第27話

 

『トワがボコボコにされないためには、逃げて逃げて逃げまくるしかないと思うんだよな』


『え』


『……そうだね、逃げて、物陰に隠れて……銃で攻撃、が一番いいかな?』


『えぇ……』


 フレドとティミドがアイディアを出してくれるのは嬉しい。非常に嬉しい。


 だが、ダサい。実際の行動を想像するとダサすぎる。


 敵にエンカウントした瞬間、逃げるコマンド連打からの、物陰に隠れて遠距離攻撃とは人間性を疑われる戦い方だ。


『え……も、もうちょっと何かこう……』


 俺がごにょごにょと注文を付けようとすると、二人は強い口調で反論してくる。


『何嫌そうな顔してんだ! 仕方ないだろ! トワ弱いんだから!』


『そ、そうだよ! トワが死なないためだよ!』


『……ハイ。お二人の仰る通りです……』


 二人の純粋な好意は俺の心を深く傷つけた。しかし俺が弱いことは事実なのでどうしようもない。格好良く敵と戦えるのは、選ばれし戦士だけなのだ。



『あとはやっぱ防御力強化だよな』


『……そうだね、防具や盾は、軽くていい物……揃えないとだよね……』


 二人は次に防具について言及する。防具は売られている物で一番いい物を買おうと思っていたが、アルマに特注で作ってもらった方がいいのかもしれない。


『防具……特注したら高いかな? 金は貯めておいて、市販の買った方がいいか?』


 俺が二人に問いかければ、ティミドは言い難そうに口を開く。


『市販のは……多分トワだと、着たら走れないんじゃないかな……?』


 フレドが便乗して言葉を重ねる。


『トワ、ヒョロいしなー。多少金出してでも、特注で軽いの作った方がいいと思うぜ?』



 悲しいことに市販の鎧は、こちらの世界基準で鍛えた人用に出来ているらしい。俺では来て歩くだけで精一杯だろうと二人に指摘される。


 一応軽い物もあるそうなのだが、そういった装備は防御力が低いそうだ。俺の場合は軽くて、かつ防御力も必要なため、特注がいいだろうとのことだ。


『マジか……市販の値段しか見てなかったな……。特注だと幾らになるかアルマに相談してみるか……』


『そうだね……私も、お父さんにサービスしてねって言っとくね……!』


『ありがとう、ティミド』


 防具は生存率に直結すると言っても過言ではないだろう。ケチらず一番いいものを用意したい。



『はー……金、金、金……だなぁ……』



 今も元の世界の料理は順調に売上を伸ばしているが、圧倒的に人手不足で需要に供給が追い付いていない。


 オセロ大会は一回開催する毎にかなりの金額が動き、俺の取り分も多い。

 しかし、今も10日に1回というかなり高頻度で開催しているため、開催する回数を増やすのは厳しいだろう。



『新しい金策が必要だな……』


『お! また何か始めるのか? 手伝うぜ!』


『わ、私も手伝うよ! 手伝えることあったら、何でも言ってね!』



 俺がぼそりと呟けば、フレドとティミドが心強い言葉をくれる。




『ちょっと考えてるアイディアがあるんだけどさ……』




 ……



 俺が次の金策として選んだのは、音楽と動画だ。



 まず音楽。

 これは俺の音楽プレーヤーに入っている曲を、小さ目のホールのような場所で流し、ダンスパーティーのように踊ってもよし、椅子に座って音楽に耳を傾けてもよし、ライブのように盛り上がってもよし、という感じで入場料を取るつもりだ。


