第97話私はこれで
《ごめんね》
スズは水を槍状に圧縮し、キメラに放ち地面に固定する。
「ライちゃん、スイちゃん、キメラをそこから動かないようにして」
スズはライとスイに指示を出し、ライとスイはその指示どうりに、動こうとするキメラを静止する。
そして、スズはキメラに刺した槍を変形させ圧縮された水のナイフを4本作り、キメラの足元に刺し、固定する。
「狼化」
スズは自身の体を狼にの姿にする。そして、鋭い爪でナイフを抜こうとする肌色のロープを切り裂く。
「キシャャャァァ」
その時初めてキメラが悲鳴を上げる。その声の大きさは地盤を割るほどにまで大きく、スズ達はこのキメラの悲鳴が大きいことを知っていて耳をとっさに防ぐが、それでも耳が聞こえなくなり、ひどい頭痛を覚える。
「分身体」
ライはとっさに分身体を作り、分身体にキメラと戦わせ自分は少し休む。
これが最善の手だろう。なぜなら、スズやスイは声の影響のせいで今はまともに方向感覚を保っていられるはずがなかったからだ。
「キシャァ」
キメラはまた声を出すのかと思いきや、自分の体から肌色のロープを伸ばし、人狼達が入った檻に向かう。どうやら、スズ達との戦闘で消費した肉体を再生するために檻の中の人狼を吸収するつもりのようだ。
だが、それにいち早く気づいたスズがおぼつかない足取りで走り、無敵を使い肌色のロープを弾く。
だが今度は、キメラから十数本物肌色のロープが放たれる。
『この数は私だけじゃあ防げない。かと言って仲間を見捨てることもできないし、檻の中にいる人たちは特殊な檻のせいで異能力が使えない』
スズはそう考えながらも、体を動かし肌色のロープの対処に向かう。
スズは檻の中の人狼に当たるギリギリでなんとか大半を凌ぐ。そして、最後の一本だと思い、これも同様に弾こうと近づく。
スズの選択の間違いはその瞬間だった。
スズは最後の肌色のロープに触れた直後、自分にかけていた無敵が解除されたことに気づく。
「しまった」
スズの体は高速で肌色のロープに吸収されて行く。
「スズ姉!」
ライの分身体がライの指示の元スズを取り込もうとしていたロープを切断する。だが、もうすでにスズの下半身は吸収されていた。
「スズ姉!」
すぐに駆け寄ろうとするライとスイとエト。
だが、スズはそれを止める。
「私に構わなくていいから、エトはさっき頼んだことに集中して。ライとスイはキメラをあの馬車から一歩たりとも動かせちゃだめ」
エト、ライ、スイは多少ためらうが、すぐにキメラの方へ向き直る。
「スイお姉ちゃん、・・・・・になった時はその異能力でお願い」
エトは何かスイに頼む。そして、スイは首を縦に振り頷く。
「私も、早く動かないと」
スズは水を操り水でできた足を作る。
だが、この中で一番脅威とキメラは判断したのか、スズが水の足を作った直後すぐに肌色のロープを飛ばし、水を弾くと同時に吸収する。
「やばい、体制が」
スズの体が地面に落下する。それと同時に一本のロープがスズめがけて飛んでくる。
「合成!」
だがそれもムイの一言によって止まる。
そして、キメラがスズに吸い寄せられて行く。
「キュァァァ?!」
キメラは辺りを見回す。そして、エトが放つオーラを見つけ、エトがこの状況を作っている者と判断し、肌色のロープを放つ。
だが、肌色のロープはエトを通り抜けた。
「こっちだよ」
そう言ったのは、スイの上に乗っているエトだった。
「これで終わりです」
エトがそう言った直後、キメラがスズに完全に吸い込まれて行く。
直後、スズの体は赤く染まる。
「これで、私の目的は果たせられる」
スズは身体中の血を全て集め、一本の剣に変える。
「エト、ライ、スイちゃん達、後はよろしくね。そして、フェルトさんたちにありがとうと伝えてね」
その言葉を聞いて、ライとスイはスズを止めようとスズの元へ向かう。だが、エトだけは、まるでこうなることを知っていたかのように俯いたままスイの上に乗っている。
「アクアさん、今から私もそちらに行きますね。そしたら、いっぱいおしゃべりしましょうね」
赤い血の剣はスズの体を頭から突き刺した。
《そろそろダメかも》
ジルとハイドがここでは戦っている。
二人はすでに消耗しきっており、さらにジルは左腕を千切られていて、ハイドは右目がえぐられ、右目をつぶっていた。
「ハイド、こんな時にいうのはなんだけど、大好きだよ」
「・・・・・・」
ハイドが珍しく感情を顔に出す。その顔は赤くなっていた。
「本当になんでこんな時にいうのかな・・・でも、私もジルのことは好き。ずっと前、研究所にいた時から大好き」
「僕も研究所にいた頃からハイドのことは大好きだよ」
ジルとハイドは今日この戦場で初めて自分の思いをはっきりとお互いに伝える。
「じゃあ、今から私たちは恋人だね」
「そうだね・・・・」
ハイドはここが戦場だということは忘れていないだろう。ましてや、何かの冗談を言っているわけでもない。それは、ハイドは叶わないと思っていても、一度はジルに言ってみたかった言葉だった。
「私はジルが行くところならどこまでもついて行くよ。それがたとえ地獄でも」
ハイドは
「ありがとう。でも、せめてハイドは生き残ってもらいたいな」
ジルは絶対に二人で生きて帰ろうなんて言葉は言わなかった。なぜなら、この状況ではそんな希望がないことはわかりきっていたからだ。
だからせめて、ハイドだけは逃がそうと考えている最中だった。
「そんなことされても嬉しくないなぁ。だって、ジルがいなかったら私は自殺しちゃうから。どっちにしろそんなことしても意味ないよ。逆に、私に絶望を与えるだけ」
ハイドの言葉を聞き、ジルの頭からハイドを逃がそうとする考えが消える。
「フェルトくんとは絶対に死なないと約束したけど、果たせそうにないね」
「そうだね。そこはフェルトさんに謝るしかない」
ジルとハイドは微笑み合う。そして、お互いを殺そうとしている敵を蹴散らす。
「まだ、あと男体残ってる?」
「いっぱい」
「それなら、もっと頑張らないとね」
ジルとハイドはそれ以降は言葉を話さない、だが、二人は幸せそうな顔をしていた。
そして、
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