第57話
「道の傍の大きな岩と大きな木……道を挟んでもう1つ大きな岩と大きな木……よし!」
あれから約1日半馬車を走らせ、スティード達が教えてくれた風景を見つける。
ここ数時間は魔物の姿も見ていないため、ナーエの魔力圏内に入ったと判断して良いだろう。
「はぁー……長かったー……」
安堵の溜息を吐きながら、念のためもう少し先に進むことにした。
あの後も計……何匹だろうか?
平均1時間に2、3匹程の魔物と戦闘した気がする。
戦闘と言っても俺は遠距離から銃で撃つか、ひたすら馬車で逃げるかのどちらかだったので、まともな戦闘とは言えないのだが。
俺の場合、近距離で直接戦闘となったら確実に死が待っているため、とにかく遠距離にいるうちに倒すことが重要だ。
因みに馬車の荷台に何か所か設置されている窓は、外の景色を確認しながら銃を撃てるようになっている。
荷台は魔石製で頑丈な為、最悪籠城も可能だと思う。ただエクウスの身が危険に晒されてしまう上、エクウスがいないと荷台を動かすことが出来ないので、籠城作戦を実施することはないだろう。
「ほんと……アルマには頭上がらないな……」
あらゆる魔石加工を一手に引き受けてくれたであろうアルマに心の中でお礼を言い、魔石銃に魔石を使って魔力を補充する。
それから3時間ほど馬車を走らせ続け、魔物に全く遭遇しなかったため今度こそ馬車を止める。
「エクウス、本当にお疲れさま。今日はゆっくり休んでくれ」
馬車から降りて疲労回復の飲み物を一口飲んだ後、皿に注いでエクウスにも飲ませてやる。
エクウスはペロペロと舐めるように疲労回復薬を飲み、俺の方に頭を擦り寄せた後、草原の草を食べ始めた。
「よしよし、ありがとな」
エクウスの毛並みを整えるように撫で、俺もぐっと伸びをする。
馬車の荷台からすぐに食べられる干し肉などの食料を取り出し、もちと分けながら食べる。
「はー……寝よ……」
食事を済ませ、適当に口をゆすいで体を拭くと、俺は荷台に敷いた布団に倒れ込む。
「もちー……何かあったら起こしてくれー……」
もちは俺の声に答えるかのように「きゅっ!」と力強く鳴く。その鳴き声に安心して、俺は深い眠りに落ちた。
……
「ん……」
スティード達に戦闘のダメ出しをされる夢を見た。
実際この場にスティード達がいたら、多分夢で見たようなことを言われただろう。
「はは……スティード達に注意されたこと、全然出来なかったもんな……」
落ち着けとか、周囲を見ろとか、常に油断せず戦闘に備えろとか……そりゃあもう怒鳴られ続けただろう。
そういえば、余裕があったら倒した魔物の素材を回収するといいと言われたが、一切馬車を止めず回収せずに突っ走って来てしまった。
「ま、回収派はアルマだけで……スティードもソルダも止まらずに走れって言ってたし……まぁいいか」
魔物の皮や牙等の素材は加工され、武器や防具、日用品等に使用されるらしい。
何だか某モンスターをハンターするゲームのようで少し楽しい。
素材を回収してどんなものになるのか興味はあったが、自分の命の方が大事だ。
「ゲームでは双剣使いだったけど……無理無理。ハンターってすげー……」
ゲームでは大型モンスターが出るとワクワクしながら挑戦したものだが、現実では「何も出てこないでくれ……!」と何度天に祈ったか分からない。
「危険地帯は抜けたし、あとはナーエまで走り抜けるだけだな!」
……
道中はレッスに襲われた時の経験を活かし、食事を手早く荷台の中で行うようにした。
食事中も常時外を警戒し、銃を常に手放さないように意識して行動する。
馬車を停車させる場所も、木や茂み、岩等の人が隠れる場所がない、開けた場所で停めるよう意識した。
馬車を止めた際、数回盗賊らしきの影が近づいて来たが、荷台の中から足元に向かって威嚇射撃を行い、相手が怯んでいるうちに馬車を発進させて逃げた。
「はー……気が休まる暇がないな、こりゃ……」
一番疲れているのはエクウスだろう。早くしっかり休ませてあげたい。
「きゅー!」
もちが頭上から「頑張れー!」と応援するように鳴く。俺は呆れたように笑いながら「お前は気楽だな……」ともちの頭を撫でた。危ないから荷台に戻ってろと扉を開けてやれば、もちは素直に荷台に戻っていく。
「さて、エクウス……俺も頑張るから、お前も頑張ってくれ……! 悪いな、もうひと踏ん張りだ!」
再度手綱を操りエクウスの走る速度を上げる。
……
途中何度か野営や休憩を挟みつつ、5日程走り続けると、前方に大きな城壁が見えてくる。恐らくあれがナーエの街だろう。
ノイよりは全体的に少し小さめの街に見える。俺はソルダから貰った許可証を取り出し、握りしめる。
ノイの時はほぼ不法入国? のようなものだったので、まともに街に入るのはこれが初めてだ。城壁の近くに馬車を止め、門番らしき兵士に話しかける。
『あの……ノイから来ました。ギルドマスターから通行許可証と商売許可証も貰っています』
『確認致します』
兵士が許可証に魔石のようなものをかざすと、許可証が淡く光る。
『はい、問題ありません。どうぞ』
『あ、はい……どうも……』
一瞬で確認が終わり、俺は拍子抜けする。
仕組みが分からないが、多分あの魔石と許可証で認証を行っているのだろう。
自動改札機と電子カードのような関係なのだろうか?
まぁ時間がかからないのはいいことだと思いなおし、怪しまれる前にそそくさ城壁内に入ろうとする。
『あ、馬車はどうすればいいですか?』
『馬車に関してはナーエが責任を持ってお預かりします。馬も同様です。ただし荷台に積まれた荷物までは保証出来かねますので、貴重品等はご自分でお持ちください』
『分かりました』
『通行許可証が馬車の預かり証にもなります。最後出ていく際、通行許可証を再度提示してください』
『なるほど……分かりました』
どうやら馬車と馬は、街が警備する場所でしっかり預かってくれるようだ。馬車や馬は大きいので盗まれそうになったら気付けるが、荷台の荷物だけこっそり盗まれても責任は負えないそうだ。
通行許可証がそのまま馬車の預かり証になるのも分かりやすくてありがたいが、絶対なくさないように、肌身離さず身に着けようと思った。
俺は予めまとめておいた荷物を背負い、もちの入った布袋等を手に持つ。
『じゃあ、エクウス。ちょっと行ってくるな、お前はゆっくり休んでくれ』
エクウスを一撫でし、馬車から離れる。
『さて、と……まずはあそこか……』
異世界生活450日目、俺は荷物に押し潰されそうになりながら、ナーエの城門を潜り抜けた。
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