 元の世界でやったら完全に犯罪行為だが、ここは異世界なので問題ないだろう。



 次に動画の方は、短編映画やバラエティ番組のようなものを作り、提供しようと考えている。


 スマートフォンやタブレットで動画を撮り、動画編集アプリで番組風に編集し、プロジェクターに映す計画だ。


 流す内容は事前に番組表のような看板を立て、番組毎に入場料を取る。閲覧希望者が多い場合は抽選だ。




『……こんな感じで考えているんだけど、どうかな?』


『すげぇいいと思う! 滅茶苦茶面白そうじゃん!』


『わ、私も……! 音楽や "ドウガ"、すごく楽しそうだと思う……!』




 俺の考えを二人に伝えれば、二人とも賛成し、協力を約束してくれた。

 音楽は貴族街なら楽器もあるらしいが、平民街にはないそうだ。お試しで聞かせたクラッシックミュージックに、二人とも聞き惚れていた。



『皆にも協力してくれないか、声かけてみようぜ!』



 フレドの提案により、街の人にも協力してくれないか声をかけてみることになった。



 ……



 色々な人に声をかけてみれば、皆『面白そうじゃないか』と快諾してくれ、場所もギルド所有のホールを無料で貸して貰えることになった。


 基本的に二箇所のホールで、音楽プレーヤーやタブレットの充電が持つ限り、音楽や動画を再生し続ける予定だ。


 ソルダが任命した信頼出来るギルドメンバー数人が、各電子機器が盗まれないよう見張ってくれるそうだ。本当に至れり尽くせりで、ソルダには頭が上がらない。



 せめてものお礼として、協力者には売上からギャラを出す予定だ。



 ……



 そんな計画を立てつつ、俺は計画の肝になるプロジェクター製作を行っていた。


 プロジェクターは昔、段ボールと虫眼鏡を材料に自作した経験がある。


 当時、好きなアニメを大画面で見たいが為にプロジェクターを買おうとしたのだが、値段が高すぎて手が出なかったため、作り方をネットで調べて自作した。


 そのため作り方は知っていたのだが、プロジェクターのレンズ部分になる物が思いつかず、ずっと計画を放置していた。しかし、魔力がなくなり透明になった魔石を見て、アルマに頼めばレンズが作れると気付いたのだ。



 段ボールは適当な木箱で代用し、虫眼鏡のレンズの部分をアルマに加工して作って貰う。


 絵でレンズの形を説明つつ、何度も調整してもらいながら理想のレンズを作り上げる。アルマのおかげでレンズも納得のいく物が完成し、後は組み立てるだけとなった。



 内側を黒く塗った木箱の先端に、穴を開けてレンズを嵌め込む。木箱の中にタブレットを立てて置き、他タブレットの画面が逆さまの状態で動画を再生する。


 木箱の位置やタブレットの位置を調整し、スクリーン代わりの白い布に映像を映してみる。



「よし、いい感じだな!」



 多少、映像がボヤケてしまうが許容範囲内だろう。あとは流す動画さえ完成すれば、いつでも計画を実行に移せる。



 ……



 流す動画は、協力者の人達がそれぞれ担当を決めて、準備してくれている。俺は、全体を見て指示を出したり、出来上がった動画の加工を担当する予定だ。



 短編映画製作班は、フレドとティミドを中心に、絵本の中から白雪姫のような話を選び、他の子供達と一緒に練習してくれていた。


 劇の衣装や小道具は、ペールとメールが全面協力したそうだ。


 練習の成果を見せてもらえば、かなり完成度の高い劇になっていて感動したのだが、フレドとティミドのキスシーンがあり、非常に子供の教育に悪いのではないかと思った。



 ―― これ絶対フレドがティミドにキスしたかったから、この話選んだよな?



 少し僻んだ気分になりつつも、劇を通しで動画に撮らせてもらい、タイトルや音楽、演出効果を動画編集アプリで入れていく。



 劇の完成度の高さもあり、かなり良い作品に仕上がった。



 ……



 バラエティ番組製作班は、スティードとソルダを中心とした、男臭いメンバー達だ。


 それぞれが知り合いに声をかけ、オセロをしたり模擬戦をしたり……なかなか熱い戦いが繰り広げられていた。


 途中ソルダが『俺に勝った奴は次期ギルドマスターだ!』と、ギルドメンバーをけしかけたり、一方的な試合にならないよう、変なハンデをつけて戦ったりしてくれたこともあり……なかなかバラエティ番組に相応しい動画が撮れた。


 こちらも動画を編集し、BGMや効果音、手描きのテロップを入れたりして動画を仕上げていく。



 ……



 暗闇の中、完成した動画をプロジェクターに映し、手伝ってくれたメンバー達と一緒に確認する。



『おおお……! 素晴らしい……!』


『これは凄いな……! 俺の顔がこんなに大きく……!』


『……わ、私……こんなの流されたら……お嫁に行けないよ……!』


『俺が嫁に貰ってやるから大丈夫だろ?』



 皆口々に驚きの声や、感嘆の声を上げる。一部バカップルは闇に乗じてイチャイチャしていたが。



『どうかな? いい感じ?』


『いやー! 想像以上だ!』


『素晴らしいな! 早く街の皆にも見せたいものだ!』


『……わ、私は、見せたくないです……』


『すげぇな! 早く流そうぜ!』



 動画の再生が終わり、俺が皆に問いかけてみれば、皆一様に称賛してくれた。実際のホールで試してみたが、自作プロジェクターもなかなかいい仕事をしている。


 あとは街で宣伝して、計画実行日の当日を待つだけだ。




『よし、異世界テレビ計画、準備完了だ!』





 異世界生活320日目、俺、渡永久は商売人からプロデューサーにジョブチェンジした。



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※注意※

本文で書いている通り、勝手に音楽を使用して

入場料を取るような行為は犯罪になります。

絶対に真似しないで下さい。

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