リアニメイト・リンカネーション

有等

第一話 Awakening

1-1

|ある時、世界は終わらせられた。

 それを行ったのは、四人の“聖女”《クイーン》と呼ばれる存在。



 “聖女”《クイーン》達は寿命に瀕していた世界を終わらせ、そして“再生”《リザレクション》した。

 “再生”《リザレクション》の代償として、世界は一度終わり、世界には“残骸”《レック》と呼ばれる奇怪な物体が蠢くようになった。



 それは人であった物。人でなくても生命であった物。それら全てが“再生”《リザレクション》の後に混じり合い、溶け合い、再び分かれて地上を歩く。

 しかし、この地球上の支配者は未だ人間だった。



 彼らは一度終わった世界を再び作り直し、何事も無かったかのように国を再建し、もう一度国境を引いた。その中身はこれまでの物とは異なってはいたが、それでも収める箱の形を変える事を彼らは選ばなかったのだ。



 だが、“残骸”《レック》と“虚法”《マホウ》と呼ばれる新たな力がそれに暗い影を落とし、それまでの世界とは異なる事を強く現していた。

 そして、それはかつて東京と呼ばれた土地においても、同じだった。 

 



 『REC』

 赤いランプが視界の端に灯るのを確認すると、大場草太は目を開ける。最初に見えたのは星空と紅い月だった。



 彼は今、上空数千メートルに居た。飛び降りているのだ。自殺か? 否。

 辺りを見回せば、上空数千メートルから舞い降りた者は草太の他にも存在し、彼の頭上には彼らを投下した後に飛び去っていくVTOL輸送機の姿が見える。



 彼は風を感じながら身体の向きを変え、眼下の世界を見下ろす。だが、夜闇に包まれた世界は、彼の目では見通すことが出来ない。

 仕方なく彼は顔の横にあるセンサーを切り替えた。すると、増幅された光によって眼下の光景は鮮明な姿となり、壊れた世界がよく見える。



 崩れ落ちた高層ビル、裂けた道路、その形を保っていない橋桁、そして所々にぽっかりと空いた、地の底へと続く底の見えない穴。

 いつも通りの光景だ。そして、いつも通りのよい風だ。彼は風を感じる為に手を、腕を広げる。



 草太は視界の端に映り込んだ高度計が二千を切った辺りで、何百回と繰り返された手順通りに着陸地点を定め、その方向に向かって身体を動かし、滑空し始める。

 彼が選んだのは未だその形を保っているビルの屋上で、巨大なHマークが暗視ゴーグルを通して見通せる。



 そして、これまでと同じタイミングでパラシュートを開く。減速による強烈な反動が彼の身体に掛かるが、今はそれすら心地よい。



 ゲーム開始だ。



『Amon、今日も期待してるぜ』

『専用ギアの調整終わり。大事に遣うように。.ES』

『例の大物潰してくれよ!』

『アイツは譲らないぜ、俺のケツを眺めてろ! .Griffin』



 通信阻害が行われている機内から、“残骸”《レック》の発する妨害電波による通信妨害が行われている高度までの僅かな間、草太の視界の端に、様々なメッセージのアイコンがポップアップする。送信者は彼のファンやライバル達だ。

 彼が行っているのはスポーツであり、ゲームに他ならない。



 それは“残骸”狩り《レックハント》と呼ばれている。

 そしてこのゲームでの彼の名前はAmon、悪魔の名前を冠している。

 これは、今は一種のスポーツとして全世界の旧死骸地(“残骸”《レック》は旧時代の人口密集地帯に多く存在している為、こう呼ばれている)で選手全員に装着されたウェアラブルカメラ、そして選手たちに追随するドローンによって全世界へと配信され、この世界の娯楽の一つとして楽しまれている。



 そして、今草太が出場しているこの“残骸”狩り《レックハント》は一番の花形、夜間強襲ナイトライドと呼ばれる空中降下から脱出までを短時間でこなす戦闘密度の濃い花形競技であった。



 草太はこの“残骸”狩り《レックハント》のS++クラスライセンス、つまりは旧東京死骸地に降下することの出来る数少ない実力者であり、スポンサーすら付いているプロであった。



 夜間強襲ナイトライドのルールは単純。“残骸”《レック》を倒し、その脳に当たるコアを取って脱出する。

 “残骸”《レック》のコアはテクノロジーの集合体であり、幾らあっても足りることはないというのが、このゲームの主催者の主張だ。



 そうこうしている内に、草太は屋上へと辿りつく。パラシュートを脱ぎ捨てつつ、彼は迷わずにビルの屋上からもう一度飛んだ。

 ヘッドアップディスプレイに地図を展開し、今回のオブジェクト地点を確認すると、彼は降下しながらビルの壁を蹴る。腕に装着されたワイヤーロープを射出し、それを隣のビルに装着する事で、ラペリング降下の要領で勢い良く降下していく。 



『Object:414m』

 地上に降り立つと、ディスプレイに映し出された目標までの距離と方向に向けて勢い良く駆け出す。 



 そして草太は間もなく姿を見せた六足歩行の強大な“残骸”《レック》に狙いを定めた。今日の獲物はこいつだ。その巨体から報酬は三桁台後半である事は間違いない。

 この“残骸”《レック》もまた、通常の“残骸”《レック》と同じく毒々しい色の外皮から機械の部品が突き出し、生物の皮を被った機械という“残骸”《レック》らしい姿となっている。この“残骸”《レック》が模しているのはその形態からして百足か何かの昆虫類であろう。



「相変わらず気持ち悪い姿してるな!」

 この巨大“残骸”《レック》は草太の姿を認めると、その強大な尾を彼に向けて叩きつける。



 それを視認してから、軽やかに回避した彼は背負っていた大型の銃を“残骸”《レック》へと向ける。ロック解除を行い、ライフル自体に内臓されたエンジンが唸りを上げるのが分かる。

 彼の武器は神戸重工業社製、二八式電磁投射銃パルスライフル。“残骸”《レック》に対する武器の中でもオーソドックスなアサルトライフル式の装備である。



 だが、彼はこれにツインエンジン化や大型のドラムバッテリーの装着という異様なまでの改造を施し、更には彼の名乗るファイターネーム、“アモン”という悪魔の名前に相応しい毒々しい意匠と装飾を施していた。 

 そしてライフルからその余りにもゴツゴツしい外観からは想像も出来ないほどに軽い射撃音が鳴り響く。

 草太の身に着けているデバイスによってドラム式のバッテリーの残弾数は管理され、残エネルギーが刻一刻と減っていくのが目に見える。



 銃撃を受ける“残骸”《レック》は苦しみ、悶えながらも尚も草太へと攻撃を繰り出す。だが、その攻撃を完全に読み切っていた彼に当たることはない。尾がコンクリートを砕き、その破片が飛び散る中、トドメとばかりにその尾を足場にして飛び上がり、“残骸”《レック》の背へと着地する。

 今のは大盛り上がりだろうな、と草太が考えながら足に刺したナイフを抜き取った瞬間だった。



 彼は吹き飛ばされ、身体が砕かれるのを感じた。胸に掛けての強い衝撃、その後に右眼の視覚の消失。



「クソッ、クソッ!」

 怒りながらも残った左眼に火器の管制データを移動させながら、状況の把握を行う。何が起きたのか? 



 原因はすぐに分かった。背に当たる部分から外皮を突き出して生えていた人の手のような“残骸”《レック》のパーツだ。アレに気が付かなかったのだ。

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