第63話
「ふっふっふ……順調、快調、絶好調ってね!」
「きゅ?」
俺は宿屋のベットで、ナーエの商売で手にした魔石をじゃらじゃらと広げる。
自分は魔石の魔力量が分からないため、宝石を眺めているような感覚だが、円換算したらなかなか凄い額になるだろう。
「そういや俺の総財産って今どれくらいあるんだ……?」
ノイでは元の世界の料理やリバーシ大会、動画や音楽の公開でかなりの額を稼がせてもらった。だいふく達から貰った魔石もあるので、元の世界にいた頃では考えられないほどの額を手にしているはずだ。手元にある魔石を見ながら、俺はスマートフォンを取り出す。
いい機会だ。異世界に来てからの行動を振り返りながら、総財産をざっくりと計算してみることにした。スマートフォンの日記アプリを利用してつけていた、自身の行動録を振り返る。
まず、異世界に来てから商売を開始するまでは、俺の財産はだいふく達から貰った魔石だけだ。異世界に来て200日目に、ノイでの商売を開始した。
「懐かしいな……フレドと一緒に準備して、カルネに『読みが甘い!』って怒られたっけ……」
初日はじゃがバターを100個と、プリンやパン、バターを各20個、合計200個の商品を用意し、大きさを変えたりして全商品500カクで販売した。
全て完売したので、1日の売り上げは10万カクだ。半分はフレド達や材料集めを手伝ってくれた人達に渡したので、俺の取り分は5万カク程だ。
次からは必死に材料を集めて、倍の数売るようにした。毎回完売していたので、俺の取り分は10万カクに増えた。
「本当、材料集め大変だったよな……」
異世界に来て420日目……ペッシェ達の処刑と言う痛ましい事件が起きるまでは、5日に1回商売をしていたので、約200日間で計435万カク程の売り上げを得た。
「計算してみると結構な額だな……」
スマートフォンの電卓アプリに表示された数字を見ながら、俺は少し目を見開く。しかも、ここにリバーシ大会で得た金額と、動画と音楽で得た金額が更に加算されるのだ。
リバーシ大会は、異世界に来て240日目に記念すべき第一回大会を開催した。
以降は10日に1回の頻度で、ノイを出るまでに19回開催した。1回開催するごとに、優勝賞金と参加費総額の差額で10万カク程の儲けが出る。ペール達が無償で手伝ってくれていたため、取り分は丸々俺に入っていた。
「リバーシ大会だけでも190万か……凄いな……」
そして動画と音楽。
どちらも30分入れ替え制で、1回ホールに30人程入場可能だ。10時から20時まで営業し、何回も見に来る人がいるのか全部の回が満員になっていたそうだ。
入場料は1回500カクなので、なんと1日の売り上げは60万カクにもなる。うち半分はギャラとして出演者に渡したり、警備をしてくれたギルドの人達に渡したりするので、俺の取り分は30万カク程だ。
初めて動画と音楽を公開したのは325日目。
それから俺が貴族に捕まる431日目までの106日間、毎日営業して貰っていた。
「えーっと……1日30万を106日間だから……さ、3180万!?」
毎日ギルドの人から売り上げの魔石を受け取るたび、今日も儲かったぜーなどと笑っていたが、改めて計算するとかなりの額だ。
旅の準備や銃の製作に多少お金を使ったことを考えても、約3500万カクとだいふくから貰った価値不明の魔石が俺の総財産になる。
「や、やばいな……元の世界の俺じゃ考えられない大金だ……」
ゴクリと唾をのみ込みながら、美しく光る魔石を見つめる。
因みに魔石は10カク、50カク、100カク、500カク、1000カク、5000カク、1万カク、5万カク、10万カク、50万カク……というキリのいい金額毎に加工されている。
全て似たような形なのだが、含まれている魔力量が異なるそうだ。
最初は全く見分けがつかなかったが、よくよく見ると魔力量によって少しづつ大きさと色が異なるため、今は魔力が感じられない俺でも何とか見分けがつく。
ノイにいた頃は、魔石が溜まったら魔石加工師であるアルマに両替をお願いしていた。アルマに複数の魔石を渡すと、キリのいい金額で魔石をまとめてくれるのだ。
まとめられた魔石は、元の魔石よりも少し大きくなって、色が濃くなったようにしか見えないが、ちゃんと各金額ごとに加工してくれてあるのだろう。アルマのことは信頼している。
「あれ? ノイではアルマにお願いしてたけど……ナーエではどうすればいいんだ……?」
ナーエで獲得した500カクや1000カクばかりの魔石をそっと撫でる。小さな額の魔石をじゃらじゃらと持ち歩くのは避けたい。信頼出来る人と魔石を交換するしかないのだろうか?
「はぁ……これもミーレスに聞かないと……」
俺はベッドの上に広げた魔石を、値段毎に分類しながら魔石製の箱に仕舞っていく。魔石製の箱はペールがくれた物だ。中が細かく仕切られていて使いやすい。外側のくぼみに専用の魔石をはめ込むと蓋が開き、魔石を外すと蓋が開かなくなる優れものだ。
「あ、これよく考えたら魔石錠と同じ仕組みか」
知らず知らずのうちに俺も魔石錠を使っていたようだ。
それにしてもこの世界はお金も魔石、武器も魔石、硬さが必要な物も魔石、鍵も魔石、どこもかしこも魔石だけらだ。
「魔石ちゃんってばマジ万能……超人気者……」
まぁ元の世界でもよくよく考えてみれば、お金も硬貨は鉱物で出来ているわけだし、似たようなものかと思いなおす。
「そーいや魔石ってどうやって増えるんだろ? やっぱ魔物を倒すとドロップするのかな……?」
魔物の角が魔石のようなので、魔物を倒すとドロップ……というか魔物を倒して角を取る説が有力な気がする。もしかしたら鉱物のように、鉱山で採掘も出来るのかもしれないが。
俺はノイからナーエに向かう道中、倒した魔物の素材を拾わなかったことを思い出し、少し後悔する。
「ま、まぁでも魔物の解体とか出来ないしな……魔物の死体を馬車に載せたくないし……あれは仕方ないよな」
よくよく考えてみれば、魔物の素材を回収した方がいいと言っていたアルマは、自分で解体も加工も出来る人間だ。
非力な俺ではそもそも素材の剥ぎ取りが出来ない可能性が高い。
「……あ、だからスティードとソルダは『トワには無理だ』って言ってたのか……」
魔物を倒しても止まらずに走れと言っていたスティード達は、馬車を停めても素材を回収するのが不可能だということに気が付いていたのだろう。
「アルマは結構……気合で何とかなるって考えるタイプだもんなー……」
俺を蚊帳の外にして、スティード、ソルダ、アルマの3人が言い争っていた姿を思い出す。
きっと俺がいなくなった後も、あの3人は相変わらず言い争っているだろう。段々と意地の張り合いのようになっていく皆の姿が目に浮かぶ。
「ノイの皆、元気かなー……」
異世界生活465日目、ノイの皆へ出す手紙をああでもないこうでもないと何度も書き直しながら、夜が更けていった。
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