第96話地下の牢獄の中



 スズ達は今地下へと続く階段を下りていた。


「ここも懐かしいなぁ、あんまいい思い出はないけど」


 スズは一人呟く。


「「スズ姉、そろそろ着く」」


 ライとスイが同時にそう言う。

 スズは本当にこの子達はいつも言うタイミングと言うことが同じだなと思い微笑む。


「ついた」


 そこには大きな檻が大量にあり、その中には人狼、エルフ、龍人といった実験で作られた様々な種族がいた。


「スズ、スズなのか?!」


 檻の中の一人、人狼の男がスズの名前を呼ぶ。


「本当だスズだ!」

「よかった生きてたんだ」

「スズだけじゃないぞ。ライやスイ、エトもいるぞ」


 檻の中にいるいる人たちが次々に歓声をあげる。


「おい、それどころじゃねえぞ。忘れたのか? ここには化け物がいるってことをよ」


 檻の中にいる一人の龍人がそう怒鳴る。直後、先ほどまでの歓声は嘘のように静まり返る。


「スズ、エト達を連れて戻れ。今ならまだ帰れる。あの化け物達が来る前に早く逃げるんだ。お前らは唯一ここから出られた俺らの同胞だ。だから、生きろ」


 男がそう言った直後、部屋の奥の方から気味の悪い奇声が聞こえる。


「ち、もう来やがった。スズ早く逃げろ!」


 男はそう言うが、スズは逃げない。それどころか奇声の聞こえた方へ歩いていく。


「おい、聞こえなかったのか?! 早く逃げろって言ってんだよ! エト達も早く逃げろ」


 男は大声を出し、奇声のした方へ歩いていくスズを止めようとする。だが、覚悟を決めたスズには届かない。


「ごめんね。私、ここにいるみんなを助けるって決めたから。だから絶対にここで逃げるわけにはいかないんだ。だから待っててね、私がここにある檻全てを開けれる鍵を奪い取って来るから」


 スズは檻の中にいる同胞達に笑いかける。


「す、すまない。この檻のせいで俺たちも参加できなくて」


 違う檻の中にいる一人、エルフの男がそう言う。


「別にいいよ。だから、見守っていてね。私は強くなっただからみんなを助ける」


 スズはここに来る時に持ってきていた水を全て取り出す。その数は2リットル入るボトル10個だ。


「スズお姉ちゃん。私も参加する。後方支援しかできないけど未来視の異能力は使えると思うから」


 エトがスズの後をついて行きそう言う。


「「我らも行くぞ。我らとて何もしていなかったわけではない。龍化とフェルトに与えてもらった異能力、十分に発揮させてもらうぞ」」


 ライとスイが長文にもかかわらず全く同じことを言う。

 やっぱり、この二人はすごいなとスズは内心思う。


「じゃあ、行くよ」


 スズがそう言うと、エト、ライ、スイは首を縦に振りうなずく。


「きしゃぁぁぁぇぇぇ」


 そして、奇声を出していた生き物が姿を現す。


「これはまた随分と同胞を吸収してくれたな」

「まがまがしさがさらに増すとは、恐ろしいものよ」


 奇声の主人は人狼、龍人、エルフなどの種族を取り込んだキメラだった。

 その姿はもはや人の形を保ってはおらず、ただの肉の塊が動いているようにしか見えず所々に人狼などの特徴的な耳がある人間の顔が見られたり、龍人の特徴的な羽が生えている人が上半身だけくっつけたかのような状態で取り込まれている人もいた。


「エトちゃん、未来視で指示をお願い。ライとスイは龍化しながらあいつを攻撃、絶対に取り込まれないように」


 スズはエト達に命令をだし、自分は水を操る。


「水よ槍となって貫け水槍ウォーターランス


 スズの操っていた水が槍の形になりキメラの体の中心を貫く。

 だが、キメラは貫かれたところをすぐに再生してしまう。


「やっぱりこれぐらいじゃあ倒せないか」


 スズは槍状の水を分解し、長方形の板に変える。そして、それを操り高速でキメラの頭部へとぶつける。


「ぐしゃ」


 肉が潰れる音とともにキメラの右半身が潰れる。どうやら、水の板が当たる直前に左に避けたようだ。


「「再生する前にやってしまうぞ!」」


 ライとスイが時間を開けずにキメラに食いかかろうとする。

 だが、キメラはライとスイがキメラに攻撃する直前に右半身から肌色のロープみたいなものを出し、ライとスイを縛り、自分の体に引きずり込もうとする。


「危ない!」


 スズはとっさに水を変形させ、さらに剣の形に水を圧縮しキメラから伸びている肌色のロープを断ち切る。

 だが、次の瞬間。ライとスイは助かるが、キメラの左半身からも伸びていた肌色のローブにスズが捕まり、ものすごい速さでキメラに飲み込まれて行く。


「「スズ姉」」

「お姉ちゃん達、ちょっと待って」


 ライとスイはスズを助けに行こうとするが、エトが二人を止める。


「スズお姉ちゃんは生きてる。あいつの体内で無敵を使っているから三分間はもつ」


 エトはなぜ止めたのか理由を二人に説明する。


「「だが、早く助けには行くべきであろう?」」


 ライとスイはエトに尋ねる。だがエトは『大丈夫』と言う。

 直後、キメラの再生しかけていた右半身が破裂し中からスズが血まみれで出てきた。


「危なかった。とっさに無敵を発動していたからよかったけど、無敵がなかったら一瞬で死んでた」


 スズはエトの近くまで飛び、刀状の水を分解し中に浮遊させる。


「エトお願いがあるんだけど・・・」


 スズは何かをエトに伝える。直後、エトの表情が暗くなった。だが、エトは首を縦にふる。


「じゃあ、お願いね」


 スズはエトにそう言うと、水を槍の形に圧縮しキメラに向かって行く。

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