味い』


『貴様の馬鹿舌には何の期待もしていない』


 一度ヴァイスが警備兵達にとっておきの茶葉を振る舞ったのだが、ヴィーゼの反応は酷いものだった。最高級の茶葉を前に『何だこりゃ? にげぇ水だな。茶色いし腐ってんのか?』等と抜かしたのだ。


 それからというもの、ヴァイスはヴィーゼの舌を一切信じていない。


『平民といえど殺しすぎれば問題になる。素直にヴァーチュの言うことを聞いておけ。ヴァーチュの方が紅茶の味が分かる奴だ』


 あくまでヴァイスの判断基準は、紅茶の味が分かるかどうからしい。


 ヴァーチュは少し呆れつつも、折角ヴァイスから都合のいい言葉を貰えたのだ。最大限ヴィーゼを牽制する。


『ヴァイスもああ言っているだろう? ヴィーゼ、平民を不必要に殺すな。いいな?』


『へぇへぇ』


 ヴィーゼは適当に返事をしながらまた酒を飲みだす。こんな注意をされたことは、どうせまたすぐに忘れるのだろう。


 はぁ……と溜め息を吐きながら、ヴァーチュも空いている席に適当に座る。


『おっ、ヴァーチュ! 酒の飲み比べするかぁ〜?』


 席についたヴァーチュに対し、ヴィーゼが酒瓶を掲げる。


『やらん。俺は水でいい』


 もう一度溜め息を吐き、ヴァーチュはヴィーゼの誘いをキッパリと断る。


『今日はいい茶葉が入ったんだ。ヴァーチュ、お前も紅茶にするか?』


 ヴァイスは新しい茶葉の味を誰かと分かち合いたかったのか、問い掛けながら既に新しいカップを出し、紅茶を入れ始めている。


『あ、あぁ。じゃあ紅茶を頂くよ……』


 ヴァーチュは紅茶を飲みたい気分ではなかったが、ここで断ればヴァイスの機嫌が急降下することは確実だ。ヴァイスから紅茶を受け取り、口をつける。


『あぁ……確かに前の茶葉と違うな。前より……香りがいい、のかな? 後味もスッキリしている。俺はこちらの茶葉の方が好きだな』


 一口飲んで感想を言えば、ヴァイスが一見無表情のまま、目を輝かせる。


『流石だな、ヴァーチュ。やはりお前はよく分かっている。そう、今日新たに仕入れた茶葉は――――』


 ヴァーチュは適当にヴァイスの紅茶談義を聞き流し、再度溜め息を吐きながら深く深く思う。




 ―― あぁ、仕事、変えたい。


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