第62話
『おいトワ、あちこちでパクリ商品が売られてるぞ? いいのか?』
ナーエで商売を始めてから10日程経過した。
いつも隣で店を出している主人を含め、商人仲間が何人か出来、皆心配そうに俺に声を掛けてくれる。
『大丈夫です。俺だけじゃ需要に対して供給が間に合わないので、独占販売する気は元々なかったですし。バター自体を売ってるのはうちだけですしね』
俺は笑顔で返す。強がりではなく、元々積極的にパクリ商品を売って欲しいと思ってじゃがいもの調理法等を教えたのだ。
ノイでの経験上、じゃがバターやリバーシは大流行することは予想していた。
新参者である俺が独占販売していたら、長年ナーエで商売をしていた人達はそりゃあ面白くないだろう。敵対されるのが目に見えている。
更に、俺だけが目新しい物を販売していたら、商人だけではなく、貴族に目をつけられる危険性も高まる。
―― 新商品、皆で売れば怖くない。なんちゃって……。
ノイで俺が商人達に恨まれることなく独占販売出来ていたのは、街の人達と信頼関係が出来ていたからだ。信頼関係を築けていないナーエでは、俺だけが新しい物を売るのではなく、色んな店で売り出すことで、目をつけられないようにしよう作戦だ。
また、商人に返した通り、需要に対して供給が間に合わないのも事実だ。俺の手持ちのじゃがいもは、馬車に乗っているだけしかない。自分が旅の食料として食べる分も確保しておきたいので、売りつくす気は更々ないのだ。
『トワ……お前さん、商人向いてねぇぞ……?』
裏事情を知らない商人達は、呆れたような顔で俺を見る。
『ま、まぁ……最初に皆さんにお話した通り、俺の最大の目的は故郷の情報収集なので……』
苦笑しながらそう返せば、商人の1人が『じゃ、じゃあ俺もじゃがバターとリバーシ売り出していいか? お前に悪いかと思って、うちでは扱ってなかったんだけどよぉ……』と質問してくる。『構いませんよ』と返せば、周りの商人達も『じゃあ俺も!』『私も!』と名乗りを上げる。
『勝手にパクった奴等が結構いい売り上げ出してるみたいでよぉ……!』
『悔しかったんだよなぁ……!』
『客も取られたしねぇ……!』
非公認の模造品を売っている人達に対し、何人かがぶつぶつと恨み言を口に出す。それを聞いて、俺はもっと早く仲のいい商人達に『うちの商品はパクっていいですよ』と伝えればよかったなー……とちょっと反省した。
『よし。うちは"トワ公認"とか"本家公認"って宣伝しよう』
『あはは……ここにいる人達にはいつも良くしてもらってるので、せめてバターを少し安く売りますね。あとリバーシのコツとかも教えます』
『お、そりゃありがてぇ!』
俺に配慮して模造品を扱わなかった商人に申し訳ないので、俺が出来る範囲で融通しようと心に決めた。
本家公認という宣伝文句で客が流れてくれれば嬉しい。お客さんの中には『勝手にパクった奴等なんかからは買わないからね! トワのとこで買うよ!』と言ってくれる人も多い。本家公認の店からなら、そのお客さん達も買ってくれるだろう。
……
ナーエでの商売はなかなか順調だった。
ただ、帰還に関する新しい情報は全く手に入っていない。
大陸の端にあったと思われるノイに比べ、ナーエは外から来たと言う人も多い。しかし、大体は隣街であるレイノからの商人が多く、大した情報は得られなかった。
「は―……レアーレの冒険もやっぱりお伽話扱いだしなぁ……」
見た目に反してかなりおじいちゃんのロワが特別だったのだろう。普通の寿命しか持たない人からしてみれば、何百年も前にあった話なんてそりゃあお伽話だ。
「もっとロワから色々聞けばよかったな……」
後悔しても後の祭りだ。ロワと連絡を取る方法なんて持ち合わせていない。
―― ん……? 連絡?
ふと、ギルドマスター同士で連絡が取り合えるなら、ギルドマスターと王も連絡が取れるのではないかと思い当たる。緊急事態は王も把握していないとまずいだろう。王も共鳴石を体に埋め込んでいる可能性が高い。
その可能性に気付き、俺は商売を終えると同時に、ギルドへ走る。
……
ギルドに着き、逸る気持ちを抑えながら受付を済ませ、案内されたギルドマスターの部屋に飛び込む。そんな俺を見て、ミーレスが不思議そうに問いかける。
『トワ、そんなに慌ててどうした? ノイへの手紙が書き終わったのか?』
『あ、いや、それはまだ書き途中なんですけど……』
ノイへ送る手紙は、伝書魔物が持てるサイズの板に書かなくてはならない。意外と板が小さく、何度も書き直していて未だに完成していない。
『手紙とは別件なんですが、ミーレスはロワ……ノイの王に連絡取れますか?』
『ロワ王に?』
俺の質問を聞き、ミーレスが訝し気にこちらを見る。ミーレスには俺とロワの関係を伝えていないため、こいつは突然何を言い出したんだ? と思っていそうな表情だ。
『はい! 共鳴石を使って、ロワ王に連絡取れないでしょうか?』
『……まぁ、共鳴石を使用すれば王にも連絡が行くが……』
『本当ですか!?』
俺がロワと連絡を取り合いたい旨を伝えれば、ミーレスは困った表情で俺を見る。
『……理論上は可能だ。だが共鳴石を使うと、他の街のギルドマスターや王にも共鳴してしまうんだ。ギルドマスター同士の定期連絡や緊急業務連絡には使用するが、ギルドマスターから王への個人的な連絡は……前例もないし、流石にちょっと、な……』
ミーレスの話によれば、現在街同士は同盟を結び、協力関係にあるらしい。しかし仲良しこよしという訳ではなく、いつ何が起こってもおかしくない、なかなか不安定な状況のようだ。
これまでにない共鳴石の使い方をし、他の街を刺激することは避けたいと言われる。街それぞれに王がいるので、もう街と言うより独立国家のような感じなのだろう。争いの火種になることは避けたいと言う。
『そうですか……。それは確かに……駄目ですね……』
近い街同士が普段しないような連絡を取り合っていたら、他の街が不審がることは想像に容易い。
『しかし何故ロワ王に連絡を取りたいんだ?』
『あー……実はノイにいた時に直接話す機会がありまして。ロワイヨムの情報を頂いたりしたので……旅の相談や情報共有をしたいなーと思って……』
『王と直接話しただと!? ノイの王は変わり者だと聞いていたが……まさかここまでとは……』
平民……というか異世界から来た等という不審者としか呼べない俺と、王が直接会話したことに驚きを隠せないようで、ミーレスは目を見開きながら呆れた表情をしている。
俺もロワって結構変わり者なのでは? と思っていたが、やはり通常有り得ないことのようだ。
『まぁ……私がソルダに直接会う際、言付けよう。同じ街のソルダならば、ロワ王と連絡を取る手段もあるだろう』
『すみません、お願いします』
